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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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国王との謁見①

リリアーナの入室が許され、重い扉が音を立てて開いた。彼女が進み出ると、上段の玉座に座る国王が、鋭い眼差しで彼女を見下ろしていた。


「リリアーナをお連れしました。」

側近が恭しく国王へ告げる。

国王はゆるりと頷き、深みのある声で言った。


「リリアーナ。そなたの“治癒能力”が秀でていると、余の耳に入った。……少年の目を見えるようにしたという話も聞いておる。それは、誠か?」


視線の圧に耐えながら、リリアーナは裾を握りしめ、丁寧に頭を下げた。


「恐れながら申し上げます。あの治療は、私ひとりの力ではございません。仲間の助力があり、共に成し得たものです。」


国王はじろりとリリアーナを見たあと、部屋の端へ視線を滑らせた。そこには、騎士団長が険しい顔で黙って立っている。


「……事実かどうか、余には判断がつかぬ。」

国王は再びリリアーナへ目を向け、続けた。

「一昨日、訓練中に怪我をした兵士がおる。

その者の治療を頼めるか?」


「……それをお求めであるなら。」

リリアーナは静かに答えた。


緊張と覚悟が、彼女の声の奥に宿っていた。


一人の男が、緊張した面持ちでリリアーナの前に進み出た。片腕は肩から布で吊られ、動かすたびにわずかに痛みが走るのか、眉を寄せている。


「乗馬しての訓練だったのだか、馬が突然暴れた。落ちた時に怪我した様だ」

騎士団長が男に寄り添いながら、リリアーナに説明した。本人は、恥ずかしそうに視線をそらした。


「失礼します。少し、触れますね。」

リリアーナはそっと布越しに腕へ手を添えた。

……骨折。明らかに“繋がっていない”部分がある。


(繋がりますように。周囲の傷んでいる部分も、どうか一緒に癒えて……)


静かに祈りを捧げると、リリアーナの魔力が柔らかく動き始めた。手のひらから伝わる光は、ゆっくりと折れた骨へ染み込むように広がり――しばらくののち、リリアーナは手を離した。


「……おそらく、治ったかと思います。」


騎士団長はすぐさま兵士へ確認した。


「どうだ?」


兵士は腕をそっと動かし、目を大きく見開いた。


「痛みが……全くありません……!」


驚きと安堵が、その表情に同時に浮かんだ。

国王は腕を組み、ゆるりと言葉を放つ。


「まあ、その程度なら並みの治癒能力者でも、時間をかければ出来る。……だが、今の“速さ”は良い。」


高い玉座から、評価と興味が混ざった声音でリリアーナを見下ろしていた。その時、国王の側近がそっと国王へ近寄り、耳元で何事かを囁いた。


「──何だと」


国王はわずかに目を見開いた。


「国王、私も立ち会いに参りましたわ」


柔らかな声が扉口から響き、王妃が数名の付き人を従えて入室した。


「……まだ、許可を出していないのだが」


国王は眉を寄せる。

王妃は一歩進み、微笑を崩さずに言った。


「私に隠すようなことなのですか?」


「いや、それはないが……」


「それでは問題ありませんね。ところで、今は何をしていたのです?」


問われ、騎士団長が前に出て答えた。


「この者の骨折を治してもらいました」


「そう。それだけでは力量を測るには少々難しいわね……」


王妃はゆっくりとリリアーナへ視線を向けた。


「リリアーナ、こちらを治せるかしら?」


王妃が目で合図を送ると、付き人の一人──品の良い初老の男性が静かに前に進み出た。


「彼は、目と腰に問題があるの。どうかしら?」


王妃は探るような眼差しでリリアーナを見つめながら言った。


「見てみないと分かりませんが、最善を尽くしたいと思います」


リリアーナが答えると、初老の男性が静かに前に進み出た。


「少し、失礼します」


リリアーナはまず男性の腰へそっと手を当てた。しかし──よく分からない。自分自身の腰に意識を向け、魔力を巡らせて感覚を確かめる。そして、それを基準に男性の腰との違いを探る。

……骨と骨の間が、近い? あるべきものが足りていない……?

リリアーナは魔力を込め、祈るように願った。


「足りない部分よ、補うように……」


異常と感じる箇所が癒えるよう、丁寧に魔力を流し続ける。それは思った以上に時間がかかり、額にはいつしか汗が浮かんでいた。


やがてリリアーナは顔を上げた。


「……では、次に目を見てみます」


彼女はそっと男性の瞼へ指を添えた。しかし、魔力の流れを見ても、自分の目と比べても、まるで理解できない。冷たい汗が背を伝う。いったん手を下ろし、慎重に尋ねた。


「……目を見てもよろしいですか?」


「はい」


男性がうなずく。リリアーナはそっと瞼を押し上げ、瞳を覗き込んだ。


……濁っている。ラニアの澄んだ瞳とはまるで違う、霞がかった光。

瞼を閉じ、もう一度手を当てる。


「あの濁りが……取り除かれますように……」


それは再生の祈りに近かった。リリアーナは再び長く沈黙し、魔力を注ぎ続けた。だが──


「……まだなのか?」


国王がわずかに苛立ちを混ぜて言った。それでも、リリアーナは止めなかった。もうしばらく、静寂が続いた。


「……私には、ここまでです」


リリアーナはそう告げた。

全身には汗がにじみ、消耗がそのまま姿となって現れていた。

王妃は初老の男性へ視線を向け、静かに問いかけた。


「どうかしら?」


男性はしばらく瞬きをし、感嘆したように口を開いた。


「……くっきりと見えます。王妃様、随分と大奥様に似てこられましたね」


「余分なことは言わなくていいわ。腰はどうなの?」


ぴしゃりと言い放つ王妃に、初老の男性は苦笑しながら上半身をひねり、続けて前後にも動かしてみせた。


「……痛みが、なくなりました」


驚きを隠せない表情が、その言葉の信憑性を裏付けていた。


「ほう。それはすごいな」


国王が低い声を漏らす。


「しかし、一瞬だけ痛みがなくなるという治癒もある。腰については、しばらく観察が必要だろう。だが、目に関しては──類を見ない治癒能力の高さだ」


国王は満足げに頷くと、リリアーナに視線を向けた。


「リリアーナ、そなたを余の直属の治癒師として取り立ててやろう。治癒能力者としては、この国で最高級の待遇だ。どうだ」


堂々と告げるその言葉が、リリアーナの耳に届いた瞬間──彼女は固まった。

まるで身体の奥まで凍りついたように、動けなかった。


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