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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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影は動いた

翌朝。


セラフィーネは食卓で軽く朝食を終えると、静かに口を開いた。

「これから、技術者と泉へ行ってくるわ」


周囲が一瞬、静まり返った。


「泉に?」とエドモンドが眉をひそめる。


「ええ。魔力溜まりも研究の対象だし、私自身、もう一度現場を見て考えたいの。……何か出来ることがあるかもしれないから」


エドモンドは逡巡し、やがて言った。

「俺は……案内は難しい。昨日、行ったばかりで……」


「大丈夫。道はだいたい覚えているわ」

セラフィーネはそう言って立ち上がった。その瞳には、迷いのない光が宿っていた。


朝食の後、準備を整えたセラフィーネと技術者は森へと向かった。冷たい朝の空気の中、彼女の背筋はまっすぐ伸びていた。



城に残ったリリアーナは、久々に日差しの下で庭を歩いていた。

かなり長いあいだ眠っていたことがわかり、育てていた薬草や甘甘草の様子を確かめなければならなかったのだ。

草丈、葉の色、株の増え具合、土の湿り気、――ひとつひとつ確認しながら、彼女は静かに手を動かしていた。


そんな彼女の様子を、少し離れた場所からエドモンドが見守っていた。彼の視線には、どこか不安と安堵が入り混じっている。


「無理をしてないか?」

そう声をかけると、リリアーナは小さく笑って頷いた。



その頃、オルフェウスとマルグリットは執務室で話し合っていた。リリアーナが戻ったことで一安心はしたものの、問題はまだ山積みだった。


「これから、どうするべきでしょう」マルグリットが静かに言う。


「ラディンとラニアを、このまま放っておいて、良いものだろうか?」

オルフェウスは机に両肘をつき、眉間に皺を寄せ、続けて呟いた。


「セラフィーネが泉へ行った。彼女が何か掴めればいいが……」


そのときだった。

勢いよく扉が開かれ、兵士たちが雪崩れ込んできた。


「何事だ!」

オルフェウスの声が鋭く響く。


だが、兵士たちの動きは容赦がなかった。先にマルグリットが取り押さえられ、腕をねじ上げられる。


「抵抗するなら、マルグリット殿の保証はできません!」


その言葉に、オルフェウスは即座に動きを止めた。

兵士たちの奥から、一人の男が進み出る。

その姿は王の使者を思わせる、黒衣に金の飾りをつけていた。王の勅命を受けている印を見せながら、男は言った。


「オルフェウス、マルグリット。二人には、王命に反してリリアーナを隠蔽した疑いがかけられています」


「な……何だと?」オルフェウスが絶句する。

マルグリットも目を見開いた。

「そんなはずはありません! 昨日まで、リリアーナの居場所すら……!」


「リリアーナが、昨日、城にいたことは確認されています」

男は冷たく告げた。


「無駄な抵抗はしないでください。王命です」


静寂が落ちた。オルフェウスは拳を握りしめたまま、ゆっくりと視線を上げる。その目には怒りと、どうしようもない無力感が入り混じっていた。


男は、影本人だった。表での仮の姿のひとつだ。本来ならば、誰か代役を立てて動かしたかった。しかし、リリアーナがその間に再び消えてしまっては意味がない。自分が、出るしかなかった。


影は冷ややかな声で命じた。

「リリアーナを連れて来い」


その言葉に、兵士たちは素早く動き出した。鎧の擦れる音が廊下に響き、複数の足音が分かれて城内へと散っていく。



庭の一角では、リリアーナが薬草の確認をしていた。朝露の残る葉をそっと指で撫でながら、彼女は小さく息をついていた。その少し離れた場所で、エドモンドが見守っている。


ふと、廊下の方から複数の足音が聞こえた。

エドモンドが振り返ると、数名の兵士がまっすぐこちらへ向かってくる。


「何をしている?」

低い声でエドモンドが問う。


「リリアーナを探している」

兵士の答えに、エドモンドの表情が一瞬強張った。その一瞬を、兵士は見逃さなかった。エドモンドの視線がわずかに横へ動く。――その先に、リリアーナの姿。


「……あそこだ!」

兵士の一人が叫び、駆け出した。


「待て! 何をするつもりだ!」

エドモンドが立ちはだかる。


兵士が短く言い放った。

「その髪と瞳の色…エドモンドですね。あなたにもリリアーナ隠蔽の疑いがかけられています。抵抗すれば、王への反逆者と見なします」


「なっ……!」

エドモンドは息を呑んだが、兵士たちは容赦なく腕を押さえ、拘束していく。「離せ!」と抵抗しようとしたが、数人がかりではどうにもならない。


その様子を見ていたリリアーナは、蒼ざめた顔で立ち尽くしていた。

兵士の一人が彼女に向き直る。


「貴女が、リリアーナ殿ですか?」


「そう、ですが」

リリアーナは戸惑いを隠せずに答えた。


「リリアーナ殿、手荒なことはしたくありません。どうか、執務室までご同行ください」


リリアーナはエドモンドを見た。

視線が交わる。エドモンドは、痛みをこらえるように小さく頷いた。


「……わかりました」


リリアーナは抵抗をする、という手段を捨てた。そして、兵士たちに囲まれ、拘束されたエドモンドと共に歩き出した。



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