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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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ラディン達、北の領地に着く

ラディンたちが北の領地へ戻ったときには、すでに夏の気配は薄れ、冷たい風が吹き始めていた。


セラフィーネは約束通り、毎日欠かさずセレナと遠隔会話をしている。その微笑ましいやり取りを、ラディンと技術者は温かく見守っていた。


そして――ようやく帰り着いた北の領地。

だが、その空気はどこか沈んでいた。


「……着いたのはいいが、妙に暗いな」


城門をくぐりながら、ラディンは小さく呟いた。人々の足取りは重く、笑顔の影も見えない。とりあえず王領主城の奥へと向かい、オルフェウスに帰還の挨拶をする。


「時間がかかりましたが、ただいま戻りました。ラニアについて詳しく調べるため、島の技術者を伴っております。ラニアが作った玉は、こちらで好きにして良いそうです。あと、木の魔物の種は、厳重に保管しました」


預かってきた木の魔物の種を取り出し、ラディンは差し出した。


しかし――オルフェウスの反応は、異様なほどに鈍かった。


「そうか。遠方までよく来てくれた……だが、まず伝えねばならぬことがある」


その声音には、深い影が落ちている。


「リリアーナとラニアが――行方不明なのだ」


重苦しい沈黙が広間を満たした。

ラディンの胸に、嫌な予感が鋭く突き刺さる。セラフィーネもまた、息を呑んだ。

オルフェウスは、感情を抑えた声で淡々とラディンが島へ旅立った後から現在に至るまでを、話した。


「……以上が、今の状況だ」


オルフェウスは静かに言葉を締めた。


あまりに多くの出来事が、一度に突きつけられた。ラディンとセラフィーネ、そして技術者は互いに顔を見合わせ、何を言えばいいのか分からず立ちすくむ。


「では――今はリリアーナも、ラニアもいないと」


絞り出すように、ラディンが言った。


ただ、それだけを確認するのが精一杯だった。



「エドモンドが、リリアーナ探索の中心となっている。もし二人について心当たりがあるのなら――教えてほしい」


オルフェウスの言葉に、三人は言葉を失った。心当たりなど、どこにもない。


――だが、ラニアに会いにここまで来たのだ。このまま手ぶらで帰るわけにはいかない。


「とりあえず、エドモンドに話を聞くか」


ラディンが静かに言い、三人は城内を歩き始めた。


城の者に居場所を尋ねると、誰もが声を潜めて答えた。


「……多分、あそこだろう」


案内されたのは、調剤室。リリアーナがいつも過ごしていた場所――

今は、エドモンドが机に広げた地図を前に、ぼんやりと佇んでいる。


「エドモンド、今いいか?」


その声に、彼はゆっくりと顔を上げた。


「戻ってきたんだな」


感情の欠片もない声。疲れきった目だけが、真実を物語っている。


「ああ。話を聞いた。リリアーナとラニアが、行方不明だと」


一言告げた瞬間、エドモンドの表情が崩れた。ぐしゃりと歪み、苦しみを押し殺すような顔になる。


「……そうだ。薬草を採りに行ったまま、戻らない」


重い声で告げると、地図へ視線を落とした。


「すべての場所を探した……そのつもりだ」


落胆を隠せず、拳が震えている。


その静寂を破ったのは、技術者だった。


「あの、ラニアについて伺いたいのですが。よろしいでしょうか?」


「……何をだ?」

エドモンドが顔をしかめる。


「ラニアがリリアーナに植え付けられた種から育ったと聞きました。その成長期間や、リリアーナの体調など――詳しく知りたいのです」


……この状況で、それを聞くのか。

ラディンもセラフィーネも、信じられないものを見るように技術者を見つめた。


だが技術者は、邪な気配など一切なかった。

ただ純粋な興味と使命感に突き動かされている――それだけ。


彼は書き記す道具を取り出し、目を輝かせて言った。


「島を離れてからの経緯を、詳しくお願いします」


エドモンドは深いため息をつく。重く、疲れ切った吐息だった。


「……いいだろう」


そう言って、椅子を三つ用意し始める。


「長くなる。座って聞いてくれ」


静かに、ただ静かに。

新たな話が幕を開けようとしていた。


エドモンドは、ゆっくりと語り始めた。


船の上では、何ひとつ異常はなかった。領地へ着いてからもしばらくは――いつも通りだった。


だがある日、リリアーナが「違和感がある」と口にした。それを境に、彼女の体力は徐々に奪われていった。…ラディンが訪れた頃には、ほとんどベッドから動けないほどだった。


ラディンが持参した器に、リリアーナの魔力を込めた玉を中に入れ、ラニアになる前の存在をそこへ移した。

そして、模様の描かれた布を巻きつけた。

移してから、リリアーナは嘘のように回復した。


しかし、布がほどけたとき。


お雪様が器へ吸い込まれるように向かって行った。その直後には、ラニアが生まれていた。


エドモンドが語り終えると、

その場には深い沈黙が降りた。


最初に息をついたのは技術者だった。


「そんなことが起こるなんて……。人間の血と、精霊の精神が……混ざり合う?ありえるのですか、そんなことが!」


高鳴る声。震える手。興奮を隠そうともしない。だが、ラディンが静かに言葉を重ねた。


「ラニアが存在している。それが事実だ。

ただ……ひとつ、気になることを言っていた」


「気になること?」

技術者の目が向く。


ラディンは、あの日の記憶を思い返すように目を伏せて言った。


「“魔力も、血も、時間も……足りなかった”と。ラニアは、生まれたときそう言った」


技術者は言葉を失った。

眉間に深く皺を寄せ、沈黙が落ちる。


そして、ぽつりと洩れた。


「……もしかして本当は、もっと多くの魔力と血を必要としていたのに――早く、誕生してしまった……?」


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