表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

134/285

リリアーナとラニア、その日

リリアーナとラニアは薬草かごを手に、森へと歩みを進めていた。冬になれば採取できない薬草も多い。薬を調合したいリリアーナにとって、今日の採集は欠かせないものだった。


そんな折、ラニアがふいに言った。


「エドモンドと結婚したら、リリーは幸せになるの?」


「…生活は、あまり変わらないと思うけど、きっと幸せなんだと思うよ?」

リリアーナは幸せそうに笑った。

それを見て、ラニアは一瞬動きを止めた。


「…ねえ、リリー。ぼくの生まれたところ、行ってみたい?」


「うーん……気にはなるけれど、遠いならやめておくわ。」

リリアーナは薬草を摘みながら曖昧に答える。するとラニアは即座に言った。


「そんなに遠くないよ。ねぇ、行こうよ」


押しの強さに、リリアーナは肩をすくめる。


「……そんなに言うなら、ちょっとだけ、ね」


「こっちだよ」

そう言うなり、ラニアはリリアーナの手をぐいと引っ張った。


「ちょ、ちょっと。速いってば」


リリアーナは慌ててついていく。二人はどんどん森の奥へ、陽の光も届かぬ深い場所へと入っていった。さすがに不安が胸をよぎる。


「ねえラニア……戻ろうよ。ここ、危険だよ」


「もう少しだよ。ほら、見えた」


ラニアが指さす方を見た瞬間、リリアーナは息を呑む。


そこは森の中にぽっかりと開いた空間――澄みきった泉が静かに湧き、水面が淡く輝いていた。


だが、リリアーナはその光景に背筋が凍りついた。


……魔力溜まり。

普通の動物は本能で避ける、強大な魔力の吹き溜まり。


「……もう、いいでしょ?帰ろう?」

震える声で言う。


ラニアは泉を見つめたまま、低く呟いた。


「待って。泉の中に、どうしても必要なものがあるの」


その必死な声に、リリアーナは眉を寄せる。

ラニアが泉を覗きこむのを真似して、リリアーナも泉をよく見ようと近寄った。


「……必要なもの?」

リリアーナはラニアに聞いた。


ラニアの目が、どこか哀しく揺れた。


瞬間――


トンッ…


「きゃっ!」


リリアーナは足元が消え、水の中へ落ちた。


冷たさが全身を打つ。視界が乱れる。その上から、ラニアの声が落ちてきた。


「……あのね、この泉は魔力溜まりの中心なんだ。」


ラニアがゆっくりとリリアーナを見る。


その表情には、どこか決意と、諦めと――罪悪感が滲んでいた。


リリアーナは必死に水面へともがきながら、震える声を絞り出す。


「ラ……ニア……? どうして――」


泉の魔力が、彼女の身体を絡め取っていった。


リリアーナの身体が冷たい水に沈む中、ラニアは静かに囁いた。


「リリー。この身体は、もっと魔力が必要なんだ。それは……ここでしか得られない。」


その声は、どこか幼く、そして底知れず暗かった。


「でもね、ぼく……ひとりでいるのは嫌なんだ。だから、一緒に眠ろう?」


水面に映るラニアの瞳は、闇を吸いこんだように深く沈んでいる。


「……大丈夫。リリーも眠れるように、ちゃんと準備しておいたから。」


そう言って微笑む顔は、以前の愛らしいラニアとは全く違う。

リリアーナは必死に意識を繋ぎ止めようとする。

しかし――力が、抜けていく。


「……ラ、ニア……?」


手も足も、思うように動かない。

まるで魔力に神経を奪われていくようだった。


ラニアはそっと彼女の頬を撫で、まるで恋人に語りかけるように言う。


「リリー、目が覚めたら……ぼくだけを見て。ぼくだけに笑って。ぼくだけを抱きしめて。

……大好きだよ、リリー」


その声音は甘く、狂気を孕んでいた。


ラニアは、リリアーナの持っていた物を全て泉に投げ入れた。普通なら浮くはずの物が、全て不自然に沈んでいく。


そして、ラニアも、泉に足を入れた。


意識が薄れゆくリリアーナの手を、ラニアは自分の身体に抱き寄せ、

包み込むようにその腕を絡めた。


「もう離さないよ。」


ラニアは静かに目を閉じる。

泉の魔力が二人を飲み込み――


深く、深く。

底などないかのように。


二人の姿は、光なき水の奥へと沈んでいった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ラニアは、ずっと前から準備を進めていた。


自分の身体に、魔力が足りていないことには気づいていた。

精霊は――濃い魔力溜まりの中で、長い時間を過ごし、生まれる。それが条件。


リリーの魔力は心地良いけれど、それだけでは足りない。


このままでは、ラニアの存在が保てない。

だからラニアには、魔力溜まりで眠る必要があった。


けれどその事実は、ラニアの胸を重たく締めつけた。

リリーの腕に抱かれて眠るとき――心があたたかく満たされていく。あの優しい腕に、ずっと包まれていたい。


「ずっと、このままがいい」

そう願った。


…でも。


エドモンドと結婚する話が聞こえてきてから、リリアーナは少しずつ、変わってしまった。


彼女の笑顔は相変わらず優しくて、見ているだけで嬉しい。けれど――その瞳の中に、ぼくはいない。


遠くの未来を夢見て、笑うリリー。

ぼくの知らないところで、誰かに向けて笑うリリー。


「ねぇ、リリー……」


ラニアは胸の奥で問いかける。自分の声が、震えているのが分かった。


あの子みたいに、ぼくのいないところで笑うようになるの?ぼくじゃない誰かを見て、誰かに抱きしめられて――ぼくを忘れてしまうの?


それだけは、嫌だ。


「リリー……ずっと一緒にいよう?」


ラニアは、考えた。どうすればいいのか、何が正しいのか――そんなことは分からない。


ただひとつだけ、確かなのは。


リリーと離れるなんて――絶対に、嫌だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
種族による差だなあ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ