表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/124

リリアーナの暮らしと魔力の芽生え

リリアーナの生活は、朝から晩まで慌ただしかった。

森に入って薬草を摘み、調合師の小屋ではその下処理を手伝う。町で市が立つ日は、片隅でリュートを奏で、帰宅すれば机に積まれた本を開いて勉強をする。


調合師は口を酸っぱくして言う。

「一般的な薬草だけじゃなく、見向きもされないようなマイナーなものも覚えな。役に立つときが必ずある」


一方、弾き語りの女性は笑顔で告げる。

「歌うなら、ただの娯楽じゃだめよ。歴史も地理も宗教も知っていなさい。歌は人の心を映すものだから」


リリアーナの部屋は、姉たちが残した教材や調合師から借りた本で常にいっぱいだった。


だが――日々の水汲みや器具洗いで、まだ幼い彼女の手は荒れていた。

あかぎれで血がにじみ、痛みに顔をしかめる夜。布団に潜り込み、リリアーナはそっと両手を合わせる。


「魔力を……ここに……指先に」


熱のような流れを感じて、願うように祈る。

明日には、少しでも良くなっていますように。


翌朝。

傷はすっかり消えてはいなかった。

けれど、昨日より確かにましになっていた。


「……治った?」


信じられずに指を見つめ、胸が高鳴る。

それから彼女は毎晩欠かさず、魔力を指先に集め続けた。

少しずつ、少しずつ、手は荒れにくくなっていった。


――治癒能力の目覚め。

けれど不思議すぎて、誰にも言えなかった。

知られてしまうのが、なぜか怖かったから。


ある日。

調合師が乾燥薬草を混ぜながら、ふとリリアーナを見た。


「おまえ、此処に魔力を込めてごらん」


言われるまま、リリアーナは両手を器の上にかざした。

胸の奥から流れるものを、指先から薬草へ――。


ごく弱いけれど、確かに魔力が流れ込んでいく。


すると、淡い光が一瞬だけ揺らめき、薬が完成した。


「……出来た!」


リリアーナの声は震えていた。

完成した薬は決して高品質ではなかった。

けれど、確かに彼女自身の手で仕上がったのだ。


調合師はわずかに口角を上げ、すぐに厳しい声で告げた。

「まだまだだな。だが……確かに薬になっている」


魔力を込める回数を重ねた。そして、リリアーナは、胸を弾ませて小瓶を手にした。

――魔獣避けの薬。

調合師に教わり、自分の力を込めて完成させた初めてのものだった。


「これなら……きっと役に立つ」


彼女は小瓶を大事に包み、少年のもとへ駆けていった。


森の外れで会った少年は、木剣を手に汗を流していた。

町の冒険者に稽古をつけてもらっているらしい。


「……すごい。剣を?」

「冬になったら、大人と一緒に魔獣狩りに行けるようにしたいんだ」


少年の瞳はまっすぐで、少し背伸びをした大人びた輝きを宿していた。


リリアーナは彼に薬を差し出す。

「これ……魔獣避け。わたしが作ったの」


少年は驚き、そして笑った。

「ありがとう。これなら少しは安心だ」


けれど、その言葉がかえってリリアーナの胸を締めつけた。

――もしも彼が傷ついたら。

薬でどこまで守れるのだろう。


その日から、彼女は治癒の調合にさらに力を入れた。

もっと早く効くものを。もっと強い薬を。

誰かを救えるように。


だが、学びを重ねるうちにリリアーナは気づいてしまう。

薬は万能ではない。

薬の前に、まず自分の身を守らなければならない。


森に入るとき。薬草を摘むとき。

――もし魔獣に襲われたら、わたしは?


不安が心を覆い尽くした夜。

彼女は勇気を振り絞って、少年に言った。


「……わたしも、一緒に剣を習いたい」


少年は驚き、そしてじっとリリアーナを見つめた。

その小さな肩に宿る覚悟を読み取って、やがて静かにうなずいた。


「なら、一緒に強くなろう」


リリアーナの胸に、新しい決意が芽生えた。

薬と歌と学びに加えて、剣を――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
駄目親はともかく、姉達もひどいな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ