六人目の末娘です
地方の男爵家、リュークス家の末娘リリアーナは、今日も鏡の前で頬をぷくっとふくらませていた。
「また靴、ぶかぶか……。昨日も転んだのに!」
履いているのは十五歳の双子の姉が五年前に使っていた革靴。擦り切れて穴があいている。
「お母さま、新しい靴は?」
「リリー、贅沢言わないの。お姉さまたちは今、成長期で背も伸びるし、すぐに新しい服が必要なのよ」
「……でもわたしだって転んだら痛いんですけど!」
リュークス家は地方の小さな男爵家。父は「民の暮らし第一!」を掲げ、決して税を上げない。
そのため領民たちは平和に暮らしているが、家計はいつも火の車。
「馬は二頭だけ、犬も飼えない。……領主の家って、もっときらきらしてるはずじゃなかったの?」
リリアーナは一人、小さくため息をついた。
食卓も同じだった。
「双子の姉たちは十五歳で、今が育ち盛りなの。だからお肉は多めにあげるわね」
「ええー! わたしだってお肉食べたい!」
けれどリリアーナの前に置かれるのは、いつも“薄い野菜スープ”。
教育も三人の姉が優先され、末娘の学びはほとんど「放任」。
「……わたし、ほんとに末っ子? ただの添え物じゃない?」
ぷんすか怒ったリリアーナは、ふらりと裏口から外へ飛び出した。
町に降りると、籠を抱えた子供たちがわらわらと走っている。
「森行こうぜ! 木の実いっぱいだー!」
リリアーナの耳がぴくっと動いた。
「森? ……森に行ったら、食べ物があるの?」
「へ? あんた誰?」
「ドレスっぽいけど、ボロボロじゃん」
「わ、わたしはリリアーナ! ……で、その森に行ったら食べ物、ほんとにある?」
「木の実もキノコも拾えるし、薪を売ればパンも買えるぞ」
ぱあっとリリアーナの顔が輝いた。
「ついていきますっ!!」
こうして、成長期優先で後回しにされた末娘は、町の子供たちと一緒に“森デビュー”を果たすことになった。