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エッセイ

後部硝子体剥離とかいう、名前はわりかし物騒だが誰でもなるやつの話をしてみる…

作者: たかさば

 どうも、どうもどうも。


 わりと目を酷使しがちな生き方をしてきた結果、子供の頃からかなり相当目の悪い者です。

 本日は、物を見るために必要不可欠である目玉にまつわるあれこれについて、少々語らせていただきたいと思います。 よろしければお付き合いくださいな。


 私は元々、本や漫画を読んでばかりいる子どもでした。昔はそれほど明るい照明もなく、電気代がもったいないと言われて…暗いところで本を読むなんてのもざらにありましてですね。

 初めて眼鏡をかけたのは、小学校2年生の頃です。 信じられないくらい目の前が明るくなって…、心底驚いたんですよねえ。基本的に離れた場所にはピントが合わないことが多くて、遠くのものってのはすべてぼやけて見えるものなのだと信じ込んでいた時期があったのですよ。


 で…、よく見えるようになった視力で遠くの山を眺めて過ごすようになったかというと、そういう訳でもありませんでしてね。それまでと同様に、眼鏡をかけたまま漫画や本を読むようになりましてですね。で、その結果として、どんどん近視の度が進んでいったという。

 ちょうど我が家にファミコンが導入された時期と重なったこともあり、眼鏡をかけたままゲームばかりしていて、それはそれは目がどんどんどんどん悪くなっていきましてねえ…。 コンタクトを使うようになったあたりで視力低下はぼちぼち落ち着いたんですけど、その頃にはすっかり裸眼での生活がままならないレベルに仕上がってしまいました。


 コンタクト生活にも慣れ、こうなったらド近眼道を突っ走ってやるぜとあきらめきっていた高校生ぐらいの頃の事です。母親が網膜裂孔になりまして、それはそれはパニックに落ちいりましてね。

 もともと母親は不安や恐怖を怒りに変えて(わたし)に向かって叩きつけては安寧を得て落ち着くというはた迷惑な生態を持っているものですから、まあ、ガッツリやな感じのイメージを植え付けられてしまいましてですね。


 耳障りの良くないことばかり聞かせられた結果……、わりとこう、目に関する危機感を得たんですよ。


 三か月に一度のコンタクトレンズ屋さんでの定期検診はもちろん、一年に一回くらいは眼科に行って角膜や視力の検査をして、たまに瞳孔を開いて網膜のチェックをしてもらうようになったり。強度近視ということもあって、若いころから飛蚊症がボチボチ顕著だったりしたので、その経過なんかも見てもらうようになったり。

 緑を見ると目に良いと言われて、近所の山まで散歩をするようになったのもこのころです。結果的に目は良くなりませんでしたが、体力が付いたのでまあ宜しかったと個人的には思っております。


  そうこうしているうちに…、私は母親が網膜裂孔をやった年齢を超えましてね。


 このまま何事も起きずに年を重ねていけそうだと、のほほんと暮らしていたらですよ。


 3月初旬、私は今までに感じたことのない目の異変に気がつきましてね?!

 

 目の端がピカピカと光りがちになったというか、視線を移動させるたびに雷の稲妻みたいなのが見えるようになったんですよ。いわゆる、光視症というやつです。

 今までもちっちゃいのはぼちぼちあったのですが、わりとその時見たのは目の端の上から下まで一気にこう光が走るような感じで…危機感を覚えたのですよ。ちょっと目を動かして違う方向を見るたびに目の端にド派手な光が走るので、これはヤバイと思い、三日前に定期的な検診を終えたばかりではあるものの…急いで病院に行きましてですね。


 早期発見が鍵を握るという網膜剥離…。

 いよいよこの身にも、その病魔が…。


 覚悟を決めて診察を受け。


「うーん、網膜に問題はないですね!!!」


 結果、特に問題はなくてですね。

 ただし…、網膜剥離が起きやすい状態ではあるので、気になることがあったらすぐに飛んできてください と言われて、そのまま家に帰ったわけですよ。


 でもって、その週の終わりに予約していたキャンプに行ってですね。

 たらふく食べて大喜びして疲れて帰ってきた翌日、ちょっと離れたところで開催していたさくら祭りに出かけましてですね。


 その帰り道…、目の端に今までに見たことがないレベルの、黒い大きな影があらわれましてですね?!


 知らない方も多いと思うので言っておくのですけれども、飛蚊症というのは明るいところに行けば行くほどはっきりくっきり見えるものなんですよ。私は車の助手席で、真正面から日を浴びて移動していたのですが、まあその時に見たこともないような黒いものがぶよぶよふよふよ、 勢いよく目の中を移動して、ビビってしまったんです。


 若かりし頃に言い聞かされた、呪いの言葉が脳裏をグルングルンと巡るんですよね…。

 網膜に穴が開いたら失明するしかない。見えない人生なんて地獄でしかない。見えなくなったら人生はおしまいだ。どうせ見えなくなる。お前も見えなくなる運命だ。アンタはこのあともますます目が悪くなるよ。言っとくけど私が子供の頃はアンタより目が良かったからね。アンタもそのうち黒い影がやまほど見えるようになる。 アンタは運が悪いから失明するよ。いつアンタの網膜に穴が開くか楽しみだわ……


 すっかり爆上がりだったテンションが地獄の底までめり込んで、意気消沈したまま帰宅して、極力頭を動かさず床に入り、寝る前のスマホタイムも撤廃し、目を閉じて夜通し気晴らしにラジオを聞き続け。


 翌日、いろいろと覚悟を決めて…診察を受けたところ。


「うーん、後部硝子体剥離ですね。網膜は何ともないですよ!!」


 加齢に伴い目玉の中に満たされている透明ゼリーの袋っぽいものが縮んできて、網膜からちょっとずつ剥がれていくそうで、その一番癒着?していたところが取れたため、バカでかい飛蚊症になって目に見えるようになったのだとか…。


「強度近視ですからねえ。年齢を考えれば早めではありますけど、まあ、誰でもなるやつです」


 目玉の中の写真を撮られたんですけど、その画像を見ると、自分の見えてるのと同じフォルムの黒い塊が写っておりましてねぇ。 ああ、自分の目玉の中で羽根を伸ばしていたのは…自分が見ていたのはこいつだったのかと、現代の医療ではここまで見えるようになっているのかと、瞳孔の開き切った眼で見てしみじみ感心してしまったという…。


「視界の汚れはなくならないんで、うまく付き合っていってください。ブワッと黒いものがいっぱい見えたり、黒くて見えない部分があることに気が付いたらすぐに来てくださいね~」


 めちゃめちゃ丁寧に眼球モデルを使って説明までしてくれて…ありがたみがハンパなかったです。過去のつまらないゴリ押しマユツバ知識が全部吹っ飛んでいきましたとも。

 私が子供の頃に通っていた眼科の先生は、ちょっと見てぶっきらぼうに上とか下とかしか言わなかったので、その落差も相まって、連日の診察ですっかり顔を覚えられてしまった先生の微笑みが…まぶしいのなんのって。


 黒いものが見えるようになってからは、光視症はほぼなくなりました。

 が、視界には…かなり邪魔になるくすみや汚れが駐在するようになってしまったという…。


 視界を遮る白っぽいかすみ(ぼやーんと漂ってきて、ふわーんと消えていく)

 半透明の黒っぽい丸めた糸くず状の塊(勢いよく視界の真ん中に飛び込んできて、サクッと横にずれる)

 フワフワと漂うミニカエルの卵群(気が付くと視界の中にいる&しれっといなくなる)

 白っぽい蜘蛛の巣みたいなやつ(気が付くと視界の中にいる&しれっといなくなる)

 空中に漂う謎の黒い三連星(気が付くと視界の中にいる&しれっといなくなる)


 はっきり言って…非常に、うっとおしいことこの上ありません。

 昨今は飛蚊症汚れ組合連合軍をレーザー治療で強引に散らすこともできるそうなのですが、保険外治療になりめちゃめちゃ費用が高い上に、けちらしたところで細かく砕け散ってしまい、視界の中に浮く物体の数が増えてしまって逆にストレスになるという話も聞くので、ちょっと手出しできない感じですね。


 いっそのこと目の中の掃除をするような手術があればいいのにと思うのですが、

 目玉に穴を開けて汚れを吸い取る

 =健康そのものの網膜細胞に穴をあけてしまう&水流で繊細な網膜に刺激を与えてしまう

 =恐ろしい網膜剥離を引き起こす可能性大

 と、なってしまうということらしく、本末転倒なんだそうです。


 聞いた話によると、白内障になって水晶体を取る時に目玉の中の液体が流れ出すことがあり、その時にたまたま汚れが含まれていれば、除去される可能性もあるらしいです……。 なるかな、白内障…なるだろうけど、まだ先だと思うんだよね…というか、だいぶ先であってほしい……。


 とにもかくにも…、私は、飛蚊症でか丸くんをゲットしましてですね。


 キレイな景色も、可愛い猫の仕草も、美味そうな食べ物も、思わずふり返ってしまうようなド派手な格好のコス民も、愉快なアニメーションも、いかがわしい小説も、全てでか丸くん越しに見なければいけなくなってしまったわけですよ。

 この先の長い人生、ともに世界を望んでいくことになったわけでしてね……。


 ……まあ、多少可愛らしい部分が、あるような気もしないでもないんですけれども。


 私は毎日、近所の公園でラジオ体操をしているのですが、その時、デカ丸くんののびのびとした様子を見ることができるんですよねえ。

 明るい空の下、眩しく輝く太陽を見てしまわぬよう…目を閉じてラジオ体操第一と第二の間でやる首回りの運動をする時…、光がまぶたに透けて、デカ丸くんが実に自由気ままに体をしなやかに変形させる様子がうかがえましてですね。こいつは本当に目玉の中という狭い空間にいるのだなあ、ぷかぷかと浮いた状態で私の動きに引きずられつつも自由気ままに泳いでいるのだなあとしみじみこう…感慨深いというか、なんというか。

 どうせ消えないんだし、憎んで忌み嫌っていくよりも、愛でてあげた方がなんとなく気分的にも良さそうに思ってみたり……。


 このエッセイをお読みになった方は、多分おそらく…わりと文字を読む機会が多くて、目を酷使しがちな傾向にあると思うのですよ。

 過剰に怖がる必要はありませんが…、ある程度は目の病気・老化現象について知っておいた方が、心に余裕が持てますのでね。


「はんはん、こういう感じで目は衰えるんだね」

「飛蚊症って基本的には消えないんだね」

「目玉に穴は開けない方がよさそうだね」


 ちょっとした知識として、軽く覚えておいていただけたらと思いますです。


 ちなみに…、母親はあれだけ失明すると騒いだものの、レーザー治療を受けてからは一度も網膜裂孔を発症しておらず、几帳面に三か月に一回眼科に通いながら、今も分厚いメガネで毎日10時間テレビを見ておりますので、わりと網膜はしょっちゅう穴が開くものではなさそうな雰囲気はありそうです、ハイ。


 長らくお付き合いいただき、ありがとうございました……。

 


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― 新着の感想 ―
[一言]  私もなりましたよ。後部硝子体剥離。飛蚊症が出て、網膜剥離かと眼科に直行したのも一緒です。医者から「老化ですね」って言われて9割安心、1割ショックでした。  瞳孔を開く薬のせいで、帰り道視界…
[一言] いつも興味深いお話をありがとうございます! 眼の病気怖いですよね。 私も、眼の病気になりやすい家系らしいので定期的に眼科検診を受けてます! 白内障について…… 20年程前の話なのですが、…
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