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電光のエルフライド  作者: 暗室経路
一章 -電光のエルフライド- 全編
6/123

5 第四話 着任式

4《一九八五年一月二十一日放送》

『臨時ニュースです!

 一月十九日に決定的な敗北をし、局地的にゲリラ戦を展開していたとされるバイレン統国が降伏を宣言しました。

 宇宙勢力はバイレン軍が白旗をあげると同時に、撤退を開始。現在なお抵抗を続けるFRC東部地域に移動を開始したとされています。

 バイレン統国は降伏にともない、未だ強力な軍隊を保持するナスタディア合衆国に対して、警戒を強めるように各国に呼びかけました。

 ナスタディアの専門家は、「敗戦国は、宇宙勢力に軍を破壊され、自国の防衛機能を保有していないことから、他国の軍に恐怖を抱き、転じて反戦派へと変わる。世界各国で起こっている反戦運動もそうした敗戦国によるプロパガンダが八割だ」と述べており、世界的に話題になっています。

 その発言について意見を求められたバイレンの報道官は、会見で「きわめて稚拙な誇大妄想」だと発言し、その会見でも「ナスタディア合衆国への警戒強化」を呼びかけました。

 以上、黒海ニュース、アナウンサー。イズミ・ユリの代理で、フカミ・マコがお送りしました。それでは今日もよい一日を!』


△1985/4/4 木

場所:電光中隊訓練場《廃校》

視点:タガキ・フミヤ



 午前十一時二十分キッカリ。

 埃っぽく、それでいて何か懐かしい匂いのする教室の一室。そこで俺は、なんの因果か教壇の上に立っていた。西日が窓から差し込む中、対面するのは一糸乱れぬ整列をした九人の少女達だ。


「ただいまより、ミシマ准尉の着任式を行います。部隊長臨場、部隊気をつけ!」

 

 シノザキ伍長の進行で、気をつけの号令がなされる。


「気をつけ!」  


 すると、最前列にいた少女が号令をかけ、その場に居た九人の搭乗者候補生達が一斉に気をつけした。少しぎこちないが、皆んな真剣だ。

 シノザキ伍長は短い期間で結構な数の訓練をこなさせたに違いない。


「部隊長、訓示。指揮者のみ敬礼」

 

 シノザキ伍長の司会進行は続く。先頭の少女のみと敬礼を交わし、覚えてきた文言を吐いた。


「部隊休ませ」


 俺がそう口にすると、先頭の少女が号令を発した。 


「せいれーつ、休め」


 ただの休めかと思ったが。全員が安めの姿勢をとるなり、顔だけ一斉にこちらに向けてきた。あまり見たことのない動作だ。少しシュールで笑いそうになったが、真剣な眼差しの少女達を見て咳をして誤魔化す。


「少し遅いが、おはよう」


 おはようございます! っと、少女たちの元気の良い返事が返ってきた。一部の候補生は隔絶された環境にいたと聞いたが、全員中々ハツラツとしている。

 俺はゴホンっと咳払いを一つ。貫禄を意識して低い声で語り始めた。


「本部隊に配属されたミシマ准尉である。昨今の緊迫化した状況下において、諸君らの——」


 なるほど。世の全ての校長先生が何故つまんない話を長ったらしくするのか理由が分かった。

 所作や言動は子供達に見られているイコール、大人にも見られているのだ。つまり、滅多な事は言えないし出来ない。子供達にとってつまんない話を長々と繰り広げなければならないわけだ。体感十分程話し終えた後、俺が壇上を降りて式は終了した。

 ふと、教室の後方の壁に飾られた中隊旗が視界に入った。旗には、〝電光中隊〟の文字が。

 デンコウ、か。俺の受け持つことになる、この部隊の名称だ。

 昔ドキュメンタリーか何かで見たが、軍にとって軍旗とは、自身らの象徴と共に誇りなのだという。なのに壁に飾られた旗を見てみると、手作り感満載のしょぼい旗だった。

 シンボルマークも無く、達筆な墨字だけ。これが国家の威信を懸けて戦わんとする部隊に与える旗なのだろうか?

 柄にもなく、そんな考えが一瞬浮かんだ。 




 

△1985/4/4 木

場所:電光中隊訓練場《廃校》

視点:タガキ・フミヤ


 指揮官室に戻り、昼食まで時間があるので今日の午後の日程を確認する。

 

12:00 昼食

12:30 中休憩

13:00 施設巡回

13:40 面談一部

15:00 小休憩

15:15 面談二部

16:55 終礼

17:20 夕食

21:00 夜点呼

22:30 消灯


 うーむ、今日は……ほぼほぼ面談だな。

 候補生に限らず、勤務に就く軍人達も交代で俺の面談を受けるのだそうだ。

 まあ、コレは納得だ。こちらとしても部下がどういった奴らかを把握しておく必要がある。叔父の話では滅びの組織に好き好んで残った戦闘狂共と言っていたのでかなり憂鬱だが……。


 続いて次の日からの訓練日程を見る事にした。

 ……なんだコレ? 候補生達の教育機関の前半がほぼほぼ基礎体力向上訓練というのが占めていた。持久走に筋トレ、食育なんてのもある。格闘技能に射撃技能、通信技能に山中潜伏技術etc……そこからようやく操縦技能訓練という風に記載されてあった。


「シノザキ伍長」

「はい」

「この基礎体力向上やら格闘技術はエルフライドを着用しての訓練だろうか?」

「いえ、生身の教育です。まずは基礎となる体力と技術を習得するというのが大綱であります」


 生身の基礎? パイロットとしての素養だろうか、長時間飛行に備えての。

 いや、小学生六年生くらいの女の子の体力が百日程度の訓練で長時間活動を可能に出来るとは思えない。


「ほう、この訓練日程の発案は貴官かね?」

「いえ、中央本部の立案です」

「これを見て何か思う事はあるか?」

「国家存亡の期にこれは少し生ぬるいとは思います。ですが、候補生の年齢を考えると妥当なものかもしれないと判断しました」


 うーむ……なんだろう。やはり全部無駄に見えるのだが?

 エイリアンと戦うためにロボットに乗るのに、生身の技術なんて必要ないだろう。むしろハードにやるならばずっと操縦技能訓練で充分だと思うが。

 少し、軍が心配になるな。せっかく最新技術のロボットがあるのに、こんなお堅いお役所仕事みたいな事をするなんて勿体無さすぎる。これなら俺が邪魔する様なムーブを取ろうが取らまいが負けに行く様なものだらう。 

 叔父が言っていた通り、たった九機のエルフライドで何万機と居るかもしれない本家のエルフライド軍団に勝とうなんざ正気の沙汰では無い。

 しかし、せめて真面目に取り組んで部隊を運用出来るくらいにはしておかないと、部屋の隅で休めの姿勢で待機しているおっかない伍長にボコボコにされそうだ。

 指揮官だって交代させられるかもしれない。

 ……そうだ! そうなる前に、いざとなれば候補生の乗るエルフライドを使ってとんずらをしよう。

 その為には候補生達の信頼を勝ち取る様な密接な関係を構築する事が前提だ。そして、搭乗者達への確実に操作できうる技能と判断能力の構築。

 その為には俺が考える一番効果的な訓練内容の実践——これを実現するには、現行の予定をかなり変更が必要となる。

 いやはや……無課金ながら美少女育成ゲームでランカーを保持していたのはこの時のための布石だったのか。俺はバチバチの無神論者だが、何やら運命的なものさえ感じる。


「明日からの訓練日程等、私の権限で変更する」

「はい」


 表情をチラリと伺ったが、あまり変化は見られなかった。まあ、このくらいのことは彼女にとっても想定の範囲内なのだろう。

 

「また、訓練内容について明日には君に伝えるので、候補生と共に一時待機しておいて貰えるか?」

「分かりました」

 

 まず着手する事は候補生達の得意不得意を洗い出す所からだ。不謹慎ながら、久しぶりに胸が躍っていた。俺は幸運かもしれない。

 与えられた未知のテクノロジーに、ある程度の権力。宇宙人達との戦争はさておき、俺のゲーム的教育メソッドでどこまで彼女達を運用できるようになるのか。

 それに道徳的大義を貼り付ければ正義以外の何物でも無い。俺は正しい、俺は正しいと祈る様に心の中で呟いた。

 

 





△1985/4/4 木

場所:電光中隊訓練場《廃校》

視点:タガキ・フミヤ


「キノトイ候補生ほか、三名の者入ります」

「入れ」

「キノトイ候補生ほか、三名の者はミシマ准尉の昼食をお持ちしました!」


 昼食は指揮官室に運ばれてきた。迷彩の作業服っぽい特注軍服に身を包んだ少女が三人。

 先頭にいたのは着任式で指揮をとっていた少女……資料で見た名前は確か珍しい名前だった。キノトイだったか?

 それと比べて、全員同じようなお団子ヘアー(軍の規則上の髪型)なので、個性が無い。全員子役をやっていそうなかわいらしい顔つきをしているが、髪型が同じだから全員同じ顔に見える。

 なんて、一人アイドルの顔の見分けがつかない中年みたいな感想を浮かべていると。

 イチニ、イチニっとお盆を持った少女達が行進しながら俺の机の前に来た。間抜けな光景に呆気に取られたが、目の前に湯気を立てる食事を置かれて我に返る。


「ありがとう、美味しそうだ」


 お礼を言いながら手をつけようとすると、少女達はジッと見つめながら待機していた。命令が無いと動けないのか? 俺は慌てて手を振る。

 

「行っていいぞ」

「キノトイ候補生ほか、三名の者、要件終わり、帰ります」


 バタンッと部屋から去る少女達を見届けてから、俺はシノザキ伍長に向き直った。


「候補生が食事を用意するのか?」

「はい、流石に糧食係はいるので配膳のみですが、精神教育の一環です」

 

 精神教育ねぇ。なんだか軍人マシーンの養成に見えるが。

 聞いてみれば入室以外にも様々な手順が必要になるのだとか。室内で整列してイチニ、イチニッて……ギャグではないか。面倒だし、時間がかかる。

 これは……撤廃だな。軍の慣習的なモノはとことん排除していこう。

 俺は心のメモにそう刻んでから窓の外を眺めた。見栄えの悪い藪のほかに映るのは反射した不敵な笑みだ。

 明日からは大改革を施してやる。呆気に取られる連中の顔が楽しみだ。







△1985/4/4 木

場所:電光中隊訓練場《廃校》

視点:タガキ・フミヤ

 

 昼食を終え、施設巡回の時間がやってきた。俺はシノザキ伍長と二人、グラウンドへと足を向けていた。


「エンジニアとは顔を合わせたのか?」

「私は顔合わせ位はしましたが、お恥ずかしながら合衆国語を習得しておらず、挨拶程度で終わっています」


 食事を作る糧食係、健康管理をする衛生係とは対面したが、最後は体育館を根城にする合衆国のエンジニア達と面会する。

 体育館はオンボロ校舎と違い、一年半前まで市が管理し、運用していた為か外観からして中々新しかった。だがそれも、整備された道路が大規模な土砂崩れを起こして封鎖されてからやむなく放棄された。立派な廃墟となり、それを軍が買い取って今の形となる。

 シノザキ伍長の話では合衆国軍人が数十名、二、三週間前にヘリでやって来て中を改築したり、エルフライドを運び込んだり、慌ただしくしていたそうだが。やることが終わるとエンジニア三名だけ残し、今はプッツリ糸が切れたように静かにしているらしい。


「そうか」 


 堅物伍長と会話しながら体育官の入り口まで到着する。

 西側にガラス張りの玄関があり、そこを上がると鉄扉の先に競技用のコートがあるフロアが存在する。話を聞く分には、そのフロアがエンジニア達の居住空間兼、作業場所だそうだ。さっそく連中の顔を拝んでやろうと鉄扉を開けると——なんと、そこにはまた扉があった。


挿絵(By みてみん)


 シルバーの銀メッキの様な輝きを放つ両扉だ。僅かに、オイルと金属製品の匂いが鼻腔をくすぐる。


「また扉か」

「アルミ製なので、電磁波対策だと思われます。エルフライドは通常では観測し得ない量の電磁波を放出する為、電気製品を全てダメにしてしまうそうですから」


 解説を聞きながら両扉に手をかける。中に入ると、銀色の世界だった。

挿絵(By みてみん)

 工場(こうば)はアルミの壁で覆われ、天井には手動クレーンが設置されてある。そこから——白い体表に身を包んだ巨人が何体もチェーンで釣り下がっていた。

 全長は二、三メートル程だろうか? 思わず息を呑んで近づき、手を触れてみる。まるで、氷の様に機体は冷えていた。

 写真でも思ったが……とても、とてもシンプルなデザインだった。それが逆にグッとくる。ロボアニメみたくゴチャゴチャしたデザインはリアリティが希薄であまり好きでは無いのだ。宇宙人のデザイナーは相当センスが良いに違いない。

 表面はツルツルで、まるで納車したての車のようだ。各関節部は驚くことに隙間がなく、工具の類も入り込めないだろう。

 プロペラもジェット機構も見当たらないが、これが空を飛び回って世界中の軍隊を恐怖に陥れたのだ。


「ミシマ准尉、この部屋にエンジニアがいると思われます」


 声がして振り返ると、アルミ缶を倒したような長方形の部屋があった。雰囲気的に、エンジニアの事務所であろう。

 扉の前ではシノザキ伍長が待機していた。部屋に近づくと、シノザキ伍長が開けてくれたの中に入る。すると——。


「よっしゃー!! フルハウス、これで金は取り戻したぜ!」

「があー!? アンタ、イカサマしてんでしょ!」

「エマはここぞという時に勝負弱いな」

 

 キャッキャっ言いながら軍服を着た黒人女性と白人男性二人が机上でポーカーをしていた。

 チラリとシノザキ伍長の様子を窺うと、彼女は眉間に皺を寄せ、今にもブチギレそうになっていた。マズいな……まさか遊んでいるとは思わなかった。シノザキ伍長がキレる前に俺は接触を図る事にした。


「楽しそうだな」


 背後からの俺の一言に、シンッとその場が静まり返る。


「え?」

「……おい、准尉だ。例の」

「マズいんじゃないか?」

「きょ、きょきょっ今日だっけ?」


 三人組は慌ててポーカーを放り投げて整列する。


「こ、こんにちは准尉。ちょっと、エルフライド運用に関連する確率論をカードで再現していたところです」


 釈明してきたのは一等軍曹の階級をつけた美人な黒人女性だった。胸元にはエマ・G のネームが刺繍されていた。

 ちなみにド素人の俺が何故階級が分かるのかと言うと、幹部の教本に階級の一覧があったからだ。いやあ、丸暗記しておいてよかった。


「そうか、エマ一等軍曹殿。ポーカーは俺も得意だ。それなら私でも役に立てそうだな」


 俺がそう口にすると、彼女はハハハッ……と汗を流していた。


「おい、無茶苦茶流暢だな、訛りも無い」

「それに……ガキみたいだ。東亜人はガキっぽく見えるけど、その中でも……なんだか只者じゃ無さそうだな」


 エマの後方にいた白人二人がヒソヒソ話を始めた。

 髭が濃い強面な男と軽薄そうな細身の男だ。どちらも二等軍曹の階級をつけている。階級的にエマという女性が二人の上官のようだ。

 それにしては……。


「声がでかいって、聞こえるわよ!」


 上官っぽく無いな。ていうかお前の声のがデカいよ。

 三人は合衆国軍人らしからぬ、ゆるそうな雰囲気をしていた。

 合衆国軍人といえば世界最強の軍隊だ。規律も高く、屈強な精神も併せ持つ。

 それにしてはどうも素人くさい。まあ、堅苦しくなくて、融通が利きそうな相手なので都合は良いが。

 俺はクイッと顎で合図して部屋の外に出る。慌ててエマがついてきた。


「この巨人がエルフライドか?」

 

 エルフライドを指しながら聞くと、エマは太陽な笑みを浮かべながら答えた。


「ええ、准尉殿! アレが我が合衆国が誇るエルフライド・タイプゼロです!」


 合衆国が誇る、か。実態はエイリアンから盗み出した盗品である。

 まあいい、とりあえずコイツを動かすには彼らが必要だ。現段階では地球上で最もこの兵器に詳しい集団だからな。


「何かマニュアルはあるのか?」

「え、マニュアルですか?」


 聞くと、すっとぼけた様に首を傾げるエマ。俺は思わずため息を吐いた。


「動かすにあたって、だ。そもそもコイツは狙い通りちゃんと動くのか?」


 みるみるうちにエマの表情が曇りだす。怪訝な表情を浮かべてやると、エマがポツリと言った風に口を開いた。


「……それが、ですね。よく分からないというのが本音です」

「は?」


 聞いてみると、どうやらエルフライドは宇宙人からパクったのはいいものの、操縦方法やら機能などが全く持って解明されていないのだとか。合衆国の子供達が運転して、エイリアンがやるみたく空を飛ぶところまではいったらしい。しかし、電子機器をダメにしてしまうので、データが取れない。

 子供を乗せてコックピット内がどの様に作動しているかを対電磁波カメラで撮影しようとしたがやはり無理。得られるのは子供達からの証言だけ。極め付きは十人が十人、直感的な操作方法の説明をしたが要領についての一致する部分は無かったそうだ。

 なんだソレ、都市伝説かよ。


「つまり、このエルフライドが動くかどうかも分からない、と」

「まあ、端的に言えばそうですね、ハイ。私たちも一度バラして色々調べようとしたんですけどボルトも無いし電ノコも通らないし……スパナやモンキーも最早おもちゃみたいなモンで、ハイ」

「コックピットは開くのか?」

「それはまあ、開きます。乗ってたエイリアンの体内に結晶化した核部分があって、我々は鍵と読んでるんですけど、これを持ってエルフライドに近づいたら勝手に開くんですよ」


 体内に結晶化した核?

 グロいな、解剖(かいぼう)して摘出てきしゅつしたのか。生きたまま抜かれてい無い事を祈ろう、怨恨(えんこん)(つの)っているかもしれない。まあ、宇宙人にそんな恨み辛みみたいな概念があるのかは不明だが。


「だが運転の仕方は分からんのは問題だな」

「合衆国じゃ色々進んでるらしいんですけど、最重要機密っすからね〜。私たちもほとんど教えてもらって無いんですよ」


 まあ、合衆国もお粗末だな。エルフライドを貸してやると気前よく寄越してきたは良いが、技術を学ばれたら困るから俺たちが整備する! と、エンジニアもセットにした。しかし、そのエンジニアも何も分かっていないときた。ナスタディアコメディーに似たかなり自虐的なタイプのお笑いだ。


「なるほど、自分達で色々試してみないことにはわからないって事か」


 慰めの様に口にすると、エマはそうっすねぇ〜と他人事のように言っていた。コイツらは……エンジニアとしてのプライドとかは無いのか?


「コイツの装備は?」

「装備、ですか?」

「武装だよ、宇宙人が持ってたビームライフルとかは無いのか?」

「いやあ、それがエイリアンが使用していた武装の中で、使えるものは合衆国にも無いのですよ」

「はあ?」

「宇宙人達が運用するエルフライドは光線銃の様な武装をしていたのですが、鹵獲した時には全て形状が変わっていて、使い物になりませんでした。原因は不明です」

「合衆国はどうするつもりだ?」

「あくまでエンジニアの中での憶測なのですが、新たにエルフライドに適した武装を作成するのでは、と言われています。皇国もそうなんじゃないんですか?」

「武装もなく、操作方法も不明、か」

  

 自分たちで武器も作れって? 聞いていないぞ、全くのゼロスタートでは無いか。

 そもそも我が国の軍部にやる気があるとは思えない。訓練場所はこんな廃校だし、施設巡回したとき思ったが、設備も人員も乏しすぎる。国家を救わんとする部隊の訓練場所だとは到底思えない。軍部は嬉々として合衆国からエルフライドを受領したのでは無いのか? 

 うーむ……実は本部も「たった九機じゃ勝てない」と、電光中隊にあまり期待していないのかもしれない。結果、こんな感じでやっていますよ感を演出するために俺達が作られたとか?

 それならそれで俺としては都合が良いが……背後の伍長の目はエルフライドを見つめてギラギラだ。メラメラと言ってもいいかもしれない。彼女は本気で勝つ気でいるのだろう。

 とにかく、色々と確認しなければならないことが出来たな。武器の件は早急に叔父に確認しなければならない。

 武器は必須だ。子どもたちを懐柔してエルフライドで訓練場から脱出する際にも、ほかにも使いどころがあるので必要となるだろう。

 はあーあ……それにしても面倒くさいな。こいつら軍人は固定観念があって気にならないであろうことも、一般人の俺には次々と問題点を認識してしまう。それら全てを改善するとなると、元ニートには多すぎるタスクだ。

 俺は現実逃避するように壁にかかっていたナスタディア式カレンダーを見つめた。


「明日は何曜日だ?」

「え? 金曜日ですけど……」

「土日は休みだ。バスを出して候補生と一緒に買い出しに行くんだが、お前らも来るか?」


 俺は着任早々、土日は休みにすることに決めていた。予定表を確認すれば働きづめだったからな。

 人間、リフレッシュは大事だ。

 このことはまだ、シノザキ伍長やそのほかの面々には伝えていない。

 波風が立たない様にタイミングを見極め中なのである。現在は合衆国語で喋っているのでシノザキ伍長はなんの話をしているかは把握していない。

 俺の発言にエンジニア三人は目をパチクリさせていた。細身の白人……ネームはトビーと書かれているヤツが、ポケットからクシャクシャの訓練時程を取り出して確認していた。


「あの……貰った訓練時定では休みは月一みたいになってますけど?」

「俺は敬虔(けいけん)信徒(しんと)じゃ無いが、日曜日は休む事にしてるんだ。土曜日はついでだ」


 冗談めかしてそう口にすると、バレないようにしたつもりか、白人二人が顔を見合わせて小さく肩をすくめる。俺が独裁者なら不敬罪に処す所だが、見逃してやった。


「私服はあるのか?」


 当然、出歩くなら目立たない格好が望ましい。エンジニアは困惑するように首を振った。


「ありません。てっきりこの地域にずっと滞在するものだと思ってましたから……軍服と作業服だけです」

「サイズを教えろ。土日の迎えの者に買いに行かせる。そしたら一緒にいけるだろ」

「あのー……良いんですか?」


 ポーカーで遊んでいた癖に、意外と真面目な奴らだ。俺は軽く肩をすくめ、訓練時程を取り上げながら言った。


「この訓練日程、お前らはどう思う?」

「まあ、合衆国とはちょっと違いますけど……軍は大体こんなもんかと」

「そうだな、無駄が多い。無駄を省いた分、休みに当てる」


 何とも言えない表情を浮かべる三人。休んで町に行けると聞いて、半分嬉しくて半分不安みたいな顔だ。

 派遣されてきたエンジニアの彼らからすればエルフライドのデータも取らないといけないし、合衆国からもサボっていると思われたくないのだろう。まあ、ポーカーで遊ぶ連中だ。欲には負けるだろう。


「お前らも酒くらい飲みたいだろ? タバコはやるのか?」

「まあ、やりますけど……」

「決まりだな、土日は準備しておいてくれ。平日はしっかり働いてもらう。やってもらいたいこともあるしな」


 エルフライドを撫でながら言うと、何ともいえない顔を浮かべるエンジニア達。

 俺はそんな三人を余所に、満足げにシノザキ伍長へと向き直った。


「シノザキ伍長、挨拶は終わった。帰るぞ」

「……了解しました」


 体育館、もとい合衆国人の工場(プレイゾーン)を出て暫くして。


「彼ら、カードで遊んでいました」


 シノザキ伍長がポツリとそんなことを呟いた。

 ああ……はいはい。お灸を据えろってことだろ?

 厳格な彼女からしたら、仕事時間に遊んでいたなんてもってのだろう。しかし、俺からすればエンジニア達とコミュニケーションも取らずに放置している方が問題だ。

 指揮官の俺が来る事くらい、なんとかジェスチャーするなり単語を調べるなりして準備させておくべきだろう。

 まあ、んなこと言ったってしょうがないか。結果が全てだ。とりあえず俺は、適当に誤魔化すようにシノザキ伍長に対して。


「ああ、かなり強めに警告をしておいた。奴ら心を入れ替えるそうだ、合衆国の憲兵は特段に怖いらしいぞ」


 それを聞いた彼女は、神妙な面持ちのまま納得したように頷いていた。


「そうですか、それは安心ですね。それにしても、ミシマ准尉は合衆国語が相当堪能なのが分かりました。素人目ですが、かなり流暢に話されていたので」

「りゅうが——ゴホッゴホッ。海外勤務の賜物だよ」


 そんなことを話しながら、俺は校舎へと足を踏み入れる。

 さあて、次はいよいよ面談だ。

挿絵(By みてみん)

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