38 第十話 武器貸与
△1985/5/15 木
場所:電光中隊訓練場《廃校》
視点:タガキ・フミヤ
ここに来て、一か月半と少し。
候補生達が訓練を繰り返し、擬似戦闘やシュミレーションを繰り返させていた期間。
俺はパイロット達とは別の戦いを繰り広げていた。
エルフライド専用の武器作成である。
紆余曲折、笑いあり、涙ありの感動長編スぺクタル、〝電光中隊指揮官、仕事の流儀〟を撮影できるほどの尺と撮れ高を有して、天を仰ぎ神を罵倒した翌日。
ようやく、ようやく〝エルフライド専用武器〟が完成した。
エルフライドの馬鹿げた出力に耐えうる——程ではないが、力をセーブすれば十分に使用できる、二メートル半弱の大きな弓。
その名も、二七型、エルフライド特化型コンパウンドボウだ。
ナンバリングを見れば、俺とエンジニア達の血と汗と涙の結晶である事はご察し頂ける筈である。
本当に、本当に長い道のりだった。
何せ、作るだけじゃないんだもんな。
鏃——矢の先端に取り付ける炸薬や閃光弾がどうしても手に入らず、人手不足で廃棄された基地に埋められた爆薬や弾薬類をエルフライドを使って掘り当てに出かけたり。
強度計算上は問題ない筈の部位が繰り返し故障し、徹夜で何日も原因を探ったり。しまいには新たに思案した兵器を突貫で作ったり。
書き起こしたらエピソードが多すぎて何から話せば分からなくなってくる。それ程の壮絶な日々だった。よくこれが一か月半で出来たものだと我ながら感心する程だ。
明かりの消えた体育館の工場を見渡せば、散らばった工具と機材、資材が無造作に積まれ、作業着を着たエンジニア達とユタが二七式を前に倒れていた。
死屍累々と言う言葉が似合うその姿に、俺は畏敬の念すら抱き、合掌する。
俺も寝る間を惜しんで頑張ったが、一番大変だったのはエンジニア達だ。異国の部隊の為に、本当によく頑張ってくれた。
大きな屋敷に住まう大型犬たちの様に点在して床に転がって寝息を立てる彼ら彼女ら一人一人に、俺は毛布を掛けて回る。
工具を握ったまま大の字で寝るエマに毛布をかけようとした時、彼女はクマを作った目で起き上がり、俺を見据えた。
「……指揮官殿、今何時ですか?」
「朝方の四時だよ。今日は休みで良い、ゆっくり休め」
「……申し訳ありませんが、性能テストをする時に起こしてくれませんか?」
「おいおい、何日も寝てないだろう? 後で報告書にして渡してやるよ」
「作ったのは我々ですからね。それさえ見届けたら直ぐに嫌という程寝ますよ」
全く、彼らのプロ根性には恐れいった。自分達が作ったモノは自分達がチェックしなければ気が済まないのだろう。
俺は了承し、しばしの仮眠を取るエンジニア達とユタを置いて。廃校、もとい宿舎へと戻った。
△
この一か月半で大きな変化と言えば武器作成だけでなく、施設も少し様相が変わっていた。
特にグラウンドにはエルフライド専用の台が設置され、エルフライドも普段はシートをかぶせてもっぱら外で保管されている。
というのも、武器を作るのに工場のエルフライドが邪魔で、外に置くしかなかったのだ。
訓練が本格的に始まり、いちいち体育館から出すというのも億劫だなと思ったのもある。
さらに、本来は金庫に保管するはずの〝キー〟も、最早ペンダント式にして候補生全員に付与してある。
命を懸けて戦いに行く彼女らを信頼し、委ねるのも指揮官たる俺の仕事だと思い直したのだ。
何より、彼女らとの絆はこの一か月半でかなり深まっていた。
「今日より、エルフライドの武器を使用しての訓練を行う」
グラウンドに整列した彼女らエルフライドのパイロット達は、一様にエルフライドの武器である二七式にくぎ付けであった。
前から本武器である弓とは別に、簡素で作った弓で相手に当てる訓練はしていたが、実物を見るのは初めてである。
「これは、ユタ含むエンジニア達の死力を合わせた結晶である。感謝しろとは言わない。君らはそのことだけは認識しておけ」
はい! と、元気よく答えるキノトイ達。そこで、連日の疲れを感じさせないエマ達が体育館から現れた。
相当疲労困憊なハズだが、気丈に振舞っている。最年少のユタでさえ、キリリとした表情だ。
エマが俺たちの前までやってくると、
「武器の概要を説明するわ」
俺は彼女の翻訳を請け負った。
内容としてはこうだ。二七式は非常に強度と命中精度に優れているが、エルフライドのパワーで粗雑に扱えば簡単に壊れてしまう。唯でさえ、コンパウンドボウと呼ばれる弓は滑車付きで非常に壊れやすい性質を持つのだ。
つまり、兵器ながら非常に配慮して運用しなければならない。
「私は最初の試験運用役に、ユタ二等兵を推します」
エマは真剣な表情で俺にそう言った。キノトイ達も異論は無いようだった。
ユタはエンジニア達と引っ付いて武器を完成させた一人だ。誰よりも操作には理解がある事を理解しているのだろう。
ユタが一歩前に出て、俺を見据えていた。
「やってくれるか?」
やれるか? なんてのは聞かない。
彼女の過ごした時間を俺は知っている。故に、やってくれるか? だ。
ユタは当然のように頷いた。
「何時でも行けます」
「よし、ではこの兵器の実演を行ってもらう。各員、着弾時は目と耳を塞げ」
ユタは早速グラウンドで膝をついていたエルフライドに乗り込んだ。
スムーズな動作で起き上がってから、体育館横に置いてあった空のドラム缶を肩に担ぎ、グラウンドの端に設置する。
そして、グラウンドに並べられた二七式と専用弾——閃光矢を手に取り、ドラム缶から百メートル程の距離を取った。
スムーズな動作で弓を構える。超兵器が弓を引く姿は、神話の様に美しかった。
「いつでもいい、発射してくれ」
ユタはエルフライドが構えた弓を引いた。
ビュンッっと。風切り音と共に矢は放射線を描く——のではなく。真っすぐ、鋭く標的であるドラム缶へと一直線に飛んでいく。
やはり、弓が巨大な分、威力もスピードも計算通り問題ないようだ。
そして——バアンッ! という凄まじい音と共に、閃光と音が響いた。
ドラム缶は揺れる程度だったが、その音と光は想像するよりもはるかに大きなものだった。
見物していた皆が目を覆う中、エンジニア達が歓喜の声を上げた——成功だ。
「どうだ? シトネ」
聞くと、シトネはドラム缶の方向を見据えたまま無表情で答えた。
「あれ程の音と光が直撃したなら、恐らくパイロットは恐慌状態に陥ります」
「身構えていてもか?」
「一発は耐えれても、二発目以降は厳しいでしょう——それ程エルフライドの〝感覚共有〟というのは感度が高いです」
感覚共有。エルフライドはパイロットとリンクすることで凄まじい操作性を誇り、直感的な操作が行える。
しかし、俺はシトネの話とミシマ准尉の手記を通じて、あるエルフライドの欠陥——弱点とも呼べる部分を発見していた。
それが、あまりにも高すぎる集音性能だ。
簡単に言えばエルフライドとは耳と目が良すぎるのだ。目の前で爆発や閃光が響けばそれを受けたパイロットはショック状態に陥る。
つまり、ただの威力の高い弾丸を使うより、閃光弾を使えば手軽に戦闘不能状態へと持っていけるのである。
「実戦ではこの矢を直ぐ放てる様に、専用の〝レール式矢筒〟をエルフライドに装着します。パイロットはその装備を装着したうえで、矢を打つ感覚を覚えておいてください」
エマは二七式の横に置かれたレール式矢筒を指した。
これは、エルフライドの背中に装着する、ランドセル型の箱型矢筒だ。
ボックスからは斜め下方向に伸びた長方形の箱が伸びている。
鏃に取り付けられてある閃光弾は感知式で衝撃に弱い。通常の矢筒で保管すれば接触等あった場合に誘爆する可能性がある。
その為、レール式で一本引けば次弾が装填される箱型矢筒を作った訳だ。これなら鏃同士が接触しないし、箱に入っている間は衝撃に守られている。
それらを見て、キノトイらの目には戦いというものが現実味を帯びてきた様な——何とも言えない表情を浮かべていた。
「よし、実際に装着しての訓練を実施していくぞ。お前らはエマが言った通り装着した際に違和感を感じ——」
「指揮官」
俺が説明をしていると、それを遮る人物がいた。全員の視線を浴びながら、その人物は凛々しく静かに俺へと歩み寄ってくる。
「どうしたベツガイ?」
「今、この場で、言わなければならないことがあります」
ベツガイは全員の視線を受けながら、しっかりと俺の目を捉えていた。
その顔には迷いや疑念が一切感じさせない、芯の強さが見て取れた。
「現状のこの装備と人員の士気——練度は、月光に勝るとも劣らない、いや、部分的に言えば勝っている部分が見受けられます」
「続けろ」
「特に、この二七式とはすばらしいです。月光にはエルフライドを一撃で戦闘不能にする兵器はありませんでした」
……不安になることを言いやがるな。俺は結構、軍部が本気で育成している月光部隊に期待している部分があった。
それがこんな突貫兵器より劣る武器しか持ち合わせていないとは、考え物だな。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。この言葉尻からは、ベツガイの真意を読み取れない。
「お前がしたいのは部隊の称賛か?」
「いえ——建言です」
また難しい言葉だな。確か、上に意見を申し立てるとか、そう言った意味合いだったはずだ。
とにかく俺は彼女の次なる言葉を待った。
「キノトイ・アネを完全にリーダー候補から外してください」
全員が稲妻に当てられたかの様な表情を浮かべた。
現状では、俺はキノトイとベツガイのダブルリーダー方式を採用している。
本リーダーはキノトイ、サブにベツガイという配置を考えていた。
「ほう、何故だ?」
「リーダーには、私の方が向いているからです」
「その方が作戦の成功率が上がると?」
「はい、間違いなく」
俺はキノトイへと視線をやる。
「キノトイ、お前はどう思う」
「私は——ベッガイはリーダーには相応しくないと思っています」
キノトイはベツガイの意見を否定し、歩み出て、好戦的な視線をベツガイに送っていた。
対するベツガイは涼しげに腕組みをし、キノトイを見ていた。まるで格闘技の宣材写真のような様相だ。
周囲のパイロット達は口を挟むこともなく、冷静だった。一か月半の間で、彼女たちも成長している。
「ほう、平行線だ。これは議論じゃ収まらんな。俺は両者がリーダーにふさわしい資質を兼ね備えていると思っている」
そう口にすると、周囲は俺に視線を向けた。
「これを収拾するには、方法は一つしかない」
全員が察した様に、神妙な面持ちを浮かべていた。
「キノトイは人望、ベツガイにはカリスマがある。あと、必要な要素は何か——実績、それを確固たらしめる実績だ」
二人は思えば、この場所に来た時からライバル関係を築いていた。
ならばこの状況は——避けられなかったのかもしれないな。
「お前らは今から試合を行え、勝った方がリーダーだ」
俺の言葉に、てっきり二人は緊張感に満ちた表情を浮かべるものだと思っていた。
しかし——二人は俺の予想に反し、揃って獰猛な笑みを浮かべたのだった。




