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12 第十一話 ショッピング

11

《一九八五年四月八日放送》

『臨時ニュースです!

 コードネーム〝エルフライド〟と呼ばれる兵器により、「世界の軍体が攻撃され、壊滅している」というのが、我々の認識、通説となっていますが、「実際は違うのだ」と、ナスタディア合衆国の有名な軍事評論家のリチャード氏が発表しました。

 リチャード氏は「宇宙勢力の〝エルフライド〟は、合衆国政府の検証結果によれば、レーダー機能なるモノが存在せず、目視による索敵しか行えない」と話し、続けて「このような兵器で各国の軍部をしらみつぶしに探し尽くして攻撃を加えるなど不可能」と結論づけました。

 これに対し日本の軍事専門家は、「リチャード氏の発表が本当ならば、宇宙勢力のエルフライドは限定的な能力しか持ち合わせておらず、大まかな目標に攻撃を加えてるだけということになる。つまりは、各国が基地や兵器を多数失っても必要部分を隠しておいてある可能性が高い」と評価しました。

 それを受け、降伏を宣言した各国は「ナスタディア合衆国の自由主義を傘に着た、妄想にも似た熾烈(しれつ)な〝認知戦(コグ二ティブウォー)〟が幕を開けた」と発言。

 舌戦が今もなお、繰り広げられています。

 いやあ、何がホントで嘘か分かったもんじゃないですね!

 以上、黒海ニュース、アナウンサー。フカミ・マコがお送りしました。それでは今日もよい一日を——』


△1985/4/6 土

場所:クラマ県某所《市街地》

視点:タガキ・フミヤ





 バスに揺られること二時間。ショッピングセンターに到着した。

 降車してから改めて気づいたが、パイロット達は軒並みフリフリの格好をしているな。

 全員、可愛らしい顔をしているし、よく似合っている。素直にそう伝えると、大半が俯いていた。

 初めてのオシャレで街を彷徨くのだ、恥ずかしいのだろう。


「お前たちにとっての迷彩服だ」


 俺の言葉に、少女達は顔を上げた。頭に浮かぶのは疑問符だ。


「森には森の服がある。街には街の服があるんだ。街ではその服がお前らを守ってくれる」


 俺の抽象的な言葉に、少女達は首をひねっていた。


「次は髪型だな」


 全員、軍規通りのお団子ヘアーだ。集団で歩けばかえって目立ってしまう。

 不安げな彼女達を連れ、俺は颯爽と美容室へ向かった。











「予約していたフルヤです」


 偽名を使ってカウンターで受付を済ませる。

 今回は九名全員に髪を切らせる。あまり時間をかけたく無いので、前もって予約し、貸し切り状態にしておいた。その為、スタイリスト四名は独占状態だ。


「ああ、お待ちしていました。中にどうぞ」


 外ハネのチャラそうな三十代くらいの男が店の奥へと誘導する。スタイリストは四名なので、こちらも四名を選定した。

 とりあえず、あ行から始まる番号順だ。キノトイ、シトネ、セノ、センザキの名を呼ぶ。


「さて、髪のバンドを外してもいいかな?」

「は、はい」


 美容師に聞かれ四人がお団子を解除すると、ボロンと隠された髪が解放された。

 結構長い、肩先くらいあるな。これなら色々と選択肢があるじゃないか。


「さて、今日はどうしましょうか?」

「え、えっ、あの……」


 理容師の問いかけに、キノトイが必死に何か言おうと魚みたくパクパク口を開くが、肝心な言葉が出てこない。シトネに至っては鏡を見つめて無の状態で、セノは椅子に座るなり、ぐーすか眠りだした。

 理容師がその惨状に、背後に控える俺に助けを求めるように視線を向けてくる。


「お前ら、希望はあるか?」

「き、希望ですか?」


 ふむ、特に希望は無いようだ。そもそも、何をどう言ったものか、分からないのだろう。


「じゃあ、おまかせで良いか?」

「は、はい」

 

 スタイリストから意見をもらいつつ、全員の髪型を決めた。

 全員が切り終わった頃には、パイロット全員鏡の前に集合し、自分の髪を飽きもせずに見入っていた。

 ふーむ。髪というのは本当に印象が変わるな。別人のように仕上がった彼女らは、何処からどう見てもオシャレな小学生達で、軍人と疑う者はいないだろう。

 因みに嫌がるシノザキやエンジニア達も切ってもらい、最後には少女達の為の髪の手入れ方法やケアの仕方など講座まで開いてもらった。

 まあ、これも予約時に俺が段取りしたのだが、やって良かった。真剣に手入れ方法を聞く彼女らを見て、そんな風に思ったのだった。


  










 イケメン理容師による髪のお手入れ講座が終了し、俺たちは美容室を後にし、徒歩で数分。町で一番に幅を利かせているショッピングモールにたどり着いた。

 入り口を抜け、広大な吹き抜けのエリアへと足を進める。

 少女達は行き交う人の量に圧倒され、身を寄せ合っていた。まるで肉食獣に囲まれた草食動物だ。

 エンジニア達は観光気分か、キョロキョロと物珍し気に周囲を見渡していた。

 外国人三名に、小学生九名、その他三名の大所帯。結構目立つ一団だ。

 ちらほらとこちらを伺う一般人が見受けられた。


「さて、これから楽しいショッピングだ。まずは色々と館内を見て回ろう。気になった場所があれば覚えておけ。館内を一通り見終わったら次は食事だ。食べ終わってからお前達の行きたい所を回ろう」


 エンジニア達にも同様に合衆国語で伝えると、陽気にオーケーサインを出していた。

 今のご時世、外国人はかなり目立つが、彼女ら三人は堂々としているので怪しまれないだろう。外国なのにパスポートも持ってい無いらしいが、職質されたら俺を呼ぶように電話番号も教えておいた。皇国の警官くらいなら屁理屈持ち出して言い負かしてやる自信がある。

 口喧嘩の強さはワールドクラスと合衆国留学時代に、同級生によく言われたもんだ。

 まあ、感慨に耽るのは置いておいて……とりあえずモールの一階から回るか。

 俺は先頭でフロアの特徴を説明しつつ、誘導する。一階は生鮮品や惣菜、その他日用雑貨や時計店等、混在したエリアだ。

 少女達はおっかなびっくりといった風に並んだ品々を遠巻きに見つめていた。 

 ベツガイやセノを除き、一番物怖じしていないのはセンザキ・トキヨだった。

 いつも無感情で堂々としたシトネですら少しナーバスなようで、通り過ぎる人々に一々びくりと反応しているというのに……。

 トキヨは天然気質というか、欲に忠実な所がある。人差し指を口元に当てながら涎を垂らし、惣菜を眺めるさまは流石といった所だ。

 保護者的役回りのリタ・ヒルに「と、トキヨちゃん……そんな所で止まらないで」と、やむなくその場を後にしていた。

 色々見てまわり、エスカレーターへとさしかかる。

 階段が上へと動く様を見て、キノトイ達は稲妻に当てられたような表情を浮かべていた。

 まるで過去からタイスリップした人間を見ているような気分になった。

 実演するため、先に乗ってみせると、彼女達は生まれたての子鹿のような足取りでエスカレーターに飛び乗った。








△△△


 それから色々と見て回り、三階の洋服店を訪れた時のことだ。

 リタ・ヒルが洋服店の前でピタリと足を止める。

 その時、理容院で整えた肩先の上品なストレートの三つ編みロングを揺れていた。暫く放心するように、ショウケースに並ぶ女児服をジーッと眺めている。

 彼女は面談時、雑誌を見せたときに大きな反応を示していた。パイロット組の中では、最も洋服に興味があるのだろう。


「気になるか?」


 声をかけると、彼女は我に返った。


「いえ、申し訳ありません。私のことはどうか、お気になさらないでください……」


 小学生のくせに、随分礼儀正しい言葉使いだ。それに、普段の佇まいは劣悪な人間が支配していた孤児院育ちとは到底思えない、お嬢様然とした気品がある。

 そんな彼女は、キノトイグループの中では積極性に乏しい。しかし、進んで前には出ないが視野が広く、世話焼きでよく全員の面倒を見る裏方気質だ。

 服装の乱れや髪の乱れを度々指摘し、実際に手伝って直してやっている。他の候補生達も当たり前のようにリタの世話焼きを受け入れ、享受している。半ば、集団内の母親的ポジションだ。

 

「時間はたっぷりある、食事のあとに来てみよう。洋服店もまだたくさんある、他にも気になった所があれば寄るから覚えておけ」

「は、はい」


 少し嬉しそうな表情を浮かべるリタ。そんな和やかな雰囲気の中、


「しきかんー」


 センザキ・トキヨが袖を引っ張ってきた。コイツは過酷な環境下で育った割にはフレンドリーな性格をしている。

 というのも、相手に対する警戒度を解くスピードが異常に速いのだ。朝に食堂で初絡みをしたが、その時はまだビクビクとしていた。しかし、俺が飯をやった事で彼女の中で「良い人、味方だ!」 という判定が下されたのだろう。

 そんな彼女に対し、いまだ俺に壁を作っているキノトイ達が血の気の引いた顔で俺の表情を伺っていた。

 多分、「大人にそんな態度をとっていいのか?」とか、そんなことを思っているのだろうな。

 俺はなるべく爽やかを意識した笑みで応えた。

 

「どうした?」

「ご飯は一階ですか?」


 恐らく、この発言は一階の惣菜コーナーを目撃したことが起因しているのだろう。

 俺は天井を指しながら、

 

「四階にフードコートがある。そこで食べよう」

「コート?」

「お前にとっては楽園だよ」


 言いながら頭をポンポンと叩いてやると、彼女は見事なニヤケ顔を披露した。

 よく意味は分かっていない様だが、自分に利益になることだというのは理解したようだ。愛嬌があって可愛い奴だ。九人の中では癒やし要員だな。

 そんな事を思いながら少女達を引率し、無事ショッピングモールを一通り回った。









 

 

 フードコートにたどり着き、俺たちは全員で食事を囲める席を確保した。

 パイロット達に金を渡し、好きな食事をとってこいと指示を出す。しかし、ベツガイやセノを除き、候補生達でその場から動こうとする者はいなかった。食事に貪欲なトキヨでさえ、だ。

 彼女達はフードコートに限らず、金を払って物を買うという経験が皆無だ。システムを説明しても、一向に動こうとしない。

 仕方なく、彼女らをニシモト伍長とシノザキに引きわたし、俺は遠巻きにその様子を見ていた。要するに席取りだ。一人寂しく大勢が座れる席を陣取っていた。

 俺はエンジニアと居酒屋で飲みの約束があるので、今は食うつもりは無い。腹は減っているが、軍の嘘みたいに不味いレーションでうんざりしていたのだ。これでも合衆国留学中はバイトで稼いで(当時十三歳の為、不法所得)世界各国の美食に手を出していた。自他ともに認めるグルメリストなのである。居酒屋では何処ぞのギャンブル漫画みたく、豪遊してやるつもりだ。

 と、そんな思いにふけっていると。何やら物憂げなシノザキが席に帰ってきた。だが、彼女は食事を手に持っていない。


「お前は何も食わないのか?」

「……はい、私は大丈夫です」


 何が大丈夫なのだか。

 

「おいしそう」


 ジュルリと涎をたらしたトキヨが小走りで席に帰ってきた。華奢な体に物理的に入るのか、二つのトレーを持っていて、呆れてしまった。

 背後には、居酒屋に行くのに嬉しそうに爆盛り定食を持っているエンジニア達の姿もあった。

 ふー……やれやれ。ここは上司らしくお節介をやいてやるか。

  

「エマ」

「なんです?」

「席を陣取っといてくれないか? 見てたら俺も腹が空いてな」

「いいですよ」

「ありがとう。先に食べといてくれ。彼女が餓死してしまう」


 トキヨを指しながら言うと、エマ達エンジニアは盛大に笑っていた。

 

「シノザキ、俺の護衛を頼む」

「……え?」


 シノザキは困惑しながらも、席を立った俺に着いてきた。流し見で様子を窺う。なんだか、彼女の雰囲気がいつもと違った。

 軍服の時は修羅そのものだが、私服の今となっては薄幸の美女といったところか?


「シノザキ、何が食いたい? 奢ってやろう」

 

 人間、美味いメシを食えばある程度メンタルケアにもなる。俺が屋台を指しながら言うと、彼女は伏し目がちに、


「いえ、あの、私は……」


 言い淀む。


「あまり好きじゃ無いか? こういう所の食事は」


 彼女は普段から食事を口にする時、無表情だ。というか、美味そうに何かを食っている姿は見た事がない。

 もしかしたら俺と同じで相当なグルメで、外食に相当なこだわりがあったりするのだろうか?

 そんな意図からの質問だったが、彼女は予想を斜めにいく解答をみせた。


「いえ、その……苦手なんです」

「苦手? 味か?」

「いえ、雰囲気が、です」


 雰囲気ときたもんだ。オシャレで静かなレストランではなきゃいや〜、とか、そういうのでも無さそうだ。


「そうか、少し興味がある。どういう事か教えてくれるか?」

「家族連れを見ながら食事をすると……少し、嫌な思い出が蘇るんです」


 軍人だから婚期を逃してしまう〜。家族連れとか目の毒ぅ〜、とかでも無さそうだ。結婚願望があるのなら、滅びゆく軍に身を置く様な真似はしない。

 しかし、それにしても……よくよく考えてみれば彼女も死を厭わない軍人の一人なのだよな。

 死を覚悟してまで彼女が軍に残り続ける理由は一体なんなのだろうか?

 面談時に尋ねた時、彼女はどこぞの中佐おじと同じく親御さんとは絶縁していると聞いた。理由はその時深く追及しなかったが……この際、少し踏み込んでみることにした。


「お前は両親とは疎遠だったな。その関係か?」

「いえ、両親が悪いわけではありません。悪いのは……自分なんです」

   

 悪いのは自分、か。まあ、今の時代、軍に残れば絶縁なんてのは腐るほど聞いているが。

 彼女の顔を見る限り、そんな単純そうな話でも無さそうだ。こういう場合、直接的に尋ねるよりも、少し回り道しながら話を引き出す方が精神衛生上好ましい。


「俺の知り合いに、親戚一同に蛇蝎の如く嫌われている奴がいてな」

「タガキさんですか?」

 

 知っているのかよ。同じ中隊だとは聞いていたが、少し意外だ。叔父が部下にそんなことまで話しているとは。


「お前はタガキさんとは長かったな」

「はい、入隊してから四年来、お世話になっております」

「タガキさんはお前の目から見てどうだ?」

「タガキ、さんは……私の憧れです」


 俺が目を丸くしていると、シノザキは直ぐに訂正した。


「いえ、その……異性として、ではなくなのですが」

「ああ、そうか」

「はい。あの方は、私たちを最後まで見捨てませんでした。それに……」

「それに?」


 尋ねると、シノザキは暫く間を空けてから、

 

「話は変わるのですがミシマさん。一つ質問があります」

 

 どうやら、上手くはぐらかされたようだ。気になるが、この際追及は辞めておいた。


「なんだ?」

「ミシマさんは……今大戦を生き残れるとお思いですか?」


 何をもって、彼女の口からそんな言葉が出たのだろう。

 ただ、分かった事がある。生き残れると思うか? その質問にはらんでいるのは対となる彼女自身の結論。

 分かり切っていたことだが、改めて口にされると胸を打たれた。彼女は死をも覚悟している。死ぬ気で、軍に残留している。そんな彼女に俺みたいなクソ野郎が何と言えようか。


「俺はな、シノザキ」


 彼女の目はとても澄んでいた。その瞳に映る俺は、一体どんな顔をしているのだろう。その虹彩に映るものすら忌避して、俺は顔を伏せた。


「クソ野郎だ。恐らく地獄行きだろう」


 本心だった。誰も彼も騙くらかして、時が来たら自分の正義の為にトンズラしようと考えている。

 宇宙から侵略者が来る世界に神様なんていない、地獄で裁かれる筈ない——なんて子供じみた打算まであったりもする。

 しかし——しかし、俺は——。


「正しい事はするつもりだ。自分にとってはな」


 言い終わった後も、暫く彼女の顔は見られなかった。バレないように必死で呼吸を整え、顔を上げる。

 

「この答えじゃ不服か?」

「いえ——タガキさんよりも、分かりやすかったです」


 彼女はそう口にしながら、初めて俺に笑みを見せた。

 ふわり、と。フードコートに一輪の花が咲いた気がした。

 そうか、彼女は叔父にも尋ねたのか。叔父はなんて答えたのだろうか? 彼女の口ぶりからして、どうせいつものように、けむに巻く比喩表現で誤魔化したに違いない。


「この定食がうまそうだな」


 俺の唐突な言葉に、シノザキは目を丸くしていた。構わず芝居じみた様に続ける。


「こっちもうまそうだ。だが、小食な俺では一人じゃ食い切れんな。付き合ってくれるか? シノザキ」


 彼女は俺の言葉に、またしても笑みを浮かべてくれた。

 

「そういう事でしたら」


 俺は……彼女を裏切りたく無い。彼女達だけでなく、自分が関わった人間たちには誠意を持って接したい。

 俺が計画する彼女達、引いては軍での最悪の未来を避けたい。何か、何か別の方法が無いだろうか

 そんな甘えた事を浮かべながらも、俺はとりあえず、今は目の前の部下の腹を満たす事を優先する事に決めた。


 

 








 席で食事をしながら全員の意見を聞いたが、どうやらまだ何をしたらいいかよく分かっていないらしい。

 隔絶した環境下にいた彼女らは、自分のために買い物をしろと言われても、何を買ったらいいかは分からないのだ。

 そもそも、働いていて、纏まった金のある小学生なんざ指折り数えるほどしか存在しないだろう。


「まずは服にしよう」


 俺が提案し、食事が終わるなり早速リタが気にしていた洋服屋までやってきた。

 最初は戸惑っていた彼女らだったが、店内に踏み込んで暫くすると……。

  

「これ、アネに似合うと思うよ」

「ッ! ——そ、そう?」


 リタが動いた。彼女は服を手に取り、キノトイの体にあてがいながら微笑んでいた。よく見れば、その服はショーウィンドウのマネキンが羽織り、ポーズを決めていた服だ。

 ——通りがかった時に眺めていた理由はこれか。自分ではなく、仲間に似合うと思って足を止めていたようだ。

 なるほど、良いヤツだ。自身より、他者を優先する。人類社会においてお手本の様なヤツだ。


「これはシトネ向きやな」

 

 負けじと、ヒノ・セレカも服を手に取りシトネにあてがう。

 それにより、瞬く間に集団の興味は衣服に移った。

 普段は一歩引いた立ち位置のリタが動いた事により、より大きな積極性が生まれる。

 実に、良い傾向だ。これぞ望んだ展開、自主性及び創造性の確立に役立つ。

 値札の読み方が分からない子供達にシノザキが近づき、色々と教えてやっていた。

 振り返ると、微笑ましそうにそれを眺める合衆国エンジニア達がいた。軍の立場的に、エンジニアはエルフライドの手綱を握るVIPみたいなもんだ。子供たちの最初の一歩であるショッピングが開始した今、子供達の買い物をコイツらに付き合わせるのも悪いし、こんな大所帯である必要もない。

 

「お前らは好きに出歩いていいぞ」

 

 そう伝えると、エマは分かりやすく目をぱちくりしていた。

 

「え、いいんですか? 子守りを手伝いますよ?」


 エマは殊勝にもそんなことを言い出した。


「今のうちに好きなものを買っておけ。我が国はぼったくられる事は無いから安心して金を出せばいい。俺たちは十五時にバスに荷物を置きに行く。その時に合流しよう。そこから飲み屋に連れてってやるよ」


「それは素晴らしい命令ですね、了解です!」

 と、エマがおしゃれにウィンクをして、三人は去っていった。

 子供達に視線を向けると、緊張がほぐれたのか服を手に持ち、ワイワイと盛り上がっていた。

 良い傾向だ、実に。


「ミシマさん」


 振り返ると、半ば蚊帳の外と成り果てていたニシモト伍長が、小脇に抱えられそうな紙袋を手に立っていた。


「え……なに?」

「とある人物からの差し入れです。〝ナマモノ〟なのでお早めに、と」


 生ものだと?

 俺は受け取るなり、中身は見ずに袋の外側から感触を確かめる。うむ、固いな。恐らく入っているのは何かの電子機器だろう。

 やれやれ、粋な真似をしてくれる輩がいる。ため息を吐きたくなるのを堪えながら、俺はニシモトを見やった。


「トイレに行ってくるので少し外す。待たなくて良いと伝えてくれ」

「承知しました」


 初めてはしゃぐ姿を見せる少女達を尻目に、服屋を後にした。

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