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青猫とメイドの冒険譚  作者: 山桜 つむぎ
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ご先祖さま登場



「ここは別館なんだ、屋敷のすぐ横にある森を少し入った所なんだけど、何時でも往来出来るようにお祖父様が地下で繋いだそうだ。ちょっと、面白くない?子供の頃に知っていたら絶対にミュリエルを案内しただろうね。」


「一つ言って置きますけど、もう探検ごっこを喜ぶ様な歳じゃないわ。」


本日引越した屋敷の、内装や家具はどれも時代がかり重厚感がある造りだが、私達が今居る別館の方が更に時代を遡るらしく、恐らく王都で一番大きな骨董屋でさえも中々お目にかかれないだろうと言う代物が所狭しと並び、豪華で古めかしい内装に圧倒される程だ。


ふと、目に止まった大きな肖像画は金色の額縁に収められて居り、未だ年若く美しい貴婦人の肖像が描かれていた。

何処と無くだが、エライザ夫人と面差しが似ている様だ。


その姿は、輝く様な金髪を両サイドに巻いて垂らし大きな羽飾りの付いた帽子を被っている、その堂々とした青い瞳は正面を見つめ、身に纏うドレスもかなり凝ったデザインである。


「この肖像画はヴィンスや他の公爵家の方々にとても良く似ているわ、ドレスのデザインや作風からすると一世紀以上は前の作品に見えるのだけど。若しかして、何代か前の公爵夫人なのかしら。」


本来なら侍女であるミュリエルは、ヴィンス様と呼ぶべき立場だが、幼い頃は家族として暮らしていた事もあり公爵家の人々からは昔のまま名前で呼ぶ事を求められて居た。


流石に其れはどうかと、ミュリエルも思うのだが押し負けた結果、来客時など以外は昔のままの呼び方で通す事になってしまった。


公爵一家の面々は、今だにミュリエルを先代公爵の外孫と捉えているフシがあり、形式上は主人に当るエライザ夫人も自らを叔母様と呼ばせている。


因みに、ややこしい事情だがエライザのみはミュリエルの母の異父妹であり、ちゃんと血の繋がった叔母に当たる。




「惜しいな、180年前の女公爵だよ。僕の七代前のご先祖様さ。生涯独身を通した女傑だそうだ。」


「ご結婚されなかったのなら、養子を迎えられたのですか?」


ヴィンスは小さく首を振ると、隣にある少し小さめの肖像画の横に立つ。


「此方の肖像画に描かれた人物が、女公爵の実子で父親は表向き不明とされている。因みに、当時の法律では実子なら婚外子でも相続出来たんだ。」


肖像画には、黒髪で思慮深そうな青い瞳をした青年が描かれている。


ちょうどその時、奥にある彫刻が施された重そうな扉が開き、如何にも魔術師らしい長衣を纏った人物が入室して来た。


先程、書斎で見かけたヴィンスによく似た青年であった。

改めて見ると離れた場所から見ても姿勢が良く、容姿も整っている。


ヴィンスは、男性に軽く手を振ると。


「やあ、お邪魔してるよ。ミュリエル紹介するね、此方はオルランド・ローレンス。僕の魔術と錬金術の師匠なんだ。」


慌てて、貴婦人らしく初対面の挨拶を交わし、改めて向き合ったオルランドのその容姿は、黒髪で緑の瞳だと言う事を除けば、ほぼ数年後のヴィンスそのものと言って良いだろう。


ミュリエルは不躾ながらと、前置きをすると。


「お顔立ちからして、ローレンスの名を名乗っておられますが、やはり公爵家と所縁のある方でしょうか。」


余所行きの声で、言葉を改めヴィンスに問うた。


「そうだよ。なんと先程の女公爵の内縁の夫で僕達のご先祖様なんだ。大御祖父様とでも呼ぶべきかな。」


当の、ご先祖と紹介された青年はどう見ても20代後半にしか見えない。なのに。


「歴代公爵の、相談役も務めさせていただいておりました。」


と、和やかに語りミュリエルを当惑させた。




今を去る事、約 200年ほど前のこと当時オルランドはまだ若く、得意とする魔術と剣の腕を活かして活躍し、凄腕の騎士として讃えられていた。


黒閃のローレンス卿と呼ばれ、ダリモア公爵領にあるやたらと広い森で行われた魔獣討伐の折に大いなる活躍を見せた彼は、やがて女公爵に見初められ恋に落ちると騎士を辞め魔術師として終生女公爵に仕えるべく決意を下し、その傍に赴いた。


ところが数年後、とある猟師達が領内の遺跡に眠る魔竜の封印を解き、その結果として深刻な災禍に領内が見舞われてしまった。


魔竜の討伐にはオルランドも魔術師として参加し、辛くも辛勝を勝ち取ったまでは良かったのだが、止めを刺した者にと魔竜が呪いを放ち結果オルランドは不老不死の身と成り果ててしまった。


やがて、年月が流れると5歳年長であった女公爵と死別したオルランドは、何時までも変わらぬ姿の己を恥じて、一旦は放浪の旅に出る決意をしたものの、既に大人数に達していた孫や曾孫たちに引き留められ、仕方無しに森にこの館を建てて住まう事にした。その後は、代々の子孫を見守りつつ現在に至るのだった。


因みに、魔竜から受けた呪いだが元々は石化する呪いで、試しに呪う方向性の様な物を捻曲げてみたところ、偶然にも現在のように収まったらしい。動く石像の様な物なのだろうか。


そう言えば現公爵であるヴィンスの父親も、若い頃に呪いに関する噂があり結婚が難航したらしい、どうやら先祖代々に渡り呪いと縁が深い一族のように見受けられる。


だが、ミュリエルが注目した点は全く別のところであった。

女公爵と恋に落ちた騎士、更には騎士としての全てを捨てて添い遂げた身分違いの二人。



「女公爵様を、なんと深く愛してらしたのでしょう。もし、良ければお二人の馴れ初めなど、もっとお聞かせ願えませんでしょうか。」


オルランドの昔話にすっかり嵌まり込み、女公爵が亡くなる下りで、とうとう貰い泣きを始めたミュリエルはソファーに陣取ると、ヴィンスに甲斐甲斐しく涙を拭かれながら更に話の続きを強請った。


が、もう昔から何度も同じ話を聞かされ続け既に飽きて居るヴィンスは、早々に話を切り上げると屋敷へと帰る事にした。


「その話は、また今度の機会に話して貰うと良いよ。彼なら何時でも喜んで話してくれるからね。」




ヴィンスは書斎に帰り着くと、早速机の上を片付けて夜食とデザートを食べ始めた。

既に結構遅い時間なのだが、まだもう少し執務を続けるつもりらしい。


「確か、このジュレは昔にミュリエルが始めて作ってくれたお菓子だよね。今も偶に食べたくなるんだ。」


紅茶のスコーンに、クロテッドクリームとジャムをタップリと付けると、あっと言う間に平らげジュレも完食する。


ヴィンスは先にミュリエルにも夜食を勧めたのだが、其処はけじめとばかりに彼女が断ると、どうやら別に話があるらしく椅子に掛けて待つようにと求められた。






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