第一王子殿下との邂逅 中編
説明回ですm(_ _)m
トールと共に王宮の客殿の一室へと案内され、待機している。
質の良い調度品を眺めながら、王宮に仕える侍女の淹れた茶を飲んで時間を潰し、トールから今日の予定の最終確認をしてもらう。
トールはこの日のために予め王宮へと出向き、必要な事柄を把握しているし、陛下と第一王子殿下との拝謁は、謁見の間ではなく、客殿の応接のために誂えられた一室にて、非公式の私事として行われる予定だ。
まだ子供である殿下の友人候補として引き合わされるという形である。
であるからして、僕の他にも三人ほど、別室で待機している筈だ。親睦を深めるなら、同室で待機させればと思うんだが、高位貴族の子息にたいして、王家が配慮している。軽んじてはいないというアピールもあるためなのだろうか。無駄なことこの上無いようにも感じるが、まぁ、主賓を欠いた状態で先に仲良くなられても気まずいだろうし、正当な配慮かもしれない。
内務卿である父ディーベンの息子である僕の他、今日、殿下の友人候補として選ばれたのは皆、同い年の子息たちだ。
軍務卿を初め、近衛騎士団、王宮騎士団の各団長に国軍兵団司令など、軍務に関する要職を多く輩出しているドルスボネ侯爵家の現当主の子息ナザリフ、現当主の姉が王妃殿下でもあるため、ナザリフは王妃殿下の甥であり、ナザリフから見れば王妃が伯母にあたる訳だ。
そんなナザリフは軍務の家柄ドルスボネの男子にあって、赤毛も褐色の肌も真紅の瞳も持たず、透けるような白い肌と湖畔に煌めくような蒼い髪、深い森のような緑の瞳を持って生を受けたそうだ。
そう、賢神の加護を持って産まれたのだ。後に産まれた弟君たちはしっかりと闘神の祝福持ちで赤毛だったり、褐色の肌だったりしているそうで、折角の加護持ちなのに肩身が狭いらしい。やはり呪いだろう。
魔法省において当代の魔導卿を父とし、魔学関連、魔導兵団の要職を担うサルブトゥール侯爵家の嫡男、アッズタルト、僕の家を含む四大侯爵家の一つを生家とする子息だ。
この国はかつての迫害の影響からか、魔神の祝福持ちや加護持ちが少ない傾向にあるようで、サルブトゥール家は反対に結果として魔神の祝福を強く受けることになったローゼメニア公国の出身である。
クーデターにより前王朝が倒れたさい、クーデターに協力して速やかな新王朝設立に貢献したことで、爵位と領地を与えられたのが、初代のサルブトゥール家当主であるそうで、魔神の加護持ちであったこと、魔導に優れるローゼメニア公国出身なこと、これにより、ローゼメニア公国との姻戚関係強化も含めて、魔導関連に特化した家となった。
にも拘らず、アッズタルトは赤毛らしい。
なぁ、やっぱり呪いだろ。なんでこんなチグハグな嫌がらせするんだ。この世界の神とやらは。
もうここまで来れば予定調和としか思えないが、四大侯爵家最後のコルアサルコ侯爵家は当代の法務卿を輩しており、司法関連において絶対の信を得る我が国の天秤である。
あるのだが、賢神の加護や祝福に恵まれる家系にあって、何故か神聖神の加護を持ち、王家より王族に見える色に産まれたのが、嫡男バタイルだそうだ。
別に無いわけではない。祝福持ちや加護持ちを囲み合い、姻戚関係の中で血を濃くしていった上流階級のなかなら、先祖帰りのように家柄に反した色が出ることは稀にはあることなのだという。
とは言うものの、当代の次期候補である嫡男たちが揃いも揃ってと言うのは、流石に誰もが訝しんでいたりはするようだ。
然れど、加護や祝福が無くとも当主を勤めた者も当然に過去にはいるわけで、それが、有力家が揃って加護持ちを産んだと、まあ無理矢理にでも祝福ムードにしようと国は躍起のようだ。
やっぱり呪いだろ。
そんなことをこんこんと思い耽っているとトールに声をかけられる。どうやら、父が来たようだ。
立ち上がり、利き手を胸元にあて、腰をやや折って頭を下げて待つ。客殿とはいえ、ここは王宮であり、王宮における自分は父の添え物でしかない。
僕はまだ侯爵家の嫡男となる予定の子供でしかない。対して、今世の父はこの国のNo.2、専制君主制の我が国にあって、ほぼ実権を掌握し、実質的には最も権力を持った四大侯爵家筆頭であるのだ。
先触れの使者のすぐあとに続いて父、ディーベン・アルバ・ミストレインが入ってくる。
といっても頭を下げたままの僕には足しか見えてないけどな。
「マークス、顔を上げよ。顔を合わせる機会も少ないのだ、公式の場でも無ければ、他に目があるわけでもない。少しは子供らしくしても問題ないのだぞ」
父が呆れたように言ってくる。貴族家の子息といっても、前世なら小学生くらいの子供なのだから、あまり畏まれてもという気持ちはわかる。
「お忙しい中、お時間を取らせること、誠に有難うございます。閣下におかれましてはご機嫌麗しゅうございますこと、お喜び申し上げ…」
「止めろ止めろ……これが上機嫌に見えるのか。皮肉にしてもセンスがない。もう一度言うぞ、このあとの予定に関してはそれでもいいが……いや、良くないな。同年の子息との初顔合わせだと言うに慇懃も過ぎれば、ただの無礼だ。なにをもって年相応とするかは難しいが、もう少し砕けて構わんし、私にはもっと『親子』として接しなさい。場を弁えることも大切だが、内務卿は家族すら部下のように扱っているようだと言われては堪らん」
苦笑いを浮かべる父に、笑みを返して申し訳ありませんと述べれば、軽く握った手で額を小突いてくる。
「大物だとは常々思っているが、全く緊張しとらんとはな」
そう言いながら父はトールを見やる。視線を追って僕も見てみれば、微かに震えて緊張しているのだろうことがわかる。成る程、前世では政財界の大物と合う機会もあったし、何よりも相手をどう利用するかばかり考えていたのだ。王族と合うと言われたところで、まだ子供の自分に多くは要求しないとわかっているのもあって、緊張するなんて頭に無かった。
トールの反応はいたって当然で、僕のほうがおかしいのは明白だな、確かに。
だからか、父の後ろで息子を見るベルトスの目も柔らかい色をしているように思う。
「流石はマークス様でございます。僕めの倅は歳こそ上ですが、肝の方はまだまだのようで」
それでも、父に対して当たり障りなく僕を持ち上げるために、敢えてトールを貶めている。父の性格をわかっているから出来ることだ。こう言えば父がトールのフォローに入って場を和ませることができる。
「ベルトス、マークスが少し図太いだけだ。トールはお前に似て優秀な従者だ」
ほらっ、やっぱり諌めてる。ベルトスは有難うございますと目礼して、ちゃっかりトールに目で合図してる。僕と父は仲が悪い訳ではない、ただ、ほぼ家に居ない父と僕とは距離感がいまいち掴めてないだけだ。
そこら辺、把握した上で巧く取り成す所は長年仕える従者の凄味なんだろうなー。
あと、僕って使ってるのを見てると、やっぱり「僕」って人称は直すべきなんだろうなー。
一応、人と話す時は私って言ってるけど、万が一素が出たら不味いしね。
これからは人と合う機会も増えるし、気を付けないとな。
父たちと僅かな間、歓談して、王宮の使者に促されて部屋を退出する。
ついに面会の時間のようだ。
何気に今世では同年の子供と合うのは初めてだ。
慰問や視察に赴いた先で子供を見ることはあったが、接触する機会は無かったのだ。トールも僕よりは七つ上で、同年代とは言い難いからね。
とにかく、僕の今世における初めての友人に、そして、ゆくゆくは上司や同僚、ライバルとなる者たちに合うことになる。
「うん、楽しみだね」
次話で、やっと乙ゲーのメインヒーローたちの一部が登場ですm(_ _)m