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第一王子殿下との邂逅 前編




 転生者としての記憶を取り戻してから早四年、僕は数えで十、満九歳となっていた。

 あからさまな名前でアピールしてくる魔神様から、何かしら接触があるかと思ったが、今のところはなく、いらないと言った筈のチートのような能力を押し付けたことに関しては、「まあ、あるならあるで利用すればいいか」と割り切ることにした。


 あの悪魔が何処まで本当のことを話しているかも、隠している事実が無いかもわからないのだ。

 当初は成人するまでは波風立てずに情報収集と考えていたが、どうやらそんな日和(ひよ)った考えはお気に召さ無かったらしいと、いっそ突き抜けてやることに決めた。

 まあ、その方が僕らしいだろう。



 この国の技術水準は家庭教師たちに訊く限りは世界でも圧倒的に高いのだとか。それが本当かはわからないが、転生と聞いて浮かべていたイメージよりは文化水準も技術水準も高い。

 精霊術や魔術があることが世界の技術的成長を促しているのか、魔術機関のような魔法による動力、そして、蒸気機関のような物理法則に基づく動力がそれぞれ活用されて、レールウェイが王都の中を縦横無尽と敷かれている。


 生活家電のようなものが「魔道具」「精霊具」として日常に溢れており、庶民もまた、魔道具は中々と手が出ないまでも手動による蓄圧や加圧式の道具やガス灯などを活用していると教えて貰った。


 僕の産まれた国はドルティネア王国、建国から二千年以上の歴史をもつ大国であり、当代の王は凡そ千年を経るルクス朝ドルティネアの第二十三代国王であるルーデント・ルクス・ドルティネア三世陛下であるそうだ。


 不思議なことにこれだけの文明度を持ちながら、この国は封建制度による専制君主制をとっている。

 民主的な議会も法的には存在するようだが、あまり招集されることもないそうで、中央政治は王都にいる帯剣貴族家の大臣たちと、その下で働く官僚である法服貴族家の者たちとで回っているようだ。

 僕の家、ミストレイン侯爵家は領地を持つ帯剣貴族家としては筆頭格の家柄であり、その当主である父のディーベン・アルバ・ミストレインは内務省のトップである内務卿である。


 この国において、内務省はかなりの権限を持っていて、内務卿は実質的には内政のトップであり、国王に次ぐ権限を有している。

 何せ、外務関連が外務省なのは勿論だが、現状では法務、軍務、逓信(通信、郵便、鉄道事業)を除く、中央及び地方行政の全てを扱う行政機関の総本山らしいのだ。明治期の日本の内務省も真っ青な権力の集中ぶりだ。

 因みにこの国には精霊術や魔術を扱う魔法省なんてのもあるらしい。軍務省と連携して魔法兵団を運用しているそうだ。

 その他に騎士団と、爵位を持たない者による国軍所属兵団があり、近衛、王都警邏、国境警備、それぞれを王家直轄地において行っている。

 それぞれの貴族家の所領に関しては貴族家の私兵によって防衛計画が為されており、それを統括するのは、なんと軍務省でなく内務省なんだとか、国内の各貴族家との折衝は外務でも国防でもなく、内務であるとの理屈らしいが、道理で父を家でほぼ見ない訳だと思ったね。オーバーワークにも程がある仕事の集中ぶりだ。実質、うちの父が国王みたいなもんだよ。

 だからか、うちの関係者はいい意味で傲慢で自信家が多い。まあ、そうなるよなって感じではある。



 で、次期当主としての家庭教師による扱きを自ら催促して苛烈にしてもらい、それら全てを呑み込んだ上で、さらに国内国外の様々なことを調べあげた。

 前世では革命ごっこをして遊んだ訳だけど、成る程、あの悪魔がここに転生させた訳だと納得した。

 

 この国は火種があちこちに燻っている。まさしく、政変を起こすに持ってこいな土壌が出来ている。


 実質的にはこの国を動かす政治的なトップの家柄に産まれ、次期当主としてほぼ確約している自分に、敢えてこの国を壊させる。

 魔王というに相応しい、きっと、それすらもほんの暇潰しの余興なのだろう。


 そのためには準備に根回し、そして、自分自身を高め続ける必要がある。高いスペックもこれを見越してならば悪くない。


 「楽しみだね、色々と」



 ふと溢した言葉に正式に僕の専属従者となったトールがにこやかに語りかけてくる。


 「えー、本当に楽しみですね。マークス様の初めての登城に本日は陛下や第一王子殿下との拝謁もありますからね」


 そう、今日は父の執務の合間を見て、父とともに陛下のもとに赴き、同い年の僕と第一王子殿下との引き合わせを行う予定だ。

 陛下と父のように、のちの主従関係を構築する第一歩と言うわけだ。


 とはいえ、実のところ、これから会うことになる第一王子殿下は色々と訳ありだったりする。

 と言うか、凡そ同年代の主要な王侯貴族家の子息には訳ありなものが自分を含めて多いのだ。



 王家の懐妊に際して、主要な貴族家は側近候補や妃候補となるべく子供を授かろうとする。

 必然的にそんな事を何代も繰り返せば、世代ごとに中央政治を取り巻く環境は近しい年代で固定されていく。次代の王と、主要な臣下とが、ほぼ同年代で固まって世代交代を繰り返すことになる訳だ。

 それでも、多少の前後はあるものだが、恐ろしいことに第一王子殿下と同年には何故か国務を担う大臣たちの嫡男たる子息が並び立ってしまっている。

 

 これには第一王子殿下の抱える問題が関係している。

 第一王子殿下はこの国では唯一、法的に認められた側室から産まれた国王陛下の第二子であったが、嫡男であった正妃の産んだ本来の第一王子殿下は今から二年前、数えで十一、僅か十才で夭逝されてしまったのだ。

 つまりは、自分を含めて多くの主要貴族の子息令嬢は本来の第一王子殿下に合わせて急遽仕込まれたという訳だが、そのために繰り上がった本来の第二王子殿下と同い年にたまたまなってしまっていたのだ。


 繰り上げで第一王子となった現第一王子ガレンリット殿下のご生母は我が国から独立した大公家の興したローゼメニア公国公王の娘である公女エクリフィーネであり、元を遡ればドルティネア王家の血筋であり、我が国の侯爵家であるドルスボネ家の令嬢であった正妃よりも、血統としては上だ。

 だが、本来であれば、侯爵家の顔を立てて、正妃に嫡男が授かり、その後に側妃の産んだ子は臣下へと降らせるべく、教育される予定であったようだ。


 そもそも、何故、本来認められていない側室を迎えているのか。

 これは、ローゼメニア公国の建国の由来に基づく盟約のためだ。


 我が国の王家は神聖神の加護を強く受けており、月光のように静かな煌めきをみせる銀髪とアメジストのように妖艶な紫の瞳を特徴としているのだが、ごく稀に魔神の祝福を強く受けて、黒が混じるらしいのだ。


 今では迫害は無くなったものの、建国から五百年ほどまではこの国では魔神の加護を持つ者への偏見と迫害が常態化していたそうで、今のローゼメニア公国のある西部国境と隣国マニエット聖国との間に存在する地域はそうして迫害を受けた者たちの流刑地であったそうだ。


 だが、王家から表向きは直轄地の統治のためと大公の位を授かり、その地に留め置かれた王子が、隣国マニエット聖国で発生した魔獣の異常増殖、所謂、魔獣暴走(スタンピート)が襲い掛かった事態に際して、見事に防衛に成功したばかりか、聖国の要請に応じて発生源であった迷宮(ダンジョン)の破壊に成功し、これを鎮めたのだそうで。


 これに感謝した当時の聖国国主バランティエール法王より、王子は祝福され、ローゼメニアの地にも、多大な支援が約束されたというのだ。

 こうなっては聖国と友好的な関係にある我が国で、ローゼメニアにいる民を無下に扱うことはおろか、迫害するなど出来よう筈もなく、かといって、即日、関係を修復して差別を無くすなど不可能であるために、大公家として国主と定めて属国として公国を興して独立させた訳だ。

 そして、聖国への配慮から、数代に一度、聖国法王家、我が国王家及び公国大公家との間で姻戚関係を結び、友好の証とすることが決まったのだ。


 詰まる所、当時の王家は厄介払いの流刑地を実態としてはそのままの形で残して、表向きは体裁を繕ったのだが、とは言うものの隣国の聖国は国力ではこちらが上回っているものの、我が国で最も信者の多い神聖神を祀る聖地であるために軽んじる事が出来ず、その法王自ら「黒髪の王子」に祝福を与えたことは大きな衝撃であったようで、それにより、黒髪への迫害は世代を経る毎に弱まってはいったものの、黒髪を国王に据えたことは今の今まで一度もないのだ。


 


 そして、ローゼメニア公女を母に持つガレンリット殿下は僕よりは色は薄いものの黒髪だと聞いている。

 何処にでもよく囀ずる雀はいると言うことだが、黒味がかった灰色の髪に黒の瞳のガレンリット殿下に対して、王宮内でも次期国王とすることに良く言って消極的、はっきり言えば排斥しようとする勢力がいるのだ。

  

 国王陛下には現在、三人の王子と二人の王女がおり、第二、第三王子と第一王女は正妃の子であり、第一王子と第二王女が側妃の子だ。

 であるからして、第二王子を推す派閥が既に存在している。だが、陛下自身は側妃エクリヒィーネを溺愛していると噂で、長子相続の慣習もあり、現状はガレンリット殿下が抜きん出ていると言える。


 そして、長らくこの国の行政、司法、軍務に幅広く関わり、要人を排出し続けたミストレイン家と、その家系にあって何故か産まれて来た「漆黒の子」との繋がりは色々と意味があるようだ。


 はっきり言おう。

 魔神よ、これは祝福でなく、呪いだろう。





 

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