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僕の召喚精霊 1




 ドルスボネ家へと足を運んでから、三日ほどがたつ。


 「ニャニャニャー、マークスっ、干し魚を献上するニャ」


 今、僕の前には不本意ながら僕の召喚精霊である猫擬きがいる。


 「献上したとこで食べれないだろ。召喚主の聖力を食ってる化け物のくせに」


 今は部屋の中で他に誰もいないために、思わずと素で返すけど、こいつもわざとやってるのはわかってるんだから気にしない。


 「相変わらずマークスは冷たいニャ。栄養にならないだけで、食べることはできるニャ」


 「要は必要ないと言うことだろ」


 化け物のほうには反応しないのが面白いが、実際のところ、見た目はただのちょっと異常な猫だ。前世なら、メインクーンやフォレストキャットといったあたりの長毛の大型種に似ている。


 ただ、ふさふさ具合は半端ではないけどな。尻尾とか毛が長すぎて胴回りより太くて、長さも胴体の倍くらいある。真っ白な全身の毛もあり得んほど長く、ふかふかな癖に、トリミング不要で、常にツヤツヤふさふさで、絡んだり玉にもならずに完璧な形状を維持している。やっぱり化け物だ。



 「まったく、見た目が派手なだけの猫擬きが」


 「ひどい言い草ニャ。」


 

 聖力がある一定以上あることがわかると、貴族家の子供は専属の召喚精霊を喚ぶ儀式を執り行うことが一般的で僕も三年ほど前に儀式を受けて、結果として出てきたのがこいつ、猫擬きのパルサニアンだった。


 本人は獸精の中でも高位クラスだと言い張っているけど、見た目だけだ。


 なんせこいつの恩恵は。

 足音がしなくなる。

 気配をたちやすくなる。

 気配に敏感になる。

 と、まあ猫らしいっちゃ、猫らしいが盗賊系ならともかくな恩恵ばかり。

 あとは、猫に好かれるようになるらしいが、僕は別にいらないしね。


 それともうひとつ、「歪み」という恩恵があるそうだけど、今のところ意味不明過ぎて使えない。まぁ、検証はしているし、なんとなくは予想は出来てきたんだけど、予想通りなら、見た目だけの駄猫擬きから、本人の言う通りの高位クラスの精霊と認めてやらなくもないってところだ。


 とはいえ、周りの人間からみても微妙過ぎる恩恵と尊大な態度、見た目だけはいいってところで、ハズレ精霊扱いされてる。

 さしものミストレインの天才も精霊には恵まれなかったと言われているらしいが、弟や妹、母や使用人たちには、見た目の良さと、猫被りした甘えぶりで可愛がられているんだけどね。調子いいやつだ。


 「わかった。干し魚でも干し肉でもくれてやる。すこしつきあってくれ」

 「ニャニャ、召喚精霊ニャんだから、好きにすればいいニャ。やーっと偉大な大獸精(エドアルタン)の我輩の凄さをわかったニャね」

 「稚児精(ミルマタン)の間違いだろ」

 「失礼ニャー」



 飛び掛かってくる猫擬きを軽く捌きながら、部屋の外に控える護衛を鈴を鳴らして呼ぶ。

 護衛にトールを呼ぶように言伝てると、侍女を連れだってトールが駆けつけてくる。


 「マークス様、遅参致しました。お呼びとのことで」

 「手の空いている我が家の武人を数名、中庭にあつめてくれるかい。パルサニアンの恩恵について、すこし調べてみたくてね」

 「精霊様のですか、かしこまりました」



 暫くして、準備が出来たと声がかかる。侍女たちに乗馬服に着替えさせて貰いながら待っていたが、丁度良いタイミングだ。


 「うん、トールも中々に使えるな」


 そんなふうに呟くと侍女たちが嬉しそうにしている。トールが喜びますなんて口々に言っているが、好かれているようで何よりだ。


 「マークス様、委細整いました」

 「うん、では行こう」


 トールについて中庭へと出る。警護を担当する我が家の私兵の長がそこに佇んでいるのが目に入る。


 「ガンストか。新兵でも困るが、わざわざ兵団長に来て貰えるとはね」

 「マークス様が武人に手を貸して欲しいとのことで兵団長に相談しましたら、ご自分から進んで来てくださいました」

 「それは有り難いね」


 トールとそんなことを話していると、こちらに気付いたガンストが走り寄ってきた。


 「マークス様、兵に用があるとのこと、このガンスト、及ばずながらお役にたてればと」

 「兵団長が役に立たないなんてことはないだろう。ガンスト自ら立候補してくれるなんて嬉しいよ。ありがとう」

 「うぉぉぉー、そのような過大な評価をいただきまして、このガンスト、感無量です」


 目測で2メートルはかるく超え、筋肉と程好くのった脂肪で厚みの有りすぎる身体を限界まで縮めて、臣下の礼をとるアメフトのフォワードか、ボスゴリラ(シルバーバック)のような大男が、髭だらけの顔で今にも泣きそうな雰囲気で感極まっているのは、正直暑苦しいし、キモい。


 実のところは孤児出身だったそうだが、平民では稀にみる闘神の加護持ちで、灼熱の紅い髪に黒い肌、10に満たないうちから同年代から頭2つ以上は背が高い目立つ見た目で、先代、つまりは僕のおじいちゃんが孤児院から買い上げて、育て上げたことで、忠誠心が非常に高く、能力も申し分ない。


 黒炎のガンストなんていう二つ名持ちで、私兵としてだけじゃなく、数々の戦役やモンスター討伐、巨獸討伐に派遣されて、両手じゃ足りないほどの武勲を上げた古強者らしい。

 まぁ、今は新人教育と警備の指揮が主で前線に立つことは無いんだけどね。


 「期待してるよ。悪いんだけど、聞いてるとは思うけど、パルサニアンの恩恵について少し試したいことがあるから、協力を頼むね」

 「マークス様の精霊ですからな。必ず隠れた素晴らしい力があると思っておりました。このガンスト、その解明に死力を使う所存ですぞ」

 「そこまで熱くならなくて大丈夫だからね」


 うん、忠誠心が高過ぎなのも少し考えものだな。

 面白いから良いけどね。








 

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