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77.賢者様、あの人に出くわす?




「突然話しかけて、ごめんなさい! 私、イルミナと申します!」 


 私たちに話しかけてきたのは、狼っぽい耳を持つ女の子だった。

 年は私たちと同じぐらいで、冒険者でもしているのだろうが、私はその服装に少しだけ身構える。

 かなり胸元がはだけた格好をしており、正直、こぼれそうだったからだ。

 なんなの、あんた、寒くないの?


「あぁ、えっと私はアンジェリカで、こっちはアロエとライカとクロエですけども」


 イルミナといった女の子から邪気は感じられないので、素直に自己紹介をする。

 それにしても、私たちに何かの要件だろうか。

 挨拶とはちょっと違う気がする。


「この教会の地下で人が動けなくなってるみたいなんです! 一緒に助けにいってくれませんか?」


「地下に人が!?」


「えぇ、あっちに通路があるんです! 私も偶然見つけたんです!」


 廃教会にお宝はないかと潜り込んだ冒険者が罠か何かに引っかかったのだろう。

 強いモンスターもいなさそうだし、ちょっと間抜けなEランク冒険者あたりだろうか。


「そういうことならやぶさかでないですよ! 先輩は人助けが趣味ですから!」


「えぇえ!? 下に潜るんですの!? 絶対、出ますの! 最悪ですの!」


「まぁまぁ、困ってる人がいるなら行ってみようよ」


 渋るクラリス様を説得して、私たちは地下に向かうことにした。

 正直、私の趣味は人助けではない。

 だけど、こんなザコい教会で動けなくなってるやつの顔には興味がある。

 きっと、相当な間抜け面のはずであり、私のFランクカムフラージュの大きな学びになるだろう。

 あたしゃいつだって勉強熱心だからね。


「うわぁ、涼しいですね!」


 地下に降りると辺りはひんやりと涼しい。

 これならあの虫どもは現れないだろう。

 ライカは夜目が効くらしく、薄暗い中でもどんどん進んでいく。

 壁は石造りで、かなり頑丈そう。

 崩落の危険性もないだろうけど、教会にしては物々しすぎる気がする。

 まるで要塞や砦のような造りだ。


「ひぃいい、嫌ですのぉおお! 真っ暗ですわ!」


 クラリス様は私の腕にしがみついて声をあげる。

 ふぅむ、さすがに松明だけじゃ心もとないか。

 イルミナさんがいる以上、大っぴらに魔法を使うわけにはいかないんだよ。

 ちょっとだけ我慢してもらおう。


「お師匠様、あのネズミがいますよっ!」


 ある程度進むと、例のネズミが現れ始める。

 例の魔法でコレクトしてもらうのもありだけど、ちょっと派手すぎる。

 私は【死の尻尾鞭】の魔法で尻尾を伸ばすと、周辺のネズミを駆除して進む。


「ひえぇええ、お姉さんの尻尾、便利ですね!」


 イルミナさんは魔法だと気づいていないらしく、嬉しそうにしている。

 しかし、次の言葉に私は耳を疑う。


「なるほど、魔力を尻尾に通して強化するんですね! すごい魔法ですね」


「……そうだね」


 彼女は魔力を感知していた。

 それどころか、魔力をどう扱っているのかさえも。

 つまり、彼女は魔力が分かるのだ、獣人なのに魔法を理解しているのだ。

 彼女の言葉を聞いていたのは私しかいないため、ここは敢えて流すことにした。

 クラリス様は怯えてほぼ自失状態だし、ライカはずいぶん先に行ってしまった。


 この子は怪しい。

 何かが違う。

 そもそも、私たちを地下に案内している理由は何だろうか?

 私は罠の可能性もひっくるめて、万全の準備を整えておくことにした。


 罠に捕まった間抜けよりも、彼女が魔法についてどれぐらい理解しているのか話し合いたいという気持ちが猛烈に沸き起こっているのも事実だった。

 ライカやクラリス様は私との研鑽によって魔力が使えるようになった。

 しかし、彼女は違う。

 私との接触なしに魔力を理解しているのだ。


「あ、ここですっ! 上の方から声がするんです!」


 考え事をしながら進むと、開けた空間に出た。

 構造はよくわからないが、地下空間の上の方には天窓らしきものがあり、案外明るい。

 イルミナが宙を指さすと、そこには檻みたいなものが浮かんでいた。


「誰かいるの!? 私たちを助けなさい!」


 どうやらあれが罠で、女の人が捕まったらしい。

 偉そうな物言いだなと思うけど、まぁ、必死なんだろう。


 「間抜けなくせに高飛車」って救いようがないぐらい哀れなやつ。

 くふふ、どんなツラをしているのか楽しみだ。


「おーい、大丈夫ですかー?」


「助けなさいよっ!」


 ライカは檻の人たちに向かって手を振る。

 大分高い位置にあるので顔は見えにくいけど、どうやら無事のようだ。


「ライカ、あの檻の上に登れる?」


「お安い御用です!」


 檻の高さは10メートルぐらいなのだが、ライカは壁を蹴ってその上に到達。

 相変わらず魔法使いをさせておくにはもったいない身体能力だ。


「お師匠、いや、先輩、この檻は鎖で吊るされてますよ!」


「ちょっと、鎖を切ったら危ないでしょ!?」


「先輩、鎖は簡単に斬れますよーっ!」


「話を聞け!」


 ライカは檻の中の人たちとなんやかんや話しているようだ。

 その間、私も準備を完了する。

 檻を受け止めれば問題なしってわけである。


「檻の中の人、しっかり捕まっててね! ライカ、鎖を切っていいよ!」


「はーい! でりゃっ!」


 ライカが回し蹴りで檻を支えていた鎖を一閃!

 檻はひゅーんと地面に垂直落下する。

 このままじゃ怪我をすると思うだろうけど、さにあらず。


 檻の下にはモフモフの長い毛が迫っているのだった。

 檻はずぶずぶずぶっと毛の中に埋まっていき、いい感じに地面で静止する。

 これなら檻の中の人も無事のはず。


「ひぎゃあああ、何よこれ!? 毛!? 毛よね、これ!? バカなの、こんなの最悪!?」


 檻の中の人物はさっきから悲鳴を上げてばかりだ。

 それも口が相当悪い。

 まぁ、だからこそ、顔を拝むのが楽しみってわけである。

 高飛車女がどんな間抜け面してるか見てあげようじゃないの。


「おーい、大丈夫ですかー? ……は?」


「は?」


 毛をかき分けて檻に近づくと、そこには私のよく見知った顔があった。

 ピンクの頭の悪そうな髪の色。

 正直、顔を一番見たくない奴だった。


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