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72.銭ゲバ聖女様、ランナー王国に突撃してくる

「違法な魔法研究を確認しました。強制執行させていただきます」


 私の名前はルルルカ。

 中央聖教会に所属する聖女である。

 私がいるのはとある貴族の研究室。

 目の前には大小さまざまなガラス管があり、その中でモンスターがうごめいている。

 見るからに禍々しい邪教の研究である。

  

「ひぃいい、この研究だけは! この研究だけは見逃してくださいぃいいい!」


「長年の悲願なんだ、ちょっとぐらいいいじゃないか!」

 

 私の目の前で土下座をしたり、激昂しているのは、その研究者たちだ。

 彼らは危険な研究を通じて、貴族から多大な対価を得ている。

 数年前に発生した人工魔獣の暴走もあり、中央聖教会では危険な研究に規制をかけようとしているのだ。

 あまりに危険な場合には強制的に研究を止めたり、あるいは罰金を科したりする。

 私は今、その仕事の真っ最中というわけだ。


「聖女様、三千万ゼニーの罰金証書を作成しました」


「いいでしょう。それじゃ、期日までにお支払いくださいね」


 私のアシスタントであるミナモトが研究者たちに支払い確約書を手渡す。

 青ざめた顔で口をパクパクさせて、もはや声も出ないと言った表情。

 気の毒ではあるが、世界の平和の為に危険な研究の目は早めに摘まなければならないのだ。


「お、鬼だっ! あんたは聖女の顔をした鬼だぁあああ!」


「この人でなしぃいいい!」


 非難の声が聞こえてくるが、今の私には小気味いい悲鳴にしか聞こえない。

 なんせこの仕事、一回当たりの報酬が非常にぼろいのだ。

 彼らに科した罰金の四割が私に転がり込む計算なのである。

 このままいけば今年中には実家の教会をリフォームできそうだ。


「ふふ、お茶が美味しい」


 一仕事終えて、街中で美味しいお茶を味わう

 口の中に広がる高貴な味。

 優雅な昼下がりの時間を堪能できるってなんて素晴らしいことだろう。

 勇者パーティ時代には想像もつかないことだ。

 あの頃はひどかった。

 バカで凶悪な三人組と一緒に旅をしたことで、行く先々で借金を作った。

 あのバカたちが暴れまわるだけ暴れまわり、謝るのはいつも私。

 そもそも、勇者は話を聞かないし、槍使いは喋らないし、猫女はうるさいし。

 あぁ、あの頃の悪夢よ、さらば。

 もう二度と関わることなんてないでしょうね。 


「さて、他に金づる、いや、邪悪な連中はいないかしらね」

 

 違法研究の取り立てはとても割のいい仕事だ。

 このまま旅を続けて、蓄財に励みたいところだ。

 そこで問題になるのは次のターゲットである。

 できれば数億円規模の取り立てをしたいところだけど。


「聖女様、そう言えば、ランナー王国で正体不明の魔法陣が観測されたと報告が上がっております」


「ランナー王国で?」


 ランナー王国と言えば、大陸の東側に位置する比較的大きな国だ。

 思い返せば、あのバカ猫女が宮廷魔術師として務めていたはず。


 ふぅむ、正体不明の魔法陣ね。

 怪しいにおいがぷんぷんするわ。

 あいつが邪教に寝返って、魔法由来の魔法陣でも発動させたのかしら。


「いいえ。どうやら、古代の魔法陣だったらしいと言われております」


「古代の魔法陣……。におうわね」


 ランナー王国と言えば、何百年も前に魔獣大戦が行われた地域だ。

 古代の遺跡に大昔の破壊兵器や魔法陣が残されていることがあるとも聞く。

 もしかすると、ランナー王国の誰かがそれを活用して、違法な魔法研究をしているかもしれない。


「お金のにおいがするわ。行きましょう、ランナー王国に!」


「はいっ、聖女様!」


 私たちは勢いよく席を立つ。

 目指すはランナー王国。

 もしかすると、あのアンジェリカが違法なことをしているかもしれない。

 かつての旧友を糾弾するのは胸が痛むが、神の御心に反する行為は違法だ。

 こればかりはかばいきれないし、そもそもランナー王国の貴族が金を出しているに違いない。

 すなわち、使用者責任で貴族に罰金を支払ってもらう必要がある。

 

 私たちは神の教えを破壊する無法者を成敗するために、一路、ランナー王国を目指すのだった。



「これはこれは聖女様、ようこそ! いらっしゃいました!」


 ランナー王国に到着すると、大臣が揉み手をして出迎えてくれる。

 しかし、その姿は異様そのもの。

 車いすに乗った体の三分の一が包帯で包まれているのだ。


 話を聞くと、先日、船に乗っている際に事故に遭ったとのこと。

 回復魔法をかけてあげるか悩んだが、業務の目的と異なるのでやめることにした。

 この聖女様に回復してほしければ、お金をはらうべきでしょ。


「それで、この度はどのようなご用件ですかな?」


「ジャーク大臣、先日、こちらの王都の上で古代の魔法陣が観測されましたと聞いております。その詳細を知りたいのですが」


「こ、こ、古代の魔法陣ですとっ!?」


「えぇ、衛兵さんや街の人々に聞いたところ、ちょうど大臣の屋敷の上だったそうですが」


 私は単刀直入に話題を切り出すことにした。

 ジャーク大臣は怪我人である。

 しかし、私が追及の手を緩めることはないのだ。


 そもそも、私たちが手ぶらで王宮を訪問することはない。

 私のアシスタントをしているミナモトはもともとレンジャーだったこともあり、優秀な情報収集能力を持っている。

 事前に必要な情報を集めておいたのだ。


 そして、判断した。

 ランナー王国の第一の権力者である、ジャーク大臣が怪しいと。

 

「し、し、知りませんなぁ! そんなものは! 私が知っているわけがないっ!」


「そうですかぁ。古代の破壊魔法の運用は固く禁止されており、場合によっては億単位の罰金が生じるんですけどねぇ」


「お、億単位だと!? な、なんだそれは! そんなデタラメがあっていいのか!?」


 私が言ったのはもちろん、デタラメである。

 古代魔法を使用したから即罰金というわけではない。

 あくまでもブラフなのだが、ジャーク大臣はわざとらしいぐらいに狼狽してみせる。

 これでは自分が犯人だと言っているようなものだ。

 もっとも、その詳細をペラペラ話すとはこちらも思っていないけど。


「それでは実地で調べさせていただくしかないですわね」


「な、な、なにを言っておるか!? 職権乱用だ、そんなものは!」


「はいはーい、言い訳は後ほどお聞きしますので!」


 大臣の反応があからさますぎるので、私はそのまま実地調査に入ることにした。

 大臣はあーだこーだ言っていたが、「中央聖教会に逆らうつもりではありませんよね?」の一言で沈黙。

 あぁ、気分がいい。


 今回の実地調査の目的地はもちろん、魔法陣が作動したであろう大臣の家だ。

 おそらくはここで違法な研究がおこなわれていたに違いない。


「何もないぞ、何もないぞぉ!? こんなことが許されると思っているのか!」


 大臣は目を真っ赤にして抗議するも、聞く耳は持たない。

 犯人はたいていの場合、自分は無実だと言い続けるのだから。


 私たちは大臣の家をくまなく探しまわる。

 大きな家で、間取りも豪華。

 しかし、裕福であると思っていたが、想像以上に質素な暮らしをしているようだ。

 使用人の数も少なく、想像していた以上に貧しいのかもしれない。


「……聖女様、何も変わったものは出てきませんでした」


 一時間ほど、ミナモトが調査を行うも、反応は芳しいものではなかった。

 家具をどかして秘密の扉などを探したのだが、それすらも不発である。

 唯一、気になったのはベッドの下に地下室があったことだが、がらんどうで何も置いてはいなかったとのこと。

 完全なる肩透かしである。


「ほぉれ、見たことか! 私は何もやっていない! やっているものか、誰がやったんだ、くそがぁあああ!」


 地下室に降りた私たちを見て、大臣はなぜだか大きな声を出す。

 やたらと怒り狂っているが、誰に対して怒っているのかすらわからない。

 この男、情緒不安定なのかもしれない。


「失礼しました。聖女様、これで疑いは晴れましたかな?」 


「まぁ、一応はそうなるかしら」


「ひへへへ、私の家はここぐらいにして城に戻りましょう。あ、こちら、お土産にございますぅ」


「あらあら、これはこれは」


 大臣はやっと我を取り戻し、私に小ぶりな袋を差し出してくる。

 ずしりと重いその触感に私はすぐに金貨であることを理解する。

 おそらくはへそくりか何かを屋敷に隠しており、私たちに見られたくはないだろう。

 うふふ、魚心あれば水心ってやつかしら。

 この大臣、案外、わかっているじゃないの。


 穏便に済ませてあげようかと思う反面、私の心はどこかに引っ掛かりを感じる。

 この大臣は何かを隠している。

 しかし、今の私にはわからない。

 もう少し情報を集めることに決めた私なのであった。


聖女様、いよいよです!

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