本日、裏通りを歩いておりましたら。
本日、裏通りを歩いておりましたら、
三匹の黒猫と遭遇しました。
私の行く手を阻むように三匹並んで道の真ん中に座っております。
『この道を通りたくば我らを倒してから行くがいい』
そんな感じで佇んでおります。
「通していただけませんか?」
もしかしてここは彼らの縄張りなのかもしれない。
一応礼儀は通さねば。
私はそう考えました。
「私はここの先にあります和菓子屋さんに行くだけです。空き巣狙いに周辺調査をしにきたわけではありません。どうぞご安心ください」
とりあえず通行目的を申告。
三匹の猫達は私をじっとみている。
話が通じない。
まあ、猫だし。
ショバ代とか賄賂が必要なのだろうか?
しかしいまは猫カンもちゅーるも持ち合わせていない。持ってるのはポケットに500円硬貨一枚だけ。
しょうがない、遠回りになるが表通りにまわろう。
私はくるりと踵を返した。
と、その時・・、
「ニャー・・」
一匹の猫が私に話しかけてきた。
チャンス!私が怪しい奴ではないとわかってくれたのか。
私は、猫と同じ感じで
「ニャー・・」
と答え、さらに、
「ニャー、ニャニャ・・ミャォン・・」
と、事情を説明した。
三匹の猫は、互いに顔を付き合わせると、すっくと立ち上がり、民家の塀の上にひょいと飛び乗って、てくてくと歩いて去っていった。
よかった。わかってくれたのか。
自分でも何を言ったかぜんぜんわからないけど通じたようだ。
私は目的地の和菓子屋に向かった。
しばらく歩いていると、和菓子屋が見えた。
よし、着いたぞ。
でも、なんだろう?様子が変。
怒鳴り声がする。
私は和菓子屋の入り口まで近づいた。
張り紙がしてある。
━━━お通夜?誰かが亡くなったのか。
ああ、そうか。
私のお通夜か。
・・・私は死んだのか。
ずっと入院してたからいつかは死ぬだろうと思っていたが。あと三日で19歳だったのに。
仕方ない。人は生きていれば皆死にゆくのが運命。
「ニャー・・」
さっきの猫がまた現れた。
なるほど、君達は私の道先案内猫だったのか。
「・・・連れていっておくれ」
私が言うと、
「ニャー・・・」
と猫が和菓子屋を見た。
「いいんだ。会いたい家族なんていないしね」
両親はケンカばかりしていた。お金がないといつも嘆いていた。祖父母はなんであんな病持ちの子供を産んだと文句をつけていた。
入退院の繰り返しで、治療費は莫大だったろう。
その辺は申し訳なかったと思う。
「さあ、行こうか」
私は病からも家族からもやっと解放されたのだ。
猫達が私の前を歩いていく。
私は猫達のあとを着いていく。
てくてくてくてく歩いていく。
「あ、猫だ!お母さん、黒い猫と三毛猫だよ!」
子供の声がした。
三毛猫?
私は自分の体を見た。
もふもふの三毛柄になっていた。
神様は願いを叶えてくれたようだ。
ずっとずっと思ってたんだ。
次は猫になりたいなって。
猫になって日がな一日、日向ぼっこするんだって。
神様、ありがとう。
願いを叶えてくれて。
私は涙がこぼれた。
「あれ?おばあちゃん、ここの和菓子屋、閉店したんだね。美味しかったのに」
「ああ、味が落ちて誰も買わなくなったんだよ。お菓子の管理も悪くなって・・」
「へぇ?有名店だったのに珍しいね。味が落ちるって」
「孫が死んだんで気合い入れて作らなくてもよくなったって、店も自由に休めるから楽になったよって言ってたから・・」
「何それ?ひでぇじゃん」
「医療費がかなりかかるから稼がなきゃいけないって話は前々から聞いてたんだけど・・・」
「でもさー、ってことはこの店が繁盛してたのお孫ちゃんのおかげだったんじゃん」
「ほんとだよねぇ。お孫さんが亡くなってからなんだかいろいろうまくいかなくなったみたいだから。わからないもんだよねぇ」
「ニャー・・」
「あ、三毛子猫。かわいい!おいでおいでー。・・やーん、スリスリしてくれる」
「最近ここらでよく見かける猫なんだよ。人懐っこくて」
「野良ならあたしが飼おうかな。前の子が虹の橋を渡ってからだいぶたつし・・。今のアパートもペットOKだし。さあ、一緒に行こうね、猫ちゃん。一応飼い猫かどうか確かめてみないとだな」
「ニャー」
ずっとずっと思ってたんだ。
次は猫になりたいなって。
猫になって日がな一日、日向ぼっこするんだって。
おわり。