06 トラブルだらけにゃ~
「違うにゃ! 魔王じゃないにゃ! わしが魔王だったら、王女様にゃんて助けないにゃ~~~!!」
わしが勇者の剣を抜こうと力を入れすぎたが為に裏庭一帯を持ち上げてしまったので、民衆はわしを指差して「魔王、魔王」とか言っている。
なので必死の言い訳をしてみたがあまり効果がない。王女様のサトミを頼りたいところだが、サトミの目もちょっと怖い。しかし、頼るしかない。
「ほら? わしってかわいい猫にゃろ~? ゴロゴロ~」
もう、恥も外聞も無い。喉を鳴らしてサトミにスリ寄ってみた。
「ヒッ……まお……」
「にゃ~~~! 今朝まで命の恩人って言ってたにゃ~。王様もわしを騎士に取り立てようとしてたにゃろ~? それに、冒険者になったんにゃから、共に魔王を倒そうにゃ~!!」
ここでサトミの口から間違っても魔王と出たら、確実にわしは魔王認定。かわいこぶりっこで乗り切れなかったので、これまでの経緯を思い出してもらい、なんとか魔王認定を阻止するわしであったとさ。
「はぁ~~~。危なかったにゃ~」
運が悪ければ、わしはこの世界に住む全員から追い回されるところであったが、サトミが誤解を解いてくれたのでギリセーフ。民衆はサトミが解散させてくれた。
「あの……あれほどの力があるのに勇者じゃないって、シラタマ様はいったい何者なのですか?」
「ただの冒険者にゃ~」
「ぜったい違いますぅぅ!」
「じゃあ、ただの猫にゃ」
「それも違いますぅぅ!」
サトミが面白いぐらいツッコンでくれるので、全てを語るほうが面白くなりそう。なのでわしは、変身魔法を解いて雪だるまみたいな猫になり、サトミ膝に飛び乗った。
「え……猫?」
「ゴロゴロゴロゴロ~」
「あ……モフモフしてる……よしよし~」
「ゴロゴロゴロゴロ~」
ようやくわしの必殺技はサトミに届く。わしのモフモフにメロメロになったサトミは、優しく撫でるのであった。
「何してんだか……」
べティの冷たい目は無視してやるのであったとさ。
しばしアニマルセラピーでサトミを癒してあげていたら、コリスがわしを取り上げてパクッと食べた。どうやらランチの時間みたいだけど、いまはやめてくれ。
せっかくサトミの緊張が解けていたのに、さっきの非常事態を思い出してしまったじゃろうが……
このままでは、またわしのことを魔王とか言いそうなので、サトミにも猫の国料理を出して機嫌取り。べティの作りしフランス料理は、全て高級食材を使っているのでサトミの記憶改竄に役立ってくれた。
「すっごく美味しいお肉ですね。ドラゴン肉に匹敵しそうです」
「ドラゴンって美味しいんにゃ~。どこかで食べられたりするにゃ?」
「めったに仕入れられないので、たまにしかうちにも並びません。冒険者さんが二十人以上で狩って来るそうですよ」
「あ、じゃあ、依頼に上がっているんだにゃ。探してみるにゃ~」
「是非!」
サトミはドラゴン肉が好物みたいなので、完全に魔王のことは忘れてくれた。なのでわしはホッと胸を撫で下ろし、べティと今後について話し合う。
「とりあえず、今日は宿を取って行動は明日からにしよっかにゃ?」
「そうね。でも、ギルドに朝から行ったら依頼の取り合いになるんじゃない? いまから行って、依頼の確認はしておいたほうがいいわよ」
「じゃ、そんにゃ感じでいこうにゃ~」
食事も話し合いも終わったら、席を立つ。その時シスター長が駆け寄って来て、サトミとゴニョゴニョやっていたから、わしは嫌な予感がしたので皆とこっそり逃げようとした……
「どちらへ??」
しかし、サトミの腕が異常に伸びて来て、首根っこを掴まれてしまった。
「いや、もう用事は終ったしにゃ……てか、いまのどうやったにゃ?」
「逃げようとしたでしょ!!」
ギャグっぽい仕草への問いは無視。サトミはわしをぐわんぐわんと揺らしながら、止めた理由を説明する。
「シラタマさん達のせいで教会のガラスが全滅なんですよ! こんなの私のおこづかいでも弁償できません! 払って行ってくださ~い!!」
「わしのせいにするにゃ~~~」
いや、確実にわしとコリスのせいだと思っていたから逃げようとしたのだ。それに、請求書を渡すシスター長の顔が鬼の形相だったし……
「てか、わし達の全財産、知ってるにゃろ?」
「あ……私の一年分のおこづかいが……え~~~ん」
「泣くにゃ~。弁償すればいいんにゃろ~?」
斯くして、わしは異世界生活二日目で、多額の借金を背負わされるのであったとさ。
でも、サトミのおこづかい多すぎない? ちょっとした村の予算ぐらいあるんですが……毎年貯めていなかったのですか? 全部使い切っていたのですか。そうですか。
このまま教会を離れたいところであったが、ちょっとでも借金を減らそうとガラス魔法で教会の窓の修復。その結果、わしの直せないステンドグラスの代金だけで済んだので、借金は3割カット。
ぶっちゃけ立派で美しいステンドグラスがお高いから、こんな村の予算みたいな値段になっていたようだ。
ちなみに勇者の剣は、わしがやらかしてしまったのでしばらく裏庭には立ち入り禁止。安全が確認できるまで新規挑戦者も断るらしい。
そんなこんなで無駄に長く滞在した教会からようやく脱出。わし達が馬車に乗り込んだところで、忘れ物が発覚。
「う~ん……」
「べティ。にゃにしてるにゃ~? 置いて行くにゃよ~??」
「あ、すぐ行く~!」
べティは何やら真剣に見ていたが、わしに急かされて馬車に飛び乗るのであった。
馬車に揺られて冒険者ギルドに戻ったら、掲示板から目ぼしい依頼を探す。
「これなんてどう? 魔王の討伐、めっちゃ高いわよ??」
「いきなり本丸に乗り込むにゃよ~」
べティが選んだ物は、さすがに却下。だって話がすぐに終わる……この世界の問題に異世界人が関わるべきではないだろう。
「ここは、薬草採取からやらにゃい?」
「やすっ!? あんた、借金あるの忘れてないでしょうね?」
「どっちみち踏み倒す可能性が高いんにゃし……」
「それは人としてどうなの?」
「猫だにゃ~」
「シラタマ君ならあの程度すぐ返せるでしょ!!」
スサノオから元の世界に引き戻されたら借金苦なんて、あってないようなもの。それよりも、わしは異世界ならではの依頼を楽しみたいのだ。
「これはどう? この『太陽の雫』を持ち帰るっての。一発で借金チャラよ。それにワイバーンの巣を越えないと行けない場所にあるから、二度美味しいわよ??」
「お~。それは面白そうにゃ~。登山道具も用意しなきゃだにゃ」
「よし! 決定ね!!」
意気揚々とべティは依頼用紙を引きちぎる……届かないみたいなのでコリスに高い高いしてもらって引きちぎり、受付カウンターに持って行くのであった。
「なんでよ!!」
しかしながら、ウサミミ受付嬢から受け付けられないと断られてしまった。
「なんでとおっしゃられても……今日、登録されたばかりですから、ランクは一番下のFランクだからです。そちらの依頼はAランクなので受けられるわけがありません」
「え~! あたしってレベル高いんだからいいじゃな~い!!」
単純に規約違反。説明でも言ってた。忘れていたわし達が悪い。だから、べティは癇癪を起こした子供みたいに床に寝転んでバタバタしないでほしい。
「幼い子ならわかるのですが、ドワーフがやられたらイタイだけですね」
「なんですって!?」
幼女の力は、発揮されず。元の世界ならそこそこ効き目があるのだろうが、如何せん、ここは異世界。魂年齢がそのまま認知され、ドワーフと思われているのだから効くはずがない。
これ以上揉めると超恥ずかしいので、ここはコリスのモフモフロックでべティは拘束。でも、モフモフ言って幸せそうだな。
「じゃあ、薬草採取を受けるにゃ。そこでにゃにかモンスターが出たら、狩っていいんだよにゃ?」
「はい。常時依頼扱いになりますので、もしも倒した場合はドロップアイテムを提出してください」
「そんじゃあ、手続きよろしくにゃ~」
「少々お待ちください」
ウサミミ受付嬢は相手がわしと交代してからは安心して仕事に取り掛かれるようで、懇切丁寧に説明してくれた。
薬草の絵だけじゃいまいちわからないので現物が欲しいとも言ってみたら、売り物にならない小振りな薬草もくれたので至れり尽くせり。クレーマーのべティを黙らせたわしは、信頼できると思ったのだろう。
「ここまでサービスしましたし、ちょっと尻尾を握ってみてもいいですか?」
「ちょっとだけだからにゃ~」
いや、わしの背後にある三本の尻尾が気になっていた模様。立って歩く猫は珍しくはないのだが、猫又はそれほど多くはないみたいだ。
わしの身を売って厚待遇で依頼を受けられたので、明日に備えて宿を探さなくてはならない。ウサミミ受付嬢なら安くていい宿を知っていると思って質問したら、サトミが今日も泊めてくれるとのこと。
「でもにゃ~。連泊にゃんて迷惑にゃろ?」
「いえ。シラタマさん達を町に解き放つほうが何かと起こりそうですし、何より借金があるので逃がすわけにもいきません」
「……もうちょっと本心は隠してくんにゃい?」
「あっ! 違います違います。命の恩人にはですね。その……」
「もう遅いにゃ~」
建前をあとから言われても遅すぎる。しかし、これから宿を探すのも面倒なのでお言葉に甘えることにしたのだが、お約束のあのイベントがここで起こった。
「こいつらか? ゼロレベルなのに無謀なこと言ってる奴らは~??」
モヒカンのガラの悪いデッカイ男が絡んで来たのだ。
「またにゃ……こういうテンプレって、にゃんで起きるんにゃろ?」
「あ~。あたしも新人が絡まれる姿を何度か見たことがあるわ。あたしはかわいいから絡まれなかったけどね」
「うっそにゃ~。わしにゃんて死ぬほど絡まれたのに、べティが絡まれないわけないにゃ~」
「あんた。自分の姿、忘れてるでしょ? そりゃ絡まれるわよ」
「ホンマにゃ!? にゃはははは」
「きゃはははは」
ガラの悪い男の登場から、わし達は昔を思い出して大笑い。その態度が気に食わないと、ガラの悪い男がわしに詰め寄った。
「無視すんじゃねぇ!」
「あ、忘れてたにゃ。それで用件はにゃんですか?」
「テメェら、太陽の雫の依頼を受けるそうじゃないか」
「受けたかったんにゃけどにゃ~。受付の人に止められたから、薬草採取に変えたにゃ~」
わしとしては、このガラの悪い男は新人を甚振るのが趣味の人だと思っていたのだが……
「おお! そうかそうか。前に新人が無茶やらかして死んだから、嫌われてでも止めようと思っていたが、いらぬ心配だったようだな。時間を取らせてすまなかった。死なない程度に頑張るんだぞ。あ、アメちゃん食べるか?」
めっちゃいい人。心配で止めに来てくれただけ。アメまで恵んでくれて、去って行った。
「ま、こんな人もたまには居るわよ」
「う~ん……にゃんだかにゃ~」
このテンプレは、わしはいつも回避できていたので、今回こそはと思っていたのだが願いは叶わず。なんだか少し納得のいかない今日この頃であった……