30 四天王の登場にゃ~
勇者パーティはわし達に見られているとは気付かずに、魔王城2階を前進。意気揚々とサトミを先頭に歩いているけど、回復職なのにいいのかな?
そんなことをわし達が不安視していたら、女騎士リンが追い越して行ったので「たぶん大丈夫じゃね?」ってなったのでひと安心。それと同時に勇者パーティは魔物と遭遇した。
しかし、レベルマックスの勇者パーティの前では、強そうなひとつ目でマッチョな魔物でもタコ殴りにあって倒れた。
「え……風??」
今まで魔王城内部は無風だったので、風が吹くとハルト達も気になってキョロキョロしていたが、特に危険な感じがしなかったのでドロップアイテムを拾おうと前に出た。
「みっつ??」
そこには、魔石と金棒と本。普段はニ個しかドロップアイテムが出ないのに三個も出ているので、ハルトは「罠かもしれない」と言って皆を下がらせてから調べる。
「どうですか~?」
「特に何もないのですけど……え??」
罠のひとつもないのでハルトが最後の本に目を通していたら、サトミ達も集まって来た。
「何を驚いているのですか?」
「えっと……この本は攻略本(完全でない版)となっていまして、魔王城内部の地図が載っているのですけど……」
「地図ですか! これなら早くに攻略できそうですね!!」
「まぁそうなんですが……」
ハルトがゴニョゴニョと説明していたら、さすがにサトミもおかしいと思って攻略本に手を伸ばす。
「なっ! なんで私には見せてくれないんですか~」
だが、ハルトは慌てて攻略本を背中に隠したので、サトミの頬がプクーッと膨れた。
「それがですね。サトミ王女様が触れたらこの攻略本が消えるとなっていましたので……」
「はい?? な、なんで私だけ……それに名前まで知ってるなんて……」
「僕も何が何だか……でも、消えたらもったいので、ここは我慢してください!」
「うぅぅ……わかりました~」
こうしてハルトが攻略本を片手に、勇者パーティは歩き出したのであった。
その現場を壁に開けた穴から見ていたわし達は……
「「よっにゃ~!」」
わしとべティはハイタッチ。コリスやノルンやアオイともハイタッチして喜んでいた。
そりゃ、方向音痴のサトミの地図担当を外す作戦が上手くいったのだから喜ぶよ。この為に、バレる危険を承知で「サトミ触れるな危険」と書き込んだのだ。
魔物が消える場所に、わしが本気のダッシュで攻略本を置いた時には風が起きてしまったが、なんとか気付かれずにやりすごせたので嬉しくって仕方がない。
「見た? 勇者君、口には出さなかったけど、小さくガッツポーズしてたわよ」
「にゃはは。よっぽど迷惑してたんだにゃ~」
「プププ。ま、何はともあれ、これで攻略速度はアップね。あたし達も迷路を楽しもうよ」
べティは異世界観光に戻ろうとしていたので、わしも一直線に進んで戻って来たから宝箱探しをしてもいいかと思ったが、失敗にも気付いてしまった。
「あ、しまったにゃ……」
「どしたの??」
「地図はアレしか書いてなかったにゃ。離されたら追い付けなくなるにゃ~」
「なんですって……このアホ猫」
「アホ猫はひどくにゃい?」
「じゃあ、道順覚えてるの?」
「覚えてにゃいけど~~~」
「アホ猫で合ってるじゃない」
「アホって言うほうがアホなんにゃ~」
失敗したからには反論してはならないのだろうが、人様に対してアホは失礼だ。つい反論してしまって、わしとべティは「にゃ~にゃ~」喧嘩。その時、ノルンがわし達の喧嘩に割って入って来た。
「ノルンちゃんの為に喧嘩はやめるんだよ~!」
別にノルンを取り合っての喧嘩ではなかったのにそんなことを言われたからには、わしとべティはイラッとして喧嘩は止まった。
「魔王城の地図なら、ノルンちゃんの頭に入ってるんだよ~!」
「マジにゃ!?」
「シラタマ君より記憶力がいいわね~」
「パッパラパーのシラタマと一緒にするんじゃないんだよ~」
「ノルンちゃんまでひどいにゃ~」
これは、先行して進む時に、記憶力の高いノルンを連れて行ったわしのファインプレー。
「さすがノルンちゃんね~」
「えっへんだよ~。もっと褒めてだよ~」
「偉いね~。あの猫と比べられないわ~」
なのに、ノルンばかり褒められてわしは貶されるので、「にゃ~にゃ~」愚痴りながら最後尾を歩くわしであったとさ。
勇者パーティは攻略本通りに真っ直ぐ進んでいるらしいので、わし達は脇の道に入って宝箱を漁りながら追いかけているから、いい塩梅で距離を取れている。
まったく気付かれることなく魔物を倒したり宝箱を開けたり、落とし穴に落ちそうになったべティを笑ったり、べティに背中を押されてわしが落とされたり……
「それはひどくにゃい?」
「笑うからでしょ~」
「もう助けてやらないにゃ~」
「うそうそ、冗談だよ~??」
「冗談でも、わし以外にやってたら死んでるんだからにゃ~!」
こんな槍が何十本も生えている落とし穴に落とすなんて、べティは鬼だ。冗談で済むわけがない。なので、こんこんと説教しながらわし達の魔王城観光は続くのであった。
ランチを終えてしばらく歩いていると、前方から戦闘音が聞こえて来たので少しストップ。思った通り勇者パーティが戦っていたので、写真を撮ったりしながらべティと喋る。
「追い付いちゃったにゃ~」
「あ~。18階のギミックで手間取ったみたいね。アレはあたしでも少し時間が掛かったもん」
「……少し時間が掛かったにゃ??」
「もう! わかりませんでした~。言い直したんだからその目はやめてよ~」
謎解きに少し時間が掛かったのは、わしとノルンだ。べティなんて早々に諦めて答えを聞いて来たんだから、苦労のくの字も知らないので冷たい目で見てやった。
「あのギミックの謎を解いたのはノルンちゃんなんだよ」
「ちょっ! わしがギミックを動かして通れるようにしたんにゃから、一緒に解いたに等しいにゃ~」
「それ、シラタマ君はまったく考えてないって言ってるようなものよ? わかってる??」
しかし、手柄を取られたと冷たい目をするノルンに続き、わしの言い訳が言い訳になってないとべティまで同じ目をするので、居たたまれなくなるわしであったとさ。
「今日はここまでみたいだにゃ~」
魔王城20階には何故かセーフティーエリアみたいな場所があったので、時刻も夕方ということもあり、勇者パーティは休憩する模様。
わし達は行き止まりを探してそこに頑丈な壁を作り、勇者パーティよりくつろいで次の日を迎えるのであった。
「さあ、残り10階です! 元気よく行きましょう!!」
「「「はい!」」」
「ワン!」
勇者パーティは、サトミの音頭で前進。そのシーンはいちおう写真に収めたけど、ここは勇者が言う場面じゃないのかな?
そんなことを思いながら、今日もわし達は宝箱漁り。わいわいやりながらピクニック気分で進んでいる。
魔王城は上に行くほど狭くはなって移動距離は減るのだが、魔物が強くなっているので、勇者パーティは苦戦とまでは言わないが時間が掛かっている模様。
べティ達も三人では厳しそうなのでコリスを送り込んでみたら、武器を持った強そうなライオンみたいな魔物をすぐに倒していた。
てな感じでやっているので、道を逸れているわし達のほうが攻略速度が早いから、何度も勇者パーティに追い付いてしまう。
その場合は、写真を撮って暇潰し。距離が空くまでお茶やお喋りをしてから攻略を再開する。
その日の正午過ぎ、ついに勇者パーティが魔王城30階に辿り着いたのであった。
「あの部屋はなに?」
大きな扉が壊された部屋に勇者パーティが入って行くと、コリスと一緒に串焼きをモグモグしているわしの元へべティから質問が来た。
「アレにゃ? にゃんか自分は四天王最弱とか言うボスが居た部屋にゃ」
「四天王……って、もしかして倒したりしてないよね?」
「えっと……引き返そうとしたら扉が開かにゃかったから、倒したら開くかと思って一匹倒しましたにゃ~」
「それって大丈夫なの??」
大丈夫かどうかは、入ってみないことにはわからない。わしの予想では、たぶんケルベロスみたいに復活していると思われる。そうあってくれ……
「ちなみにどうして扉が壊れているの?」
「アレは……四天王を倒しても開かなかったから壊しましたにゃ~」
「はぁ~~~」
わしだって悪いと思っているから敬語で話しているのに、べティのため息がすんごい。ぶっちゃけ、ちょっと力を込めたら壊れてしまっただけなので、わしのせいとまでは言えないのだ~!
「はぁ~~~」
「もう行きましょうにゃ~」
わしの心を読むべティのため息は止まらないので、背中を押して四天王の部屋の前に連れて行くわしであった。
「ねえ? 勇者君達いないんですけど~??」
「もう四天王を倒したんにゃ~。さすが勇者パーティですにゃ~」
「はぁ~~~」
「はいにゃ~。復活してなかったみたいですにゃ~」
わしがボケてもツッコミをしてくれないべティの手を引いて、次の扉に進むわし達であったとさ。
大きな扉の前に立つと、中から戦闘音が聞こえているので勇者パーティと四天王が戦っていると思われるが、扉はアオイが押しても引いてもうんともすんとも言わないので覗くことができない。
わしが押したら簡単に開くだろうが、確実に壊れるので勇者パーティにバレてしまう。なので【猫撫での剣】で扉をくり貫いて、何個か覗き穴を開けてやった。
「わ~お。アレってデュラハンじゃない? 実在したんだ~」
「頭が無いのに動いているんだよ~。腹、かっさばいてデータ取りたいんだよ~」
そこから見えた物は、頭を脇に抱えた騎士。二頭の巨大な馬に引かれた戦車に乗ったまま勇者パーティと戦っていたので、べティとノルンはキャッキャッと騒いでいる。コリスはエサを催促して来たから串焼きあげた。
「う~ん……上手く撮れないにゃ~」
「また写真ですか……シラタマさんは助太刀するとか考えないのですか?」
わしはシャッターチャンスを逃したくないのでパシャパシャ撮っていたが、アオイが超心配しているので相手してあげる。
「押してるから大丈夫にゃろ。それより、もうちょっと穴を開けるからそこどいてにゃ~」
「はぁ~~~」
ちゃんと安心できる説明してあげたのに、アオイまでため息攻撃をして来るのは不思議だ。
ツッコミたいところであったが早く穴を開けないとデュラハンが倒れてしまうので、わしは穴を開けては望遠カメラを突っ込んで、勇者パーティの勇姿をカメラに収めるのであったとさ。




