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【 帰り道 】

 太狼は、メリーさんと買い物を済ませると、

 二人で夕暮れを歩きながら、家へと向かっていた。





「本当に、もう大丈夫か?」

「はい。ごめんなさい、ご心配おかけしました」

「いや、大丈夫ならそれでいい」

「ダメダメですね、こんなんじゃ……」

「そんなことねぇよ。あれはアイツらが悪い」


 メリーさんは、俯きながら歩いていた。


「…………」

「……メリー?」


 すると、メリーさんが不意に語り出した。



























 さっき話しかけてきた人たち、遊ぶだけ遊んで、

 遊び終わったら捨てる、そんな人間の目をしてました。


 それを見たら、つい昔を思い出しちゃって。

 所詮、あたしは玩具(オモチャ)なんだって思っちゃって。


 そしたら、体が震えて、本当に怖かったんです。

 また、あの時と同じような、辛い目に遭う気がして。


 だから、来てくれた時は本当に嬉しかったです。

 この人なら、大切にしてくれるって思えたんです。


 こんなにも、あたしの為に怒ってくれる人に、

 あたしは今まで、出会ったことがなかったから。


 太狼さんに拾ってもらえて、よかったなって、

 だから、あたしは今、心から幸せなんですよ。



























      ありがとうございます、太狼さん。


             あたしのことを、拾ってくださって。



























 メリーさんは、優しい笑顔をしていた。


「……そうか」

「……はい。えへへっ……」


 すると、太狼が不意にメリーさんの手を掴んだ。


「た、太狼さんっ!?」

「なぁ、メリー……」

「は、はい。な、なんでしょうか?」


 太狼はメリーさんを見て、そっと一言告げた。



























      俺はお前のこと、絶対に捨てたりしないからな。



























 その太狼の一言で、メリーさんの心には、

 僅かな過去の恐怖さえ、一切無くなっていた。


「……太狼さん」

「……不安な時は、ちゃんと言ってくれ」

「……はいっ!」


 そういって、メリーさんは満面の笑みを浮かべた。


「そういや、今日の晩飯はなんだったっけか」

「今日は、みんな大好き【 肉じゃが 】ですよっ!」

「おぉ、それは楽しみだな」

「楽しみにしててくださいね。腕によりをかけますからっ!」


「肉じゃがって、よく胃袋を掴む料理って言うよな」

「そうですね。これで、あたしも太狼さんの胃袋ゲットですっ!」

「なんかメリーさんに言われると、殺害予告にしか聞こえねぇな」


「肉じゃがゴクッと、胃袋ザクっとですっ!」

「おい。今、肉じゃがからは聞いたことの無い効果音がしたぞ」

「大丈夫です。痛いのは一瞬なのでっ!」

「なんだよ、痛みを感じる肉じゃがって……」


「前からと後ろから、どっちがいいですか?」

「前後の選択肢つけんな、料理の話をしろ料理の……」

「まぁ、あたしは後ろからしかできないんですけど……」


「こいつはあれか、包丁を持たせちゃダメなやつか?」

「失礼ですよ、これでも丹精込めてるんですからね?」

「丹精込めても、切る肉を間違えたら意味ねぇんだよ」

「だって、つい衝動が出ちゃって……」

「何処の殺人鬼だよ、お前……」

「だって、あたしメリーさんですし……」


「わかった。食材は俺が切るから、それ以外をやってくれ」

「いいですねっ! なんか、共同作業って感じですっ!」

「共同作業って、もっと素敵な理由だった気がすんだけどなぁ……」

「素敵じゃないですか、あたしの為を思ってしてくれるなんて……」

「今は、自分の身の安全の方が理由として正しいよ」


「酷いですよっ! あたし、そんなに怖い女の子じゃないですっ!」

「よく言うよ、メリーさんのくせに……」

「あぁ〜っ! 今、メリーさんをバカにしましたっ!」

「むしろ、シャレになんねぇから言ってんだろっ!」


「えへへっ。それじゃ、あたしは味付け頑張りますね」

「あぁ、そうしてくれ……」

「ほっぺた落とさないように、要注意ですっ!」

「いちいち言葉に裏を感じるんだよな、メリーさんって……」


「それ、どういう意味ですか?」

「ほっぺた以外も落とされそうだっつってんだよ」

「そんな、あたしをなんだと思ってるんですかっ!?」

「メリーさんだよ、決まってんだろっ!」


「む〜っ! いじわる言う太狼さんは、おかず抜きですっ!」

「米はくれんのかよ。優しいな、お前……」

「だって、全部取っちゃったら可哀想じゃないですか」


「メリーさんって、ほんとなんなんだよ」

「ただの可愛い、お人形さんですっ!」

「自分で可愛いって言っちゃったよ」

「だって、誰も言ってくれないんですもん」

「可哀想なのはお前だよ、メリー……」


「も〜っ! なら、太狼さんはどう思ってるんですかっ!?」

「幽霊に決まってんだろ、メリーさんなんだから……」

「太狼さんが、いじわる言う……」

「悪かったよ、泣くなってっ! 可愛い女の子だよっ!」

「本当ですかっ!? えへへっ、嬉しいですっ!」

「はぁ、乙女心ってマジわっかんねぇ……」





 二人は冗談を言いながら、仲良く手を繋ぎ、

 夕暮れに染まる帰り道を、真っ直ぐ帰るのだった。

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