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【 心の傷 】

 メリーさん(メスガキ)は、川の河原で一人、

 街の光に照らされる水面を見つめて、蹲っていた。





 すると、メリーさんのテレパシーに何かが飛んできた。


『はい、もしもし……』

『もしもし、俺は太狼だ……』

『……何か用?』

『今、家の前にいるんだ……』

『……だから?』


 それに答えることなく、ブツッと通話が切れる。



( ……何考えてんの、アイツ )



 気にすることなく、メリーさんは川を見つめ、

 一日遊んでいた時間の思い出を、思い返していた。


 それから数分後、再びテレパシーが受信する。


『はい、もしもし……』

『もしもし、俺は太狼だ……』

『あんた、なんであたしの真似なんか……』

『今、タバコ屋さんの角にいんだ……』

『…………』


 ブチッと、そのまま通話は切れてしまった。



( まぁいっか、あたしの居場所なんか分からないし…… )



 そう考えて、メリーさんは寒さに震えながらも、

 街の明かりに照らされている川を、じーっと見つめる。


 それからしばらくして、再びテレパシーが飛んできた。


『はい、もしもし……』

『もしもし、俺は太狼だ……』


『……今、どこにいんの?』

『……どこだと思う?』


『…………』

『…………』


『あたしなら、ゴミ捨て場だよ』

『嘘つけ、パチこいてんじゃねぇよ』

『……え?』



























 その瞬間、大きな革ジャンが、メリーさんの上に降ってきた。



























 驚いたメリーさんが、慌てて後ろを振り向くと、

 そこには、ジャケットを脱いだ太狼が立っていた。


「メリーさんっつぅのは、こうやるんだよ」

「……ふふっ。なんでそんなに詳しいの?」

「ったりめぇだろ、何人来てると思ってんだ」

「あぁ、そっか……」


 太狼がメリーさんの横に座り、静かに川を見つめる。


「なんで、ここが分かったの?」

「別に、街中走り回っただけだ……」


 メリーさんが太狼を見ると、体から湯気を出していた。


「馬鹿じゃないの、あんた……」

「そうだよ、悪かったな」

「あたしを迎えにでも来たの?」

「まさか、ガキを無理やり連れ込む趣味はねぇよ」

「そうなの? その割には、家族が多かったけど……」

「あのメリー達は、全員自分の意思であそこにいるんだよ」

「ふぅ〜ん、そうなんだ……」


 そういって、二人がしばらく黙り込む。


「……なぁ」

「……何?」

「お前、なんで何もしなかったんだ?」

「……なんで?」

「いや、普通は何かトラウマでも残していくんだろ?」

「まぁ、本当はね」

「なら、なんで俺を刺さなかった」

「…………」


 メリーさんは俯くと、独りでに語り出した。



























 あたし、昔は引きこもりの子の人形だったんだ。

 友達が居ない子の為に送られた、人形だったの。


 大切にされてたから、あたしも持ち主が大切だった。

 あたしだけがこの子の友達なんだって、ずっと思ってた。


 でも、高校デビューと同時に、呆気なく捨てられた。

 そしたら、なんかもう、どうでもよくなっちゃってさ。


 確かに、あたしは誰かに覚えていて欲しかった。

 だからあたしの魂は、こうして人形の外に出てきた。


 でも、結局誰かの記憶に残っても、変わらない。

 本当に欲しいものは、何をしたって手に入らないの。


 それなら、楽しい思い出の方がいいじゃん。

 だから、あたしは自分が楽しむことだけを考えた。


 男なんて、ホイホイ甘えておけばチョロいからね。

 色々と連れ回して、飽きたら捨ててを繰り返す。


 そうすれば、深い思い出も無く楽しめるし、

 捨てられることもないから、辛いことも無い。


 初めっから求めさえしなければ、孤独はない。

 だから、あたしはこのまま一人で生きていくんだ。


 誰の記憶にも残らずに、あたしが楽しめるように、

 もう、同じ辛さを味わう事なく、今を楽しむんだよ。



























 そういって、メリーさんが笑みを浮かべ、

 太狼は話を聞きながら、静かに頷いていた。


「なるほど、それが理由か」

「うん。だから、あたしのことは忘れていいよ」


「…………」

「…………」


「本当に、それでいいのか?」


「…………」

「…………」


「正直、ここまで来てくれたのは、ちょっと嬉しかった」

「…………」

「でも、あたしは一人がいいんだ……」

「なんか、理由でもあんのか?」


「前にね、一人居たんだよ」

「……何が?」

「あたしと遊んでる時、『 うちに住め 』って言ってくれた人が……」


「そうなのか? なら、なんで……」

「その人の家で寝てたら、襲われかけた……」

「……は?」

「…………」


 メリーさんは震えながら、自分の体を掴んでいた。


「ガキ相手に性欲全開とは、この世界も末期だな」

「それで、あたしが断ったら、出ていけってキレられた」

「…………」

「所詮人間は、自分の欲の為にしか人を救わない。だから……」



























 あたしはもう、二度と人間は信じない。



























 メリーさんはそういって、太狼の顔を見つめていた。

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