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【 絵心 】

 布団を買った後、四人は他の店を見て回っていた。





「なぁ、一夜……」

「……はい?」

「子供の女の子って、普段何して遊ぶんだ?」

「さぁ、普通は幼稚園とか学校ですからね」

「自分が子供の面倒を見るなんて、思ってもみなかったからなぁ……」


「あそことかどうですか? なんか、可愛い絵がありますよ」

「文房具コーナーか。そうだ、塗り絵とかいいかもな」

「……塗り絵?」

「あぁ、元から書いてある白黒の絵に、色を塗って綺麗にするんだ」

「へぇ〜、そんなのあるんですね」

「ゲーム以外にも、そういう娯楽があってもいいかもな」


 そういって、太狼はメリーさん達を連れて、文房具コーナーに入った。


「すっごくたくさんあるんですね、文房具って……」

「こういう所に来ると、使わないものも欲しくなるんだよな」

「これとか、背中を刺すのに使いやすそうです」

「コンパスは円を描くんだ円をっ! 背中刺すんじゃねぇ!!!」


「お兄ちゃん、見て見てっ!」

「……ん?」

「これ、切れ味凄いって!」

「危ないから、カッターは買いません」


「この赤いボールペンとか、テンション上がりますねっ!」

「なんでテンション上がるのかは、あえて聞かないが。戻してきなさい」


「にぃに、ちょきちょき……」

「ハサミは家にあるし、お前らに持たせるとろくな事にならないだろっ!」


「太狼さんっ! この三角定規って、使いやすそうじゃないですか?」

「お前らどんだけ俺の背中刺してぇんだよッ!!!」



























           ──その時、太狼は知った。



























        文房具は、身近な凶器なのだということを。



























「お絵描き体験コーナーですか」

「ほら、二葉、三凪。こういう塗り絵はどうだ?」

「……にぃに、どうやるの?」

「口で説明するより、見せた方が早いか」


 そういって、太狼は簡単に絵に色を塗った。


「ほら、こんな感じだ……」

「おぉ〜っ! にぃに、上手……」

「お兄ちゃん、凄〜いっ!」


「家でこういうのが出来たら、楽しいだろ?」

「……うんっ!」

「買ってくれるの? お兄ちゃん……」

「あぁ、これぐらいなら別にいい」


「「 やったぁ〜っ! 」」


「太狼さんっ! 見てくださいっ!」

「……ん?」


 太狼が声に振り向くと、自由帳に一夜が絵を描いていた。


「どうですか? 太狼さん……」

「凄いセンスだな、それは何のモンスターだ?」

「モンスター? これ、太狼さんの似顔絵ですよ?」

「嘘だろ、お前には俺がそんな風に見えてるのか」

「むぅ〜、一生懸命描いたのに……」

「待ってくれ、これ俺が悪いのか?」

「じゃあ太狼さん、あたしの似顔絵描いてくださいよっ!」

「まぁ、別にいいけど……」


 そういって、太狼が一夜の幸せそうな笑顔を描く。


「ほら、お前の似顔絵だ……」

「す、凄く可愛い……あたしって、こんな風に見えてるんですねっ!」

「なんだろう。勝った気がするのに、なんかムカつくな」


 一夜が嬉しそうに、デレデレと顔を赤くする。


「でも、太狼さん……」

「……ん?」

「なんでこんなに、絵がお上手なんですか?」

「なんだ、やっぱり変か?」

「あっ、いえ……そういう訳では無いんですが、ちょっと意外で……」

「まぁ、無理もない。昔っから、よく言われてたしな」

「……?」


 太狼はそう言いながら、絵を描く二葉と三凪の姿を見つめる。


「俺、前はゲーム関係のデザイナーになろうとしてたんだよ」

「……そうなんですか?」

「あぁ。だから、学生時代はよく、絵を描く練習をしててな」


「その夢は、諦めちゃったんですか?」

「あぁ。就職活動の時、どこの企業とも上手くいかなくてな」

「それはまた、どうして……」

「履歴書の写真が怖いとか、悪い噂とか、面接中に面接官か失神したりとか」

「圧力出しすぎですよ、太狼さん……」

「俺は別に何もしてない。ただ、聞かれたことに答えてただけだ」


「でも、確かにスーツ姿の太狼さんは、想像するだけでもヤバいですね」

「……そうか?」

「はい。サングラスかけたら、完全に裏の人間です」

「お前、なんでそんな世界の人間を知ってるんだよ」

「この間、太狼さんに教えてもらったネットフリークスで見ました」

「お前の知識、片寄ってんなぁ……」


「だから太狼さんは、お家で稼げる仕事をしてるんですね」

「あぁ、そういう事だ……」


「なんだか、そう思うと勿体ないです」

「……何がだ?」

「だって、こんなに絵が素敵なのに……」

「俺の絵が、『 素敵 』、かぁ……」

「素敵じゃないですか、とても魅力的ですよ?」


 真面目な顔で告げる一夜を見て、太狼は小さな笑みを浮かべた。


「その言葉だけで、俺の今までが報われたよ」

「……え? でも、あたしなんかが褒めたくらいじゃ……」

「いや、そんなことは無い……」



























   何かを作る【 クリエイター 】と呼ばれる人間は、


         一人に褒めてもらえるだけでも、十分幸せなんだよ。



























  たったそれだけでも、自分の今までが報われたと思える。


        だから、お前が褒めてくれただけでも、俺は十分幸せだ。



























     誰かに存在を認めてもらえる時に、心は幸せを知るんだから。



























 その言葉に、一夜が小さく微笑む。


「ふふっ、そうかもしれませんね」

「ありがとな、一夜……」

「いえ、こちらこそです。太狼さん……」





 そういって、二人は静かに笑顔を交わしていた。

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