表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

『ごめんね俺じゃ君を幸せにできないから婚約破棄するね』だって君にはあいつがいるから

作者: 来留美

 俺には婚約者がいる。

 それはそれは美しく。

 それはそれは可愛いく。

 それはそれは優しく。

 それはそれは欠点もなく。

 それはそれは完璧な婚約者だ。


「式はいつあげる?」


 俺は彼女とのんびり家で過ごしている時に言った。


「まだ仕事が落ち着かないの。だからもう少し待ってくれる?」

「そう? 無理はするなよ」

「うん。ありがとう」


 彼女の仕事はバスガイド。

 可愛い彼女は人気のあるバスガイドだ。

 そんな彼女と俺の出会った場所はバスではなく、電車だった。



『 俺はいつも同じ時間の同じ電車に乗る。


「あの。お願いがあるんですけど?」


 いきなり俺に可愛い女の子が話かけてきた。


「お願い?」

「そうなんです。私の後ろにいる男の人の様子を見ててもらえませんか?」

「あっ、うん。いいけど何で?」

「元恋人なんですけど私と別れた後もたまに私の様子を見にくるんです」

「それってもう、ストーカーじゃないの?」

「少しだけ様子を見ようと思ってるんです」

「それで君に何かあったらどうするの?」

「私を傷つける人じゃないです」

「そうかな?」

「あなたにはどう見えますか?」

「君の話からするとストーカーだけど彼はあの位置から動かないね。近付くことはしないなんてどうしてなんだろう?」

「だから様子を見てみようと思ってるんです」

「それなら俺が毎日、君と電車に乗るよ」

「どうしてですか?」

「何かあったらすぐ助けてあげられるでしょう?」

「いいんですか?」

「いいよ」 』


 この時は彼女と恋人になれるなんて思っていなかった。

 可愛い彼女の助けになればそれで良かった。


◇◇


「今日、あいつは?」


 俺は久しぶりに同じ日に彼女と休みが一緒になったのでデートをしている時に彼女に言った。


「お兄ちゃんは仕事だよ」

「そうなんだ。行くか?」

「えっいいの?」

「行きたいんだろう?」

「うん」


 彼女は嬉しそうに笑っている。

 あいつとは、彼女のいとこのこと。

 あいつと出会ったのも彼女と同じ日だ。

 しかし、あいつの正体を知ったのは出会った日から少し経った日だ。


◇◇◇


『 彼女と出会った日から毎日、彼女と一緒に電車に乗った。


「本当にあいつは悪いやつなのか?」

「悪い人じゃないけどずっと私を見てるよ」

「見てるけどどこか眼差しが違うような?」

「それならこっちは見せつけてやろうよ」

「見せつける?」

「こうするの」


 彼女はそう言うと俺の胸に顔を埋めた。


「なっ、何?」

「私達は恋人なんだって彼に見せつけるのよ。そうすれば彼は諦めてくれると思うの」


 彼女は俺を見上げて言った。

 俺はあいつを見る。

 あれ?

 さっきまであいつがいた場所にいない。


「もうやめろ」


 俺は声のする方へ振り向く。

 そこにはあいつが立っていた。

 いつの間に?


「もういいだろう? 俺にどうしろって言うんだよ」

「あの子を頂戴」

「だからあの子はまだ来たばかりだから無理だって」

 「大丈夫よ。私には分かるの。あの子は私といた方が幸せなのよ」


 あの子とは誰?


「説明してくれないか?」

「あっ、ごめんなさい。彼は本当は元恋人じゃなくていとこなの」

「いとこ?」

「彼の働いているネコカフェに怪我をした子猫が来たの。その子猫が私に懐いてくれたから子猫を私が飼いたくなったのに、お兄ちゃんはダメしか言わないから」

「怪我をした子猫は命に関わるんだよ。君に渡すなんて約束はできないんだよ」

「いいじゃない。口約束くらいしてよ」

「俺は嘘はつけないんだ」


 俺は二人を見ていて笑えてきた。

 そして笑ってしまった。


「どうしたの?」


 彼女は俺を見て驚いている。


「俺ってなんでここにいるんだ? って思ったらなんだか笑えてきたよ」

「あなたは私の為にここにいるのよ」

「君の為?」

「そうだよ。私はあなたと一緒にいたいからね」

「俺と?」

「あなたと」

「どういう意味?」

「一緒にいたいって思うのは何故なのかあなたは分からないの?」

「分からない」

「もう、お兄ちゃんの前では言わせないで」


 彼女はまた俺の胸に顔を埋めた。

 そして俺を見上げて小さな声で言った。


「好きだからだよ」 』


◇◇◇◇


「お兄ちゃん。遊びに来たよ」


 俺達はあいつの働いているネコカフェへ来た。

 ネコ達が彼女を迎える。

 彼女は嬉しそうにネコ一匹ずつに挨拶をして撫でていた。

 彼女はネコが大好きなのだ。


「今日デートだったんだろう?」


 あいつが俺に申し訳ない顔で言った。


「そうだよ」

「恋人がいるのにネコばかり相手をしてごめんね」

「あなたに謝られる必要はないよ。彼女が幸せそうに笑っているから俺はここに一緒に来てるんだ」

「それならいいけど。今までの恋人はいつも彼女から離れていったけど君は彼女を幸せにしてくれそうだ」

「あなたに言われたくないよ」

「君はいつも俺に厳しいね」

「だって俺、あなたの事を嫌いだから」

「そうだよね。俺がもう少し、彼女を甘やかすのを我慢すればいいんだよね?」


 あいつは苦笑いをした。

 俺はあいつが嫌いだ。

 俺はずっと気付かないフリをしてきた。

 それは彼女があいつをいとこじゃなくて男として見ているのを。

 そしてあいつも彼女を女として見ているのを。


 今もそうだ。

 あいつの彼女を見ている時の眼差しは愛おしそうに目を細めて微笑んでいる。

 最初は二人ともネコが好きだからそんな表情になるんだと思っていた。

 そして俺は二人がそれに気付いていないのも知っている。

 だからあいつが嫌いなんだ。

 彼女は嫌いになれないからあいつが大嫌いなんだ。


◇◇◇◇◇


 ネコカフェから俺の家に帰って来た。

 彼女は俺の膝に頭を乗せ膝枕の状態で俺を下から見上げて言った。


「今日は楽しかったね」

「ネコ達に会えたからだろう?」

「それもあるけどあなたと一緒に行けたからよ」

「俺はネコ達より順位は上なのか?」

「順位なんてつけられないよ。あなたはあなた。ジャンルが違うのよ」

「それならあいつは?」

「お兄ちゃん?」

「どっちが上なんだよ?」

「お兄ちゃんもジャンルが違うよ」


 彼女はまだ気付かないのかな?

 俺が一番だと言えないのはあいつと迷ってるからだって。

 そんな彼女にもう、疲れたよ。


「ごめんね。俺じゃ君を幸せにできないよ」

「どうしたの?」


 彼女は俺の膝から頭を離し俺の隣に座る。


「君には他にいるよ」

「何? どういう意味?」

「もう、俺は疲れたんだ。だから君達に教えてあげるよ」

「教える?」

「君とあいつは恋人になった方がいいよ」

「お兄ちゃんと恋人に?」

「君達はお互いを見る時、眼差しが優しいんだ」

「お互い?」

「君達は好きなのにそれに気付いていないんだよ」

「そんなことないよ。私はあなたが好きよ」

「それならどうして結婚式の日時を決めないの?」

「それは仕事が忙しいからよ」

「仕事が忙しくても決められるよ」


 彼女は不安な顔をして俺を見ている。


「婚約破棄してあげるよ」

「何を言ってるの?」

「もう、終わりにするよ」

「どうして?」

「君の幸せの為だよ」

「あなたはそれで幸せなの?」

「今よりはマシだよ」

「私はあなたが好きよ」

「俺よりあいつのことの方が好きなんだよ」

「どうしてあなたは決めつけるの?」

「君は俺と結婚したら幸せになれないよ」

「私は嫌よ。あなたと結婚するの」

「ごめんね。俺と結婚したら君は絶対、後悔するから」

「嫌だって言ってるじゃん」


 彼女は泣き出してしまった。

 ごめんね。

 俺も悲しいよ。

 俺は泣いている彼女を置いて、家を出た。

 彼女を一人にした。

 本当は彼女を抱き締めて泣かないでって言いたい。

 でもその優しさは彼女に期待させてしまう。

 彼女にはちゃんと自分の気持ちに気付いてほしいんだ。

 彼女には何度、心の中で謝っても俺は自分自身を許さないと思う。

 俺はもう、彼女を手放したことを後悔してるんだ。

 彼女が好きでたまらない。

 だから俺の心は晴れない。


◇◇◇◇◇◇


 俺は外で頭を冷やし、家に帰ると彼女の姿はなかった。

 その代わり彼女の置き手紙があった。


“私は欲しい物は必ず手に入れるの”


 気付いてくれたのかな?

 彼女の欲しい物はあいつだと。

 それでいいよ。

 それでいいんだ。

 君の幸せは俺の隣にはないからね。


◇◇◇◇◇◇◇


 彼女と別れて一週間が過ぎた。

 俺はいつものように同じ時間、同じ電車に乗る。

 そこで俺は驚いた。

 その電車に彼女とあいつが仲良さそうに乗っていた。

 前とは違う雰囲気だ。

 二人とも気持ちに気付いたのかもしれない。

 俺は極力、見ないようにした。

 でもやっぱり気になる。

 俺はまだ彼女への気持ちを忘れてはいないみたいだ。

 彼女達は笑いながら話している。


「ガタッ」


 いきなり電車が揺れた。

 あいつが彼女の腰を支えた。

 俺の彼女に触れている。

 そう俺が思った時には俺の足は動いていた。


「俺の彼女に触れるな」


 俺は彼女の腰を支えているあいつの手を払い、彼女を抱き寄せた。


「私はあなたのモノじゃないわよ?」


 彼女は俺の腕の中でそう言った。


「あっ、ごめん」


 俺は彼女から離れようとした。


「そう言う意味じゃないの」


 彼女は俺の腕から離れようとしない。


「どうしたの?」

「私は欲しい物は必ず手に入れるって言ったでしょう?」

「うん」

「私の欲しいモノはあなたよ」

「でも、君はあいつのことが……」

「お兄ちゃんは結婚してるのよ?」


 彼女は俺の言葉を遮って言った。


「嘘だろう?」

「嘘じゃないよ。それに奥さんは妊娠中だよ」

「えっ」

「あなたは勘違いし過ぎよ」

「でも、結婚してたって好きな気持ちはあるだろう?」

「ないわよ。私はお兄ちゃんをお兄ちゃんとしか思ってないよ」

「でも、俺にはそんなふうには見えなかったよ?」

「あなたは決めつけてたのよ。私とお兄ちゃんが仲良かったからね」

「そうなのかな?」

「どうしたらあなたが一番好きだって分かってもらえるの?」

「俺と結婚してくれたらかな?」

「そんなことでいいの? 私はあなたと結婚するよ。あなたと一緒にいれば幸せだからね」


 彼女はそう言って俺の胸に顔を埋めた。

 そして顔を埋めたままもう一言、言った。


「私は欲しい物は必ず手に入れるって言ったでしょう?」


 彼女のその言葉で俺は本当に気付いたんだ。

 彼女は俺を好きだって。

 だから俺は彼女に伝えるよ。


「愛してるよ。結婚して下さい」

「私も愛してるよ。そして何回でも言うよ。喜んで」


 彼女は嬉しそうに言った。

 彼女は欲しいものは必ず手に入れた。

 俺も欲しいものは必ず手に入れた。

 俺達の欲しい物。

 それはお互いだ。

読んで頂きありがとうございます。

読んで頂けただけで幸せです。

明日の作品の予告です。

明日の作品は学校で一番可愛い美少女の涙を見てしまった彼。

美少女が泣いていたのは何故?

気になった方は明日の朝、六時頃に読みに来て下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ