サンダードラゴンの角
走っておっさんに付いていくとやたら大きい豪邸に辿り着いた。かなり広く、周囲を一周するだけでも何分もかかりそうだ。
おっさんはそんな豪邸の門を慣れた動作で開けた。
「えっ、まさかここに住んでるの?」
「ああそうだ。ここが私の住まいだ」
わお。こんな豪邸で暮らしてるのか。
道理でやたら身なりのいい人だと思った。
「誰か居るかー!?」
そう叫ぶと奥の方からメイドがやってきた。
「お、お帰りなさいませ旦那様。どうなされましたか?」
「急いで薬師を呼んでくれ! アリシアを治す方法が見つかったんだ!」
「え、そ、それは本当ですか!?」
「ああ。このサンダードラゴンの角を調合して飲ませれば助かるかもしれないんだ」
「かしこまりました。今すぐ手配致します」
メイドは慌ただしく屋敷の奥へと走って行った。
おーすごい。本物のメイドさんだ。
「君! しばらく中で待機しててくれないか! 謝礼は後でする! メイドに案内させるからそれまで待っててくれ!」
「は、はい」
おっさんも急いで屋敷の中へと入っていった。
俺も付いていこうとするとメイドに呼び止められ、部屋まで案内してくれるというのでそこで待っていることにした。
部屋に入って座っているとすぐにメイドがやってきて紅茶やらお菓子やらを持ってきてくれた。
とりあえずそれを食べながら待つことにする。
しばらく待っているとドアを開けておっさんが入ってきた。
「すまない待たせてしまった。どうしても娘の具合が気になって医者と一緒に見守ってたんだ」
「気にしてないですよ」
「そう言ってくれると助かる」
おっさんは部屋に入り、対面のソファーに座った。
「それで具合は?」
「もう峠は越えたそうだ。今は安定して回復に向かっているらしい」
「それはよかった」
一安心ってところか。
「本当にありがとう。君のお陰で娘も助かったよ。えーと……そういえば名前聞いてなかったな」
「俺はゼストといいます」
「ゼスト君か。私はこの屋敷の当主をしているクライン・ジェームズだ。ジェームズと呼んでくれ。ゼスト君のお陰で娘のアリシアも救われた。本当に感謝する! ありがとう!」
そういって深々と頭を下げた。
「あ、頭を上げてください! 俺は大したことはしてないし……」
「何を言う! ゼスト君が持ってきた角が無ければアリシアは助からなかったかもしれないんだ。十分な功績じゃないか」
「そうかもしれないけど……」
地面に打ちつける勢いで頭を下げられたからな。ちょっとビビッてしまった。
「あの子は……アリシアは私の大事な娘なんだ。もしアリシアまで失ってしまったら私は……」
「まで?」
「実はな……妻も病で亡くしてしまっているんだ。だからアリシアは唯一の家族なんだ。妻に続き娘まで失うことになれば……私は……」
「…………」
「……すまない。湿っぽい話になってしまったな。忘れてくれ」
なるほど。だからあんなに必死だったのか。
「でもアリシアも回復したみたいだし。これもゼスト君が譲ってくれた貴重なサンダードラゴンの角のお陰だ」
「貴重……?」
「滅多に手に入れること出来ない品なんだろう? そんな貴重な物を譲ってくれたゼスト君には感謝でいっぱいだ」
何故か1本しかないことになってるけど、まだまだあるんだよなぁ。
というかダース単位で持ってるんだけどな……
まぁ黙っておくか。
「ところで何故あのような貴重な物を持っていたんだい?」
「えっ」
「失礼だがゼスト君がサンダードラゴンを倒せるようには見えないし。どこで手に入れたんだい?」
俺がゲームをしていた頃に何度も倒してるからその時に入手したんだよね。
サンダードラゴンにはとあるアイテムがレアドロップとして設定されていて、それが欲しくて何度も周回することになった。
んでその時の副産物……というかハズレドロップの1つが角なのだ。
それが積もりに積もって結構な数になっている。
あの時はマジでレアドロップが出なくて必死に周回してたっけなぁ……
夢に出てきそうなぐらい倒しまくった。見るのが嫌になるぐらい倒した。
苦い思い出だ。
………………思い出したら腹が立ってきた。
「ドロップ率低すぎなんだよ! クソ運営め! どんだけ絞ってんだ!」
「!? ど、どうしたんだい!?」
「あ、いや何でもないです。思い出し怒りってやつですよ! ははは……」
「は、はぁ……」
いかんいかん。取り乱してしまった。
深呼吸して気を取り直さなければ。
「ま、まぁ深く追求するつもりはない。話したくない事情もあるだろうしね」
「そう言ってもらえると助かります……」
「でだ。ゼスト君へ謝礼したいんだがいくら用意すればいい? 金貨100枚か? 200枚か?」
「ちょ、落ち着いて……」
そうかまだ決めてなかったな。
「アリシアは全財産を使ってでも助けるつもりだった。だから遠慮は要らない。好きなだけ持っていってほしい!! さぁどれだけ用意すればいいんだ!?」
「だから落ち着いてってば。そんなに要らないですよ」
「こうでもしないと私の気が済まない。遠慮しないで好きなだけ持っていってくれ!」
どうしよう。目が本気だ。
確かに金があれば助かるといえば助かるんだが……
う~ん……
……あ、そうだ。
「じゃあ1つお願いがあるんですけど」
「何だ!? 何でも言ってくれ!」
「とある孤児院の支援をお願いしたいんですよ。それでもいいですか?」
「孤児院? そんなことでいいのか?」
「実は――」
俺のいた孤児院は財政難で生活が苦しくなっていること。満足な食事も出来ずに毎日ひもじい思いをしていることなど、今の状況を説明した。
「――というわけなんです」
「なるほど。そこまで困窮してたとはな……」
「だから何とかしたくて……」
「そういうことなら任せたまえ。私が手を貸そう」
「ほ、本当ですか?」
よかった。これならみんなも喜ぶはず。
「しかし本当にこれだけでいいのかね? まだまだゼスト君には恩を返し切れてないんだが……」
「俺はそこまで困ってるわけじゃないし。なら孤児院にいる子供たちに少しでも助けになればいいと思って」
「ふーむ。ゼスト君は変わった人なんだな……。そんなにも他人の為に動くとはね……」
ぶっちゃけ俺は他にやることがあるしね。
「話は分かった。孤児院のことは任せてくれ。クライン家の名において継続的に支援することを約束しよう」
「ありがとうございます!」
これで孤児院の問題も解決したかな。
「じゃあ俺は帰ります」
「なら玄関まで送っていこう。今日は本当にありがとう。君に会えて幸運だった」
「いえいえ」
そして部屋を出てから玄関の入り口まで案内された。
俺がドアを開けて外に出ようとした時だった。
「ま、待って……」
「!? アリシア!?」
奥の方から小学生ぐらいの女の子が出てきたのだ。
可愛らしい金髪の女の子で父親の面影がある。
「ど、どうしたんだ!? 寝てないとダメじゃないか!」
「だって……まだお礼……言ってなかったから……」
まだ病み上がりなのか、近くの壁に寄りかかってようやく立てるといった感じだった。
「そこのお兄ちゃんが……助けてくれたんでしょ……?」
「あ、ああそうだ。ゼスト君のお陰で薬が作れたんだ」
「そっか……ありがとうお兄ちゃん。すごく楽になったよ」
「どういたしまして。お大事にね」
そして女の子に見送られながら外に出ることにした。
しかしちょっとした騒ぎになったな。
他にもアイテムはあるんだが、無暗に見せない方がよさそうだ。
面倒事になりそうだからな。