万能薬
次の日。
俺は孤児院を後にして外に出ることにした。
行先は街のとある場所だ。
今の生活状況だといつか倒れてしまいそうだ。さすがにあの食事量だと身が持たないからな。いくらなんでも少なすぎる。
だから少しでも孤児院の状況を改善したかった。せめて食事だけでもまともに取らせたい。
だから俺の持っているアイテムでも売って、その金でメシでも買おうと思ったのだ。
何故か知らんが転生したときに金は持ち越せなかったんだよな。だから今の俺は無一文だ。
俺はゲットしたアイテムは貯めこむ性格なのだ。言い換えれば物を捨てられないタイプだと言われそうだが……そんなことはどうでもいい。
そのお陰で売れそうなアイテムは色々ある。さすがにどれかは高値が付くはずだ。
というわけでやってきたのは質屋。
ここなら何でも買い取ってくれるはず。
中に入ると2人の男が何やら話し合っていた。どうやら先客が居たらしい。
終わるまで待っていようかと思う。
「ここには置いてないのか!?」
「そんなこと言われてもなぁ。さすがにそんな高価な物は置いてないわい……」
「くっ……やはりだめか……!」
やたら身なりの良い男がガッカリしてる。
「なぁ頼むよ! 知り合いに持っていそうな人はいないのか!?」
「さぁな。なんせウチでも滅多に手に入らない品だしのぅ……。ワシでも数えるぐらいしか見たことないわい」
「仕入れてそうな店とか……どこでもいい! 情報を持ってそうな人とか知らないか!?」
「残念じゃが力になりそうにないな」
「金ならいくらでも出す! 誰でもいい。売ってくれそうな人はいないのか!?」
「いくら金を積まれても無いものは無いのじゃ。諦めることじゃ……」
「くそっ……!」
何だ何だ。あの人やたら焦ってるな。
どうしたんだろう。
「流星花なんて市場に出回ることなんか殆どないからのぅ。あったとしても貴族がすぐに買いつくだろうな」
「早くしないと娘の命が……もう失うのは嫌なんだ! 誰でもいい……誰か持っていないのか……!?」
流星花?
まさかあの人、流星花が欲しくて焦ってるのか。
「そもそも流星花なんてBランク冒険者でも手に入れる機会が滅多に無いと聞くからのぅ。この街に存在しているのかすら怪しいと思うぞ?」
「そんなことは分かっている!」
「なら諦めて別の町に探しに行くことを勧める」
「そんな時間は無いんだ! 娘は瀕死でいつ死ぬか分からないんだぞ! 今から別の町に行く暇なんて……」
なるほどね。話は大体読めてきた。
俺は2人に近づいて話しかけることにした。
「あのーちょっといいですか」
「!? な、何だ君は!?」
「声が大きくて色々聞こえちゃったんだけど、なぜ流星花を探しているんです?」
「流星花はどんな病も治すと言われている万能の薬になるんだ。それを使って娘の病を治したくてな……」
そういやそんな効果だった気がする。
流星花ってのはゲーム中でも割とレアな部類に入る。
花は危険な狩場にしか咲いておらず、手に入れるにはそれなりの実力が無いと厳しい。
しかもそれだけではない。流星花は花が咲いた状態で無ければ効果が無いのだ。
この花はかなり特殊な仕様になっていて、基本的にずっと花が閉じた状態なのだ。
花が咲くのはなんと1年に一度。
しかもたった1日しか咲かない。
突然花が咲き、すぐに閉じて枯れてしまう。
その仕草が流星のように突然やってきてすぐ消えることに似ているから付けられた名が『流星花』なのだ。
もしかしたら俺も持ってるかもしれん。
そう思いインベントリの中を確認してみるが……探しても見つからなかった。
取得条件が厳しすぎて殆どのプレイヤーが諦めてた気がする。
さすがに俺でも手に入れる機会が無かったみたいだ。
ふーむ。どうしようかな。
何とかしてあげたい気持ちはあるが、物が無ければどうしようもならん。
……いや待てよ?
「ちょっと聞きたいんですけど、流星花の代わりになるようなものは無いんです?」
「そんなのがあればとっくに探している!」
「ですよねー」
やっぱり駄目か……
「……いや、ある」
店員であろう老人がそんなことを呟いた。
「!? ほ、本当か?」
「治すとは少し違うが似たような効果がある物なら知っている」
「そ、それは何て言う物なんだ!? 教えてくれ!」
「とあるモンスターの一部じゃ。その名を〝サンダードラゴン〟。それに生えている角じゃよ」
「な……そ、そんなの無理じゃないか……!」
男は再びがっくりとうな垂れてしまった。
「サンダードラゴンといえばAランク冒険者でも苦戦する相手と聞いたぞ……。そんなの流星花より手に入れるのが絶望的じゃないか……!」
「じゃが流星花と同等の効果を持っているのはそれしか思いつかん。サンダードラゴンの角を煎じて飲むと、死者すら蘇らせるほどの生命に満ち溢れるという噂じゃ。それならあるいは……」
「だけど手に入らなきゃ意味ないじゃないか……!」
んん? サンダードラゴン?
それって確か……
インベントリをチェックしてみることに。
………………
…………あ。あった。
やっぱり持ってたわ。
ひょっとしたらいけるかもしれん。
サンダードラゴンの角を1個だけ取り出してみる。
少し大きかったがなんとか持てるサイズだ。
「もしかしてサンダードラゴンの角ってこれ?」
「え……? な、なんだそれは!? どこから持ってきたんだ!?」
「さっきこれについて話してたから必要なのかなーと思って」
「ふ、ふざけるな! そんな簡単に見つかるわけがないだろう! 馬鹿にするのもいい加減にしろ! 今の私は冗談が通用するような――」
「……!! いや待て! 少年よ。その角をワシに見せてくれんか?」
「いいですよ」
老人の前の机に角を置く。
すると老人は驚いた表情で触り始めた。
「これはまさか……」
「ど、どうした?」
「いやまだ断定するのは早い……それなら……《解析》!」
お。あれは解析のスキルか。
解析はアイテムの詳細を見ることが出来るスキルだ。
「………………!! し、信じられん!」
「ど、どうしたというのだ?」
「これは本物じゃ! 本物のサンダードラゴンの角じゃ!!」
「な……そ、そんな馬鹿な!? おい嘘じゃないだろうな!?」
「ワシが保証する。これは紛れも無く本物じゃ。スキルで確認したから間違いない」
「ほ、本当なのか……」
2人は驚いた表情で角を触りまくっている。
「き、君! これを私に譲ってくれないか!」
「いいですけど……」
「!! い、いいのか!? いくらだ!? いくらなら譲ってくれるんだ!?」
そういや値段考えるの忘れてた。
「後払いでいいですよ。それより早く娘さんに使ってあげたらどうです? 一刻の猶予も無いんでしょ?」
「そ、そうだった! なら私に付いてきてくれないか! 家まで来てくれればいくらでも謝礼をする!」
「わかりました」
ということで、大急ぎで走るおっさんについていくことになった。