〝熟練度〟
あれから数日が経った。
俺達はひたすらホーンラビットを狩り、姉妹はスライムを狩っていた。
2人も慣れてきたようで、スライム程度なら余裕で倒せるようになっていた。
だから次の目標はホーンラビットにすることにした。
そんな日が続いたある日のことだった。
草原でいつものようにホーンラビットを狩ってるとラピスが話しかけてきた。
「ねぇゼスト。そろそろあたしも強くなったと思わない?」
「そうだな。レベルも上がったし、最初に比べると見違えるぐらい強くなったと思うぞ」
「ふふん! そうでしょ! これもあなたのお陰よ! 感謝しているわ」
2人は現在レベル4になっている。ちなみに俺はレベル6だ。
まだまだ初心者帯のレベルではあるが、それでも確実に強くなっている。
「だからね、そろそろ他のモンスターを倒してみたいと思うの。もうずっとホーンラビットばかりで飽きてきたわ」
スライムを卒業してホーンラビットを狩らせているが、それ以外のモンスターとは戦わせていない。
「駄目だ。もう少しこのまま続けるぞ。他のモンスターを相手にするのはまだ早い」
「えー。なんでよ!? あたしも十分強くなったと思うんだけど? フィーネもそう思うわよね?」
「え? そ、そうかもしれないけど……」
「ほら! この子もこう言ってるわけだし。もっと強いモンスターと戦ってみたいわ。あたしはまだまだ強くなりたいのよ」
ふむ。自信が付いてきたのはいいことだが……
まだ危ういんだよな。
「確かにお前らは強くなった。けどもうしばらく現状のままでいく」
「だからなんでよ? ホーンラビットなら1人でも十分狩れるようになったわよ?」
未だに同じモンスターばかり戦わせているのには理由があるんだが……
仕方ない。そろそろ話すとするか。
本当ならもっと後で伝える予定だったんだがな。
「ラピスの言いたいことは分かる。けどこれは必要なことなんだよ」
「必要なこと?」
「ああ。これには3つの理由がある」
「3つも? 聞かせてくれないかしら?」
「いいぞ。その代わりちゃんと理解するんだぞ? すごく大事なことだからな」
「……!」
2人は息を飲んで俺が続きを話すのを待っている。
そんな中、俺は頭を掻きながら話すことにした。
「まず1つ目。今使っている武器に慣れる為だ」
「つまり弓を上手く使えってこと?」
「そんな感じ。武器ってのは闇雲に使うだけじゃ駄目なんだ。しっかり使いこなす必要があるんだよ」
「で、でも。だいぶ慣れたと思うんだけど……」
「なら聞くが、今の命中率はどれぐらいだ? ホーンラビットに対してだ」
「……そ、それなりに当たるわよ!」
それなり……ねぇ……
見た感じ、3回に1回は外しているようだけどな。
「それじゃあ駄目だ。ホーンラビット程度なら百発百中になるようにしろ」
「な……そ、そんなの無茶よ! だってあいつら動き早いし……」
鈍足なスライムと違い、ホーンラビットはそれなりに素早く動く。
さすがに的が動くと外すことも多いみたいだ。
「ならせめて10発中9回は当てられるようにしろ。それぐらいの命中率じゃないと話にならん」
「そ、そこまで精度をあげろっていうの?」
「そうだ。素早く動くモンスターなんてこの先にはいくらでもいるぞ? この程度の相手に手こずっているようなら話にならん」
「な、なるほど……」
後衛はいかに命中率を上げるのかが鍵となる。
特にラピスはフィーネを守るために動こうとするからな。
ならばフィーネが安全に動けるよう、ラピスがフォローしてやる必要がある。
その為には確実に敵に命中するぐらいの腕前は欲しい。
「1つ目は分かったわ。2つ目はなんなの?」
「それはだな。純粋にスキル習得してないからだ」
「スキル? そういえば他のスキルはまだ取って無かったわね」
「私も同じです」
この子らはまだ初期スキル1個しか習得していない。
「じゃあ他のスキルを習得すればいいのね?」
「そんな簡単な話じゃないんだよ。冒険者カードでスキルツリー見てみな」
2人は冒険者カードを取り出し、スキルツリーを表示させる。
「えーと。まだ習得してないスキルがあるわ。それを覚えればいいんじゃないの?」
「よく見ろ。初めからある初期スキル以外表示されてないはずだ」
「! ほ、ほんとだわ!」
「私も前に見たスキル以外無いです……」
現状、覚えられるのは初期スキルのみだ。
スキルを覚えるにはSPを消費する必要がある。
SPはレベルが1上がる毎に1得られる。それを使ってスキルを習得していくシステムだ。
ということは、習得できるスキルには上限があるってことになるわけで。
「どうやったら他のスキルも取れるの?」
「これが3つ目の理由だ。一番重要なポイントでもある」
「ど、どういうことよ?」
「他のスキルを習得したかったら前提スキルを習得する必要があるがそれ以外にも必要な要素がある。それが『熟練度』だ」
「熟練度……?」
「あ! 確か前にも言ってましたよね?」
フィーネは覚えているようで偉い。
「習得スキルを開放させたかったら熟練度を上げる必要があるんだ。熟練度は武器毎に設定されているが、マスクデータなんだよな」
「えーと……つまり?」
「要するに、熟練度をひたすら上げろってこった」
熟練度はスキル習得に直結するぐらい重要な要素だ。
熟練度が上がるとその武器の威力や命中率が上昇する効果があるが、一番の目的はスキルの開放だ。
一定数溜まる毎に習得可能なスキルが解放されていくシステムなのだ。
「その熟練度というのはどうやったら上げられるのですか?」
「モンスターを倒す」
「え?」
「だからモンスターを倒すしかないんだよ。こればかりはひたすら数をこなすしかない」
そう。熟練度はモンスターを倒す以外に上げられない要素になっているのだ。
格上のモンスターとの戦闘はどうしても時間が掛かってしまう。だから数をこなす必要があるのだ。
「そういうことなんですね。だからずっと同じモンスターばかりを狙っていたんですね」
「分かっただろ? だからこれが強くなるための一番の近道なんだよ」
「そこまで考えていたのね……」
「強敵と戦うのも悪くないが、その為には地道に力をつけるしかないんだよ」
単にレベルだけを上げたけりゃ経験値が美味いモンスターばかりを狩ればいい。集中的に狩ってれば効率よく狩ればすぐに高レベルになるだろう。
だけどそれで本当に強くなれるか?と聞いてくるなら答えは……NOだ。
なぜなら熟練度が追い付いてないからだ。
熟練度が低ければスキルも習得できない。
スキルが習得できなければ大して強くなれない。
おまけに威力も命中率も大して上がらない。
つまりそういうパワーレベリングした結果どうなるか?
……ただの肉壁が出来上がるわけだ。
まぁそれでいいというのなら止めはしないがな。一生雑魚狩り専門として生きていくのならそれもありだ。
「本当ならもっとスキルが増えてから教えるつもりだったんだがな。最初から全部教えても理解が追い付かないだろうし」
「ご、ごめんなさい……」
「ま、分かってくれるならそれでいい。じゃあ続き行こうか。もう少し狩ったら引き上げよう」
「はい!」
実は熟練度にはまだ教えてない仕様があるんだが……今伝えるのはまだ早いな。
そのうち教えることにしよう。