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ゲームの世界に転生

「――――きて」


 ………………


「ねぇ――起きて」


 なんだ……?

 誰が喋ってるんだ……?


「ねぇ……起きてよ……」

「…………」


 目を覚ますと、すぐ近くには小学生ぐらいの女の子が見下ろしていた。


「もう……こんなところで寝てたら……ダメだよ?」

「…………」


 ムクリと上半身を起こし、周囲を見回す。


「……? どうしたの?」

「ここ……どこだ……?」

「えっ……?」


 知らない部屋。見たことのない人。見覚えのない景色。

 起きてから目に入ったのは、そういった光景だった。


「ど、どうしたの……?」

「…………」

「ね、ねぇ……さっきから……変だよ……?」


 頭がボーッっとする。

 …………というかこの女の子は誰だ?


「つーか君だれ?」

「え……?」

「ここどこだ? 部屋からでた記憶は無いんだけどな」

「な、なに言ってるのか……分からないよぅ……」


 目の前の女の子は困惑したままだ。

 けど構わず続ける。


「君、名前は? どこの子?」

「もう……どうしたの急に……。寝ぼけてるの……?」

「いや、寝ぼけてなんてないよ。本当に記憶が無いんだよ」

「私だよぉ……リーズだよぉ……」


 リーズと名乗った女の子は小学生ぐらいの体格で、薄汚れた格好だった。

 着ている服はあちこちに綻びがあり、年季が入ってそうな物だった。

 髪もボサボサで、お世辞にもきれいとは言えない。


「ねぇ。本当にどうしたの……? ゼスト(・・・)くん……」

「……なに?」


 今この子、何て言った?


「? どうしたの……?」

「なぁ。そのゼストってのは、俺の名前か?」

「そうだよぉ……。いつもその名前で呼んでるでしょ……?」

「…………」


 ゼストという名前。

 これには身に覚えがある。


 俺がとあるゲームに付けたキャラクターネームなのだ。


 ArkRavageOnline。

 通称ARO。

 これは大人気VRMMOの一つだ。


 俺もこのAROにハマっており、もう何年もやり続けている。

 他人からは廃人と言われるぐらいやり込んでいる。


 そして俺が使うキャラクターに〝ゼスト〟と名付けた。


 ということは、ここはゲームの中――AROの世界なのか?

 いつの間にログインしたんだろう?


 ――いや違う。

 ここはゲームの中じゃない。

 なぜならHPバーが無いからだ。


 ゲームの世界では、視界内にHPとMPのバーが表示される仕様だ。

 他にもアイテムショートカットや、プレイ内時間などのUIユーザーインターフェースが表示される。

 つまり一目でゲーム内だと分かるようになっている。

 だが今はそれらが全く見当たらない。


 それともただのバグか?

 試しにメニュー画面を呼び出してみるが……


「……あれ。何もでない」

「?」


 ということは、やっぱりここは現実世界……?

 ……にしては色々と違和感があるような?


 なんとなく下を見下ろす。


「……んなっ!?」

「ど、どうしたの?」


 これはどういうことだ?


 俺の体には見たことの無い服が着てあった。

 目の前の女の子――リーズと同じような汚れっぷりだ。

 これも年季が入っているらしく、所々に穴が開いている。


 こんなボロっちい服なんて着た覚えはないぞ?


 その場で立ってみるが……


「ぐっ……」

「だ、大丈夫!?」


 すぐによろけそうになってしまう。


 この体(・・・)は何だ(・・・)


 まるで他人の体に入り込んだみたいな感覚だ。


「なぁリーズ。鏡はあるか?」

「えっと……あっちにあるよ」

「向こうか」


 リーズが指さした方向に歩く。

 よく見ると部屋の中もあまりきれいではなかった。

 まるで築50年はありそうなほど古臭い。


 鏡の前に着くと、すぐに顔を覗き込んだ。


「やっぱりな……」


 そこで見たのは銀髪で顔が整っている美形の青年。


「間違いない。これはAROの世界だ」


 俺が作成したキャラクター――ゼストの姿が映っていた。


「けど微妙に違うような……?」


 確かに自分が作ったキャラではあるが、細部が違う気がする。

 一番の違いは身長だ。

 もっと高身長にしたはずなのに、少し背が縮んでいた。

 中学生ぐらいの身長になっている。

 さっき立った時によろけそうになったのはこのせいか。

 これは若返っているといったほうが正しいかもしれない。


「……少しづつ思い出してきたぞ」


 目覚める前の出来事が徐々に思い出せてきた。


「そうだ。確か転生システムを使ったんだ」


 転生システム。

 それはレベルが上限(カンスト)に達成したキャラのみが行えるシステムだ。

 レベルとステータスを初期化し、レベル1からやり直すというものである。

 だがスキルの習得状態、アイテムなどは持ち越せる。


 転生することによるメリットはいくつかある。

 一番のメリットはステータスに永続的なボーナスが付与されることだ。

 レベルが最大までなると、そこでステータスの上昇も止まってしまう。

 あとはアイテムや装備などで増やすしかないのだ。


 そこで登場したのが転生システム。

 一度ステータスがリセットされるが、その後はステータスに追加ボーナスが発生するようになる。

 しかもこれは永続で消えることはない。

 これでさらに強くなるという仕組みだ。


 んで俺はその転生システムを利用しようとしたんだっけかな。

 転生の確認ウインドウが表示され、そこで《はい》を選択。


 すると目の前が真っ暗になり……


 ……………………


 ――この先の記憶がない。


 目覚めたらさっきの通りというわけだ。


「ってことは……転生したのか?」


 それにしては色々と納得のいかないところがある。

 こんな場所に飛ばされるとは聞いてないし、キャラの見た目が変わるという仕様も無かったはずだ。

 俺の着ているボロい服も装備したことのないしな。


 一番の違いは……リアル(・・・)すぎる(・・・)ことだ。

 さっきから思っていたことなんだが、妙に五感が冴えわたる。

 AROは五感を再現するほどの画期的なVRMMOなんだが、限界というものがある。

 特に痛覚あたりは制限されている。

 でないとダメージを受けた時に大変なことになるからな。

 これが無いとゲームの世界なのに気絶するほど痛い体験をすることになる。


 試しに頬をつねってみる。


「……いひゃい(いたい)


 ありえない。

 ここまで痛覚が再現されているはずがない。


「そんな馬鹿な……」


 ……これはひょっとして。


「これなら!」


 今度は頭を壁に打ちつけてみる。


「いってぇ!」


 めちゃくちゃ痛い!

 思わずその場にしゃがみこむ。


「夢じゃないってことは……マジでARO(ゲーム)の世界なのか?」


 どうやら俺はゲームの世界に転生してしまったようだ……


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