既視感
「うわああああ!」
突然、シーザーは大声を出した。
「ナンパかと思ったら、人さらいだー!!」
この大声には、男たちだけでなくカーラもびっくりした。
ふと気づけば、何人かがこちらを注目していた。
「お……おい? 俺たちは人さらいなんかじゃ……」
男たちはバツが悪そうにもごもごしていた。
シーザーは、男たちに囲まれたカーラの手をつかみ引っ張り出す。
「え? ちょっと?」
「早く逃げよう」
シーザーはカーラの手をつかみ走り出した。
男たちは追って来なかった。
* * *
走ってるカーラは既視感に陥っていた。
シーザーからなんだか懐かしい匂いがする。それは匂い? それとも雰囲気というものだろうか?
前にもこんな感じで親しい誰かに助けられたような気がする。
カーラは走りながら、シーザーを見つめていた。
シーザーは、ひととおり走り倉庫が並ぶ人気のない所に来ていた。
倉庫と倉庫の間は狭い入り組んだ細道になっていて、追手の目をくらますには打ってつけだった。もっとも誰も追って来てはいなかったのだが。
「だいじょうぶ?」
と聞いたシーザーだが、カーラは息を切らすことなく余裕綽々といった感じだ。
結構鍛えてるんだなと思ったシーザーを、カーラはじっと見つめていた。
「え? 何か顔について……る?」
「私たち、前に会ったよね?」
「……!?」
シーザーは心臓から口が飛び出るかと思った。もとい口から心臓が飛び出るかと思った。
そのぐらい、びっくりした。
カーラが、スティナと同じことを喋ったからだ。
「今度はカーラが僕をナンパするの?」
そうじゃない、という返事が返ってくると思ったが、カーラはそれには答えなかった。
カーラはそっとシーザーを抱きしめた。
「カーラ?」
シーザーは困惑した。
以前、スティナにシムという少年に間違えられた。シーザーとシムは瓜二つといってもいいくらい同じ顔だった。
カーラも、シーザーのことをシムと間違えてるのだろうか?
だとしたらもっと早い段階でそのことを言うはずだ。