親切
「すごいわ! イルカも潮吹きするのね」
その言葉に、シーザーは思わず噴き出した。
「……違うって。クジラだよ」
言いながら、シーザーはスティナが飼ってるカメレオンをトカゲと誤解していたことを思い出していた。
しばらく笑いが止まらないシーザーだった。
「そうなの?」
女は意外そうだった。
だが、クジラの潮吹きに感動してるようで、また双眼鏡でクジラを見はじめた。
* * *
カーラは一人で港を歩いていた。
船を降りた後はバスで移動の予定だったが、バスは満員だった。
早く目的地に着きたいゼネバはぎゅうぎゅうのバスにムリヤリ乗り込んだものの、カーラは次のバスに乗ることにした。
それまで、適当に時間をつぶすことにした。
正直、慣れない船の旅で乗り物酔いしてたというのもある。すぐさま次の乗り物に乗るのはできれば避けたかった。
ゼネバと離れるのは寂しくもあったが、気分転換もしつつ海を眺めながら歩いていた。
すると、双眼鏡で海を見ている少年を見つけた。
「わぁあ……」
少年は感動のため息をもらした。海の向こうの何かを見ている。
「何を見てるの?」
なんて話しかけてみた。
双眼鏡に夢中の少年には聞こえていないのか……
「ひょっとして、イルカを見てるの? 私は船の上で見たわ」
そこで少年はカーラの方を見た。
「船の上?」
少年は双眼鏡を見るのをやめて、カーラに向きなおる。
「やっぱり、あれ、イルカだったんだ」
少年は感動してるようだ。
「うん。イルカってこんな寒い海にもいるのね」
カーラは人生で初めてイルカを見た。
最愛のゼネバと一緒に見れて感動したのだが、肝心のゼネバは素っ気ない態度で本当に興味なさげだった。
「今は夏だよ。寒いけどね。お姉さんは観光客?」
「まあね。私、次のバスまで時間があいちゃって……」
「そうなんだ」
「双眼鏡見てみる?」
目の前の少年が親切にも双眼鏡を貸してくれると言う。
「いいの?」
さっき、少年は楽しそうに双眼鏡を見ていた。それを貸してくれるなんて、なんて親切な少年なんだろう。
※ イルカも潮吹きするそうです。