宿題
以前、アニキ風をふかして『宿題見てやる』なんて言ったことがある。その量と難しさに舌を巻いたクスナだった。
それを難なく教え指導していたシーナにも驚嘆していた。
シーザーとシーナは人工的に遺伝子操作され生まれたシミュレーションロイドだ。とはいえ人間と何ら変わらない。
シミュレーションロイドの特徴の一つにIQが高いというのがある。
当然だ。高いIQの遺伝子を意図的に選ぶのだから。
加えて運動神経もいい。
いいことずくめのようだが、それのせいで他人からのやっかみもある。
シーナもあまり口には出さないが結構辛い思いもしてきたようだ。
シーナが極力目立たず、平凡に生きたがるのもそのためだ。クスナはその辺のことをよく理解していた。
守るといえば大袈裟だが、せめてこの姉弟が傷つくことなく寄り添っていたいと思っていた。
人々の賑わいの中、汽笛の音が聞こえて来た。
港に船が入って来たのだ。
「船、見に行ってくる!」
シーザーは駆け出した。
「迷子になるなよ」
と、クスナは声を掛けた。
シーナから、シーザーが落ち込んでるという話を聞いていたのだ。少しでも元気づけられればと思っていた。
駆けていくシーザーが元気そうで、クスナは安心していた。
* * *
シーザーは大きな船を見ていた。
ゆっくり波を揺らし、港に入って来た。
大きな船体は揺れながら止まった。誰か降りてくるのかな、なんて思いながら船を見ている。
その時、船の向こうに何か黒いものがいくつか見えた。
かなり遠く。いくつかの黒い物体が波の上を跳ねてるように見えた。
波の影のようにも見えなくはないが……
シーザーは持ってた双眼鏡で見てみた。
「わぁあ……」
シーザーは歓喜の声を上げた。
それはイルカのようだった。
イルカのように見えたが、もしかしたらクジラかもしれない。
クジラなら潮吹きするのかもなんて期待しつつ、シーザーは夢中で双眼鏡の中を見ていた。