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産業スパイ


――誰だ?

 ゼネバはキスを拒んでいた。

 腕で女の体を押しのけようとすると、女はゼネバの腕を枕の上に押さえつける。

 反対の手でゼネバの顎を押さえていた。


 するっと、ゼネバの口の中に何かが侵入して来た。

 ぬるぬると口の中をうごめく。

 甘ったるいどろっとしたものが口の中に広がった。


 それが眠り薬のようなものだと理解するのに時間はかからなかった。



 ふと、カーラに何度もキスをせがまれたことが脳裏に浮かぶ。

――こんな事になるなら、応じておけばよかった。


 ゼネバは後悔の念を抱きつつ、再び眠りに落ちた――




     *


 女は眠りに落ちたゼネバの顔を満足げに見下ろしていた。


 前髪をかきあげてみる。

 おでこから目元、目元から鼻つき、すべてが愛しい。


 ふと眠っているゼネバの目からひとすじの涙が落ちた。


「好きな人でもいるの? 妬けちゃうな」


 女はゼネバの涙を指先ですくいとる。




     * * *


 時間は前後する。


 洞窟の入り口で寝ていた自称山菜採りを、家の中に運び入れたジーラとシムゥン。


 山菜採りを床に置くと、ジーラはすぐさま外套を脱がせた。


 そんなジーラに、シムゥンは抗議する。

「ジーラ、何してんの!」

 眠ってしまった人物をどこかに寝せてやるでもなく、いきなり脱がせるなんて乱暴だと思ったのだ。



「こいつは怪しい」

 言いながら、ジーラは山菜採りの腕についてるワイヤを外した。


「見ろ、対アンドロイド用の武器だ」


「別に珍しくないだろ」

 と、シムゥンが反論する。

 事実、魔法使い同盟の中にもワイヤを所持してる者は多い。



 ジーラはワイヤを調べる。

 ここは魔法使い同盟の敷地だ。

 そこでアンドロイドの研究もしてるのはある筋では有名な話で、ジーラはこの自称山菜採りが産業スパイの類いじゃないかと思ったのだ。


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