お化け
「おやおや、眠ってしまったみたいだ。シムゥン、中に運ぶの手伝ってくれ」
と、ジーラはゼネバの頭の方を持つ。
「う、うん」
シムゥンは渋々ゼネバの足の方を持った。
魔法が強いシムゥンのこと、ジーラが邪眼を使ったのはわかっていた。
なんで、ジーラがそんなことをするのか。
二人はゼネバを家の中へと運び入れるのだった。
* * *
クスナ・ク・ガイルはビニールハウスのコーヒー畑を見ていた。
木は概ね順調に育っている。
春に弱っていた木に、ここのところ毎日のように回復魔法をかけていた。
他の木よりも、目に見えて幹が太くなり、実のつき方も他の木を圧倒していた。
まるでここのビニールハウスの主のように見えて、クスナはなんとなくそれが面白かった。
そして、最後に畑全体に念を込めるのを忘れない。
こうすると、コーヒーの味がよくなる。
その時だった。
「やるじゃない」
女の声だった。
誰もいないはずのビニールハウスの中。
いつの間にか、黒髪の女が自分の背後に密着するくらいの近さで立っていた。
「うわ!」
クスナは情けない声を上げ、腰を抜かした。
そして、驚愕した。
女の尋常ではない魔力に。
かつて見た異世界の機械の少年に匹敵するぐらいの魔力――
「お化け」
思わず、そんな言葉がこぼれていた。
*
次の日、カーラは散歩をしていた。
昨日、港町で会ったクスナという人。
魔法がかなり強いのはわかった。
それだけじゃなく、なんだか変わった種類の魔法のような気もしていた。
会ったのはほんの短い時間だったし、その話題を振ることもなかった。
なんとなく、あの魔法がどんなものか見てみたくなったのだ。
シムィンが道案内を申し出てくれたが、泊めてもらってる分際でそれは厚かましい気もした。
そのかわり、簡単に地図を書いてもらった。
ついた場所はビニールハウス。
シムィンから聞いた話では、ここでコーヒーの木を育てているという。