山
「一応、この山は私有地だ。早く立ち去れ」
と運転手は言った。
「私有地?」
ゼネバは、まるで旅行者でもあるかのような、分からないフリをした。
「それに、あの明かりの家に泊めてもらうより、町まで歩いた方が早いだろうよ。何なら車庫で寝るか? 毛布ぐらい貸してやるよ」
だが、ゼネバの問いに答えてやる気はなかった。
「いいよ。町まで歩くさ」
ゼネバは町へと向かって歩き出した。
ある程度、歩くとまた引き返してきた。
運転手がどこに行くのか後をつけ始めた。
後をつけながら、カーラを連れて来なくて正解だと思っていた。
目立つカーラと一緒だったら、終点で誰かに起こされていただろう。
* * *
――それにしても、ゼネバが言ってたおかしな気配って何だろう?
ベッドの中でカーラはぼんやり思っていた。
山の方に何かいるのか?
カーラは何も感じなかった。
得体のしれない相手なのか、ゼネバの気のせいか?
まあ、ゼネバなら大丈夫だろう。
それよりも、カーラは港町で会ったシーザーと一緒にいた男が気になっていた。
名前はクスナといったか。
シーザーとはどういう関係なんだろう? 親しいみたいだけど、兄弟ではなさそうだし。
それでいてシムィンの友達みたい。
だったら、そのシムィンに明日にでも聞いてみようか?
それとも近所に住んでるみたいだし直接行ってみてもいいかも……。
カーラはそんなこと考えながら、いつしか眠っていた。
* * *
運転手が着いたのは一件の家、おそらく普通の民家だろう。
ゼネバは自分のワイヤを触ってみる。
何かに反応してるが、この家の中に対してではない。それはわかった。
とりあえず、ゼネバは山の奥の方へと進んでみる。
夏なのに、山道は雪があった。
夜は更に冷える。
なるべく足音を立てないように進む。
真っ暗な山道を、ワイヤが導く方へと。




