SC作戦・野瀬の戦い(7)
相撲取りゾンビが投げたクレーン車は、まずバリケードに激突した。並んだワンボックスカーの上に鉄パイプと鉄板で組み上げられた防壁はだるま落としのようにバラバラに砕け残骸が宙を舞う。クレーン車は勢いを保ったまま、バリケード後方に脱出のために置かれていた軽トラックや他の車を押し潰し、さらに高速道路の本線に飛び出す。路面のコンクリートを削りながら進み中央分離帯に激突、そこでようやく止まった。伸びたままのクレーンのブームで高速道路の半分以上が塞がれている。空に吹き飛ばされたバリケードや車の残骸が周囲に降り注ぎ、野瀬の背中にも小さな金属片がぶつかった。助け出した運転手を体で守りながら野瀬は残骸の雨が落ち着くのを待ち顔を上げた。
「全員無事か!⁉︎」
背中の痛みを堪えながら、仲間の安否を確認した。少し離れたところに井出隊の面々がいる。井出は破片を頭に受けたらしく、ヘルメットの一部に黒い傷がついており少し意識が朦朧としているようだ。その横で本張達が武器を手に体勢を立て直そうとしている。最上という男が腕から出血していたが、クロスボウを持ち直しているので重症ではなさそうだ。別の場所からは冠木と西山、興津がこちらに合流しようと向かってきている。いずれも怪我はないが西山の手に小銃はなく、代わりに拳銃が握られていた。野瀬は自分が庇った運転手に大きな外傷が無いことを確認すると立ち上がった。
「野瀬さん、ご無事で」
合流した興津が倒れたままの軽トラックの運転手に手を貸して立たせ、冠木と西山は銃を構えてハイウェイオアシスへの分岐点を警戒する。
「お前らも怪我はねえな」
「こっちは大丈夫です。これからどうしますか」
興津が高速道路に横たわったクレーン車を一瞥する。恐ろしい怪力で放り投げられた建設用の車両は横転した状態で片側の車線を塞いでいる。下り側の車線は通行止めになったが登り側に影響はない。中央分離帯にはガードレールが設置されていない部分もあるので車両の移動も可能だ。ハイウェイオアシスに続く坂に注意を向けると、重々しい何かがコンクリートを踏み砕きながら登ってくる音がする。冠木が姿勢を低くし、ガードレールに身を隠しながら坂の様子を伺う。
「野瀬さん、大型ゾンビが上がってきます。相変わらず頭をガードしたままです」
冠木が少し疲れた声で報告した。
「出鱈目だな。クレーン車を投げ返し、その上まだ動けるのかよ。ペースは? 後どれくらいでここまで来る?」
「かなりゆっくりです。上がりきるまで……五分くらいはかかりそうです」
「立て直しをする時間はありそうだな。悪りいがしばらく様子を見ていてくれ。これからの方針を決める」
「わかりました」
冠木がガードレール越しに銃を構え、その隣に西山と興津も並んだ。
周囲を確認するとすでにバリケードはなく、戦闘員に負傷者も出ている。本線上には井出隊の作業員が数人残っていたが、彼らの車はクレーン車に巻き込まれて潰されたらしく立ち往生していた。脱出に成功した軽トラックが一台いるはずだが姿が見えない。おそらくクレーン車の向こう側にいるのだろう。それがあっても二十名近くいる全員を乗せるのは無理だ。野瀬と冠木が乗って来た車は既に別の井出隊の作業員に預けて脱出させてしまっているのでここには残っていない。残った人間は戦闘員が九名、井出も含めた非戦闘員が十名。相撲取りゾンビは健在で他のゾンビも大量に残っている。
「なかなか厳しいじゃねえか」
井出と井出隊の戦闘員が合流してきた。逃げ出した際に武器の大半を失ったらしく、小銃は一挺しかなかった。本張は丸腰で負傷した井出に肩を貸している。彼女のクロスボウは別の戦闘員の手にあり、最上もクロスボウ、森下はドローンのパソコンだけで。さっきまで四挺の小銃があった井出隊の戦力は半分以下になってしいた。
「野瀬君、これからどうするの?」
「どうしようもねえ。撤退だ」
「どうやって?」
「逃げた軽トラックがいるはずだ。連絡は取れないか?」
「俺が取る」
井出が痛みに顔を顰めながら、ポケットから無線を取り出した。通信を入れるとすぐに軽トラックの運転手から返事があった。予想通り、クレーン車で分断された下り車線の向こうにいるようだ。
「井出さん、トラックにこっちに来てもらってくれ。武器の無い奴らを乗せて逃げてもらう」
「こんなことなら車は遠くに置いておくべきだった。脱出しやすい様にバリケードに近づけたのは失敗だった」
「クレーン車が飛んでくるなんて誰にも予想できねえよ。仕方ねえさ。ついでに残っている作業員も全員ここに呼んでくれ。トラックが来たらまとめて乗ってもらう。井出さん、あんたもな」
「お前達や本張達はどうする? 軽トラックに全員は無理だぞ」
「走って逃げるさ。あのデカイのも含めてゾンビのほとんどは鈍足だからな」
すぐに軽トラックのエンジン音が聞こえてきた。登り側の車線にはみ出たクレーン車の車体を迂回し、野瀬達がいる下り側に来るために中央分離帯のガードレールの切れ目を目指している。脱出車両の運転手を任されているだけあり、かなりキレのある運転であっという間に野瀬達の近くまで来た。近づいてくるエンジン音に合流した作業員達が安堵する。
「攻撃がきます! 頭を下げて!!」
冠木の叫び声がした。ほぼ同じタイミングで何かが空気を切り裂き野瀬達の目の前を横切った。軽トラックの方から金属が貫かれコンクリートの砕ける音がする。聞こえていたエンジン音が途切れ、アルミ缶を勢いよく潰したような音と、それに続いて風船が破裂したような音がした。振り向くと、細長い金属棒が軽トラックの荷台部分を貫通していた。トラックは道路に縫い付けられて停車し、片側のタイヤが浮かび、運転席ではエアバックが膨らんでいた。
「なんだ!?」
「大型ゾンビです! 落ちていた鉄パイプを投げたんです」
冠木が叫ぶ。その言葉通り、急停止させられた軽トラックの荷台に突き刺さっていたのはバリケードを構成していた鉄パイプだった。運転手が萎んだエアバックを押しのけながらなんとか車外に飛び出そうとするが、何かが引っ掛かるのか、あるいは急停止の際に負傷したのかうまく外に出られないでいた。
「あのデカイ奴、相撲取りの格好をしているくせに槍投げもするのかよ……本張、お前達であの運転手を助けろ。冠木、興津、西山、デカイ奴を牽制しろ。次を投げさせるな」
野瀬自身も銃を手に、冠木達の下に向かった。ちょうど、坂を登り切った相撲取りゾンビがバリケードの残骸の中にあったワンボックスカーのスライドドアを持ち上げようとしているところだった。
「クソデケえじゃねえか」
間近で見るその巨体は圧巻で、象サイズのゴリラのようだった。身長は三メートル以上、腰に巻いていた布はガソリンの爆発で吹き飛び髪も殆ど焼けてしまっている。頭の天辺から爪先まで、体の正面はガソリンの炎で焼かれ黒く炭化していた。炎の影響を免れたのか背中部分はゾンビによく見られる灰色の皮膚をしている。腕と脚の筋肉は恐ろしく肥大化しており、全身に受けたはずの銃弾のほとんどが皮膚付近で止まっているのが確認できた。集中攻撃を受けたはずの膝に思ったよりも弾痕が少ない。再生能力があるのかもしれない。
ゾンビは両手で掴んだスライドドアを頭上に掲げ、運転手を助けようと集まった本張達に投げつけようとしている。
「止めろ。あれを投げさせるな!」
冠木が相撲取りゾンビの頭部目掛けて小銃を発射する。ゾンビはドアを盾のように掲げ、攻撃を防ごうとした。だが破損したワンボックスカーのドアに装甲と呼べる強度はなく、あっさりと貫かれた。
弾丸はそのまま頭部に命中。遠雷のようなうめき声が空気を揺らし、穴の空いたスライドドアが落ちた。相撲取りゾンビの口の下辺りから灰色の体液が流れ出ている。
「惜しい。顎に当たっただけか。でも今なら」
興津が砕けた顎の上を狙って小銃をフルオートで連射。だが相撲取りゾンビは今度は両腕を盾にして攻撃を防ぐ。鉄板を貫く小銃弾もゾンビの腕には通じない。
「せめて動きだけでも」
西山がゾンビの右膝に拳銃を発砲した。見た目以上に先ほどのダメージが蓄積されているらしく、数発被弾しただけで膝を着く。冠木、西山、興津の三人が絶え間ない攻撃を浴びせ相撲取りゾンビの動きを止めた。だがどの攻撃も決定打にならない。このままではいずれ弾薬が底を着いてしまう。
「野瀬君、こっちの救助は終わったわ」
運転手を助けた本張が叫んだ。脱出に使える車両は全て失った。館山方面への道はクレーン車が塞いでいるし、なにより相撲取りゾンビがいる。
「本張、井出隊で非戦闘員を全員連れて木更津方面に逃げろ」
本張は「わかったわ」と頷くと、井出達を守りながら、相撲取りゾンビがいるのとは反対方向の北に向かう。
「野瀬さん、大型ゾンビがまた何か投げようとしています」
相撲取りゾンビが再び立ち上がり、全身に銃弾を受けながらも片手で頭をガードしながら空いた方の手で路上落ちた何かの残骸を掴むと本張達目掛けて投げた。投げる瞬間に冠木が手を狙撃したので狙いは大きく外れたが大砲の弾丸のように百メートルは飛んでいった。
「あれを止めねえと井出達が危険だ!」
「俺達も残ります」
本張以外の井出隊の戦闘員がこちらに加勢に来る。なぜか非武装の森下も一緒だ。合計八人で絶え間なく攻撃を加えるが、相撲取りゾンビは片腕で顔をガードしたまま再び投擲姿勢に入る。
「止まれ! 止まれよ!」
「足を撃ってるのになんで倒れないの」
「正面からじゃ無理だ。俺が後ろに回り込む!」
怒号と銃弾が飛び交い、ゾンビの背後に回り込もうと冠木が駆け出す。それを察知した相撲取りゾンビが手にした金属片を投げつけた。クレーン車を投げ飛ばす力で投げられれば拳サイズでも銃弾以上の破壊力がある。冠木はなんとか攻撃を避けたが、路面のコンクリートがスコップで砂場を掘ったようにごっそり抉れた。破片と衝撃を受け冠木が前のめりに倒れる。
「望!」
「よせ、危険だ」
冠木に駆け寄ろうとする西山を興津が力づくで止める。そうしている間に相撲取りゾンビは別の残骸を手にした。冠木はまだ路上に倒れている。あの状態で攻撃を避けるのは不可能だ。銃撃しても攻撃は止められない。それならばと野瀬は叫びながらゾンビに突撃しようとした。自分が囮になって冠木が逃げる時間を稼ごうとしたのだが、その前に空気を切り裂く甲高い音が響き黒い影が相撲取りゾンビの正面に現れた。
「ドローンか!?」
森下が操作するドローンが相撲取りゾンビの顔の前で静止しビデオカメラを向ける。筒状のビデオカメラのレンズが銃口に見えたのか、相撲取りゾンビはすぐに破片を捨てて両腕で顔面を守りに入った。その間に冠木は立ち上がり、距離を取る。さらに井出隊の三人が冠木を援護するように側面から攻撃を加えた。再び相撲取りゾンビの足が止まる。その隙に背後に回った冠木が後頭部を攻撃した。
「やったか?」
「ダメです。硬過ぎます」
銃弾は間違いなく相撲取りゾンビに命中していた。だが、頭蓋骨が分厚過ぎるのか、致命傷にならない。
冠木は小銃を連射モードに切り替え、四、五発の弾丸を相撲取りゾンビの後頭部に叩き込んだが皮膚が弾けるばかりで骨は砕けない。それがゾンビの怒りを買った。相撲取りゾンビは冠木に向かって咆哮し、足元にあった金属片を拾い狙いもつけず投げつけた。空気が唸り、冠木が左に飛ぶ。ほぼ同時に冠木の背後にあったガードレールがスプーンで生クリームを削る様に消滅した。冠木自身はすぐに立ち上がり単発射撃でゾンビへの牽制を続ける。本張達はかなり遠くまで移動している。あとはここに残った戦闘員だけだがあの投擲攻撃が残っている限り安全にここを脱出するのは不可能だ。野瀬は相撲取りゾンビを倒す方法を思いついた順に口にした。
「後頭部を撃ってもだめなら狙うのは目玉か口。あのガードを外す必要があるが……森下、もう一度ドローンでデカイ奴を牽制しろ。顔の周り、手の届く距離を飛ばしてガードを外せ! 他の連中は顔が空いたら目か口、鼻を狙え」
「わ、わかりました。やってみます」
森下が上空にいたドローンを再び急降下させ、相撲取りゾンビの頭部を中心に旋回させた。甲高いプロペラ音を立てるドローンは大きな蚊のようだった。相撲取りゾンビは足を止め、腰を落とし両腕を顔の前に構えて防御姿勢をとる。
「おいっ、足は止まったが防御が硬くなったぞ」
「こうなったら、突っ込ませます! ああ、くそっ、そのまま釘付けにしていてください」
森下が叫びながらノートパソコンのキーボードを叩いた。ドローンは一度高度を上げると、上空で大きく旋回しながら相撲取りゾンビの後方に位置を取る。攻撃の意図を理解した冠木達が相撲取りゾンビの腕に攻撃を加えると、ゾンビはそのままの姿勢で防御姿勢を固める。
「今だ!」
森下がドローンを急降下させた。百メートルほどの高度から数十キロの金属の塊が迫る。さきほどとは違う音に相撲取りゾンビは危険を察知して身を横に移動しようとした。だがドローンの方が早い。ゾンビが片足を上げ、重心を移動させようとした時にもろに後頭部に直撃した。高速回転するプロペラが後頭部の肉を切り裂き頭蓋骨を削る。ドローンのエンジンやカメラが衝撃でバラバラに砕けた。ドローンの体当たりの威力は頭蓋骨を破壊するには不十分だった。だが衝突の衝撃は十分大きく、相撲取りゾンビは前のめりに倒れた。とっさに両腕を地面に着いて身体を支えたので腕の防御が崩れ、顔面が無防備に露になる。
「今だ! 目を狙え!」
その場にいた全員が一斉に武器を発射した。野瀬も左目を狙って単発射撃モードで引き金を引きまくる。銃弾やクロスボウの矢が嵐のように降り注ぎ、頬の肉が削げ、歯が砕ける。それでも相撲取りゾンビは動き続け、腕で顔を守ろうとする。その目には憎しみの籠った真っ赤な光が燃える様に蠢いていた。だがその両目はあっけなく潰れた。誰かが放った銃弾が右目に、最上のクロスボウの矢が左目に命中、そのまま眼窩を突き抜け相撲取りゾンビの脳に到達した。相撲取りゾンビはそのまま前のめりに倒れ、積もっていた灰を撒き上げながら路上に沈み、動かなくなった。
「やったのか?」
野瀬は銃を構えたまま、相撲取りゾンビの様子を見守った。しばらくしても動く気配はない。
「……倒したらしいな」
野瀬は銃を下ろすと肩の力を抜いた。これで目下の脅威は去った。あとは他のゾンビが坂を上がってくる前にここから逃げ出すだけだ。
「やったぞっ、俺達が倒したんだ」
「ザマアミロ、このデカブツ!」
井出隊の隊員が銃を高く掲げて勝鬨を上げていた。倒れた相撲取りゾンビの目にはクロスボウの矢の底の部分がわずかに突き出ている。銃弾か、あるいはクロスボウの矢が致命傷になった事は間違いなさそうだ。
野瀬は仲間達を見渡した。今の戦いで負傷した者はいないようだ。ただ森下が相撲取りゾンビの近くに墜落しているドローンを見て少しだけ寂しそうにしていた。野瀬は森下に近づき「よくやった」とその肩を軽く叩く。
「あのドローン、ようやく操縦に慣れたところだったんです……」
「おかげで決め手になった。今度どこかで新しいのを探してきてやる」
「お願いします。できれば同じモデルがいいです。でも、これで上空からの偵察ができなくなりました。次の想定外が起こる前に撤退した方がいいと思います」
「同感だな。ゾンビが来る前にさっさと離脱するぞ。森下、無線を持っていないか?」
「ありますよ。どうぞ」
森下から小型の無線機を受け取った野瀬は電源を入れ、とりあえず呼びかけてみた。といってもその無線機の交信範囲はせいぜい数百メートル。脱出した車が集まっている富浦インターチェンジまで八キロほど離れているので期待はできない。しかし、あっさりと返信があった。
『こちら野瀬隊の波多野です。どうぞ』
「波多野か? どうして通信に出られる」
『作業の人達を下ろした後、そっちの応援に向かってるの。あと少しで到着するわ』
「ありがてえ! こっちは高速道路の防衛作戦が失敗した。バリケードが破壊されゾンビどもが押し寄せてくる。撤退してえが車両が足りねえ。今、残っているのは八人。車が必要だ。これから徒歩で南下するから途中で拾ってくれ」
『わかりました。こっちに大型の通信機があるから合流地点からマイクロバスを一台出してもらうわ』
『その必要はありません』
急に男の声が無線に割り込んだ。それは野瀬のよく知っている声、陸上自衛隊の真庭一尉の声だった。
「なっ、真庭か。どこにいる?」
『ええ、真庭です。我々はあと三十秒で現場に到着します。ですから撤退の必要はありません。その場で戦線を維持してください』
「てめえ、状況がわかっているのか。こっちはバリケードを破られクレーン車を放り投げるデカイゾンビも出たんだ。弾も武器も足りねえ。これ以上は無理だ。死人が出ねえ内に下がらせてもらう」
『大型ゾンビはすでに倒したのですか』
「そうだよ。だからこうしてのんびり会話ができてるんだ。だがもうバリケードがねえんだ。ゾンビ共が上がってきやがるんだよ!」
『落ち着いてください。ゾンビはあと何体残っていますか』
「正確な数はわからねえ。多く見積もって八百ってところだ」
「その数なら問題ありません。我々で十分対処できます』
「ならテメエらで勝手に、」
野瀬が言い切る前に、三台の車が木更津方面から現れた。濃い緑色、オリーブドラブ色をした自衛隊の車両が二台と先ほどここから脱出した井出を乗せた軽トラックだ。それを見た興津が目を細める。
「高機動車と軽装甲機動車、間違いなく真庭さん達ですね」
高機動車と呼ばれたのは大型の箱のような車で、ハリウッド映画でよく見る米軍の車両に似ていた。車体の後部は布製の幌で覆われている。もう一台の軽装甲機動車は高機動車よりもやや小さいが全体を装甲で覆った角ばった形状をしており、屋根には大きな機関銃を搭載していた。野瀬達が使う乗用車やトラックとは違い完全に戦争用の装備だ。
「……今更かよ」
二台の自衛隊車両は野瀬達の近くで停車する。高機動車から陸上自衛隊員が六名降車し、素早く周囲に展開した。手には様々な形の銃、頭にはヘルメット、体にはボディーアーマー、切れのある身のこなしと統制のとれた動きだ。もう一方、軽装甲車の方からはヘルメットに拳銃とやや軽装な真庭一尉が降りてきた。
「井出さん、野瀬さん、ご苦労様でした。ゾンビの集団は?」
「……そっちの坂の下だ。ゾンビはハイウェイオアシスから来ている」
真庭は「わかりました」と頷くと部下に指示を出した。陸自隊員達は高速道路本線のガードレール沿いに並び、坂道に銃を向ける。隊員の内、一人は八九式小銃よりも大型でハンドルのついた軽機関銃を持っており、腹這いになって二脚を立て、ガードレールの下からゾンビの群れに銃口を向けた。別の一人は大型のスコープを搭載した狙撃銃を構えている。さらに装甲車の屋根に搭載された大きい機関銃の射手も銃口をゾンビの群れに向けた。




