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8月17日 住宅街(1)

2023年2月12日:全面改訂(話の流れは変わっていません)

2023年2月21日:一部修正

 新しい朝が来た。だが希望はない。


 冠木望は浅い睡眠から目覚め、うっすらと瞼を開けた。部屋の中は薄暗く、かび臭い。マットレスだけの寝床の上で身体を動かすとスプリングが軋み、埃が宙を舞い、カーテンの隙間から差し込んだ弱々しい光を反射した。

 冬の山小屋のような静かな朝だった。望はマットレスから身を起こし、まず横に置いてある木刀の位置を手で探り、それから部屋の入口を確認する。そこにはベッドのフレームと本棚を組み合わせたバリケードがあった。


「部屋の入口、異常なし」


 孤独を紛らわせるため声を出しながら、ドアまで移動し、しっかりと塞がれていることを確認する。次に窓に向かいカーテンの隙間をそっとめくる。火山灰で汚れた窓の向こうに住宅街が広がっていた。二階にある望の部屋からは周囲が良く見渡せる。いつもなら朝早くから出勤するスーツ姿の会社員や朝練に向かう制服姿の学生、犬の散歩をする近所の人などが行き交う自宅前の道路に真っ白な灰が雪のように降り積もっている。道の真ん中にはドアを開けたままの車が放置され、運転席にまで灰が入り込んでいた。


「昨日より少し積もったかな……」


 道路には車の轍や足跡一つ残っていない。この数日にあった変化といえば、積もった灰の厚みが増しただけだった。

 最後に人間の声を聞いたのは三日前だったか。遠くで自動車事故のような大きな音がした直後、「来ないで!」という女性の悲鳴が聞こえた。それが最後だ。窓を開けても聞こえてくるのは風の音だけ。日本で生き残っているのは自分だけかもしれない、そう思えるほど世界は静かだった。


 窓の外をチェックした後、カーテンをしっかり元に戻す。それから机の上にあるハサミや定規の入ったペン立てから黒いサインペンを手に取って壁に向かった。そこにはカレンダーがあり、八月三日から八月十六日までチェック印がつけられている。


「今日は八月十七日。噴火から二週間。部屋に籠ってからもう十日以上。今日こそは救助が来るといいな」


 わざと声のトーンを明るくしてみたが、誰もいない部屋にむなしく響くだけだった。ため息をつきながら十七日にチェックをつけサインペンを机の上に戻す。そのペン立ての横には充電の切れたスマートフォンと白いフォトフレームがあった。望は写真に向かって声をかける。


「西山、おはよう」


 フォトフレームには高校の生徒会メンバーの写真が入っていた。中央から左にかけて会長、副会長、会計などの三年生組。その右側に緊張した面持ちの望とその隣に髪を下ろし優等生顔で微笑む西山千明の姿があった。今年の四月、進級記念に生徒会役員で撮影した一枚だ。西山の写真はこの部屋で孤独に耐える望にとって最後の希望だった。


「会いたいな……」


 あの日以来、西山と会えていない。

 噴火直後、望はすぐに西山と連絡を取ろうとした。だが電波状況が混乱しており、お互いの無事を確認はできたものの、直ぐにスマートフォンも固定電話も繋がらなくなった。それでも、東京では噴火の影響は火山灰以外になかったので楽観的でいた。ところが翌日、母親と共に訪れた配給所で望はゾンビに遭遇した。自衛隊が運んできた食料配布の列に並んでいたところ、列を整理していた区の職員が列に並んでいた主婦の喉元に噛みついた。頸動脈が食い破られ、血が噴水のように噴き出した。辺りは一瞬で真っ赤に染まり人々はパニックになった。さらに他の職員や消防団の男たちが次々とゾンビ化し手当たり次第に人間に襲い掛かった。望と母親は人込みをかき分けながら自宅まで逃げ、家中のシャッターを下ろし玄関にカギをかけた。


 当時はまだテレビは生きていた。レポーターが「火山灰症」や「まるでゾンビ」という表現で人が人を襲う事態が起きていると報告していた。スタジオに呼ばれていた有識者は富士山の火山灰に未知のウイルスが含まれていたのではと推論していた。その有識者は途中から体調が悪そうになり、頻繁に額の汗を拭い、ピッチャーの水を飲んでいた。番組が終わりかけた頃、突然その有識者が隣に座っていたアナウンサーの女性を食い殺した。画面が一瞬で切り替わり、「しばらくお待ちください」の表示から変わらなくなった。チャンネルを変えるとNHKで政府から外出禁止令が発令されたと報道していた。それからしばらくして突然電気が止まりテレビを見ることはできなくなった。


 翌日、母親がゾンビ化してしていた。望は自分の部屋に立て籠もり、それ以来一度も部屋から出ていない。何度か外に出ようと思ったことはあった。西山に会いに行こうとも思った。だがその度に、一階を彷徨う母親ゾンビの気配に意気を挫かれた。ゾンビに襲われる事が恐ろしかったし、それ以上に変わり果てた母親と対面する勇気がでなかった。


 部屋の中でできる事は多くない。スマホは使えないし、漫画や小説を読もうとしても集中できない。ましてや勉強をする気にもなれなかった。それでも気を紛らわせるため、中学の修学旅行で買った木刀で素振りをしたり、バリケードのチェックのようなルーチンを決めて実行していた。日付チェックの次は食料の確認だ。


「保存食はブロックタイプが六つ、水は二リットルのペットボトルが二本。ビタミン塩飴はまだ残ってるけど大したカロリーにはならない。普通に食べたら、あと二日分」


 部屋の隅には大量の空き箱と空きペットボトルが山になっている。望は残りわずかとなったブロックタイプの保存食を一つ手に取ると銀色の包装を開けて口に入れる。望の父親が会社から持ち帰ったサンプル品で、パサパサとした食感と薄いチョコレート風味のショートブレッドだ。有名な市販品に似ていたが味はいまひとつ。保存食の外箱には素っ気ないフォントで「カロリーフレンド」と書かれていた。


「やる気のない商品名に雑な味……親父の会社、本気で売る気あったのかな」


 望の父親は製薬会社の社員で噴火があった日は出張で家を空けていた。一度だけ母親と電話で話したようだがそれ以降は連絡が取れていない。

 口の中に残った保存食の欠片を水で流し込み、空腹感を紛らわせるためビタミン塩飴を口にする。これで朝食は終わりだ。望はマットレスに寝転がり、目を閉じた。ただ目を閉じて楽しかった過去を思い出し、あったかもしれない未来を想像する。昨日は西山と初詣に行ったので今日は高校三年のバレンタインの妄想することにした。マットレスの上でじっとしていると、部屋の静寂が増す。床に置いた目覚まし時計の秒針の音が耳障りなほどコチコチと響いた。


「そういえば、西山は時計も水色だったな。ホワイトデーに水色の何かをプレゼントしようかな。去年のクッキーは喜んでもらえたからそれもつけて……うん、クッキーと見せかけてサプライズプレゼントをしよう」


 今から二年後の西山を想像してみようとするが、思い出されるのは、最後に会った日の西山の姿だった。生徒会室の長机にうつ伏せに寝て望に背を向けた西山。その背中に流れる髪を見て胸を高鳴らせたのがもう何年も前のような気がする。


「……春になったら映画に行きたいなな。ポップコーン食べるながら。俺は塩味で、西山はキャラメル味で、ドリンクは二人ともウーロン茶かな」


 望は妄想を続けるした。映画館の座席に座る二人の間には大きなポップコーンのカップがあつ。ハーフ・アンド・ハーフで二種類の味が入っていて、シェアしながら映画を見る。さっさとキャラメル味を食べ終えた西山がこちらの塩味にも手を伸ばす。そんな楽しい妄想に浸っていると、マットレスの下で何か音がした。部屋の中ではない。床の下、一階で何かが動いたようだ。

 急に現実に引き戻された望は怯えながら身体を起こす。


「母さんか……」


 一階のゾンビ化した望の母親がソファーやテーブルにぶつかったのだろう。珍しいことではなかった。


 噴火の翌日、ゾンビから逃げ帰った日の夜、望の母親は高熱を出して倒れた。望は懸命に看病したが夜が明ける前に望の母親はゾンビ化した。肌はまるで火山灰のようにくすんだ白色になり、目は白濁、壊れた人形のような動きで起き上がると望に襲い掛かってきた。望は母親ゾンビを突き飛ばし、必死に自分の部屋に逃げ込んでバリケードを築いた。それ以来、母親ゾンビは一階のリビングやキッチン、寝室を徘徊している。時々椅子やドアにぶつかり音をたてていたが二階に上がってくることは無かった。


「階段を登れないから、大丈夫」


 耳を澄ませていても母親が階段に近づいてくる気配はない。望が現実逃避の妄想に戻ろうと目を閉じた時、階下から別の音が聞こえてきた。ドサッと何か大きな物が倒れたような重たい音だ。


「転んだのか?」


 今度は規則正しく板が軋む鳴る音が聞こえる。キイ、キイ、キイと一定の間隔で鳴り続けている。それが数秒間続いた。


「これは母さんじゃない。まさか別のゾンビ!?」


 母親のゾンビは下手糞な操り人形のように足を引きずり、リズム感に欠けた動作をしていた。今聞こえてくる音は母親のゾンビのものとはまるで違う。もっとしっかりとした足取りだ。やがてその足音は一階の階段辺りで止まる。


「動かなくなった? そうだよな、やっぱりゾンビは階段は登れないんだ。だから二階にいれば大丈夫」


 ほっとしたのも束の間、足音が再び動きだした。音の出所は少しずつその高さを上げ、距離を縮め、三次元的に近づいてきている。


「階段を上がってる? まさか、そんな……!!」


 望は足音を殺しながら部屋の入口まで移動し、バリケードのベッドフレームを両手で押さえながらドアに耳をつけた。規則正しく板張りの階段を上がる音が少しずつ大きくなってくる。望の心臓の鼓動が速度を上げ、全身が強張った。ベッドフレームを抑える手が力の入れすぎ白くなる。


「いつかこんな日が来るとは思っていたけど、くそっ」


 望は震える腕で必死にバリケードを押さえながら、何か方法がないか部屋の中を見渡した。窓から飛び降りる、クローゼットに隠れる、観光地で買った木刀で殴りかかる、部屋唯一の刃物であるハサミで戦う、どれも確実とは思えなかった。


「頼む、来ないでくれ」


 足音は階段を登り切り、二階の廊下を歩き始めた。

 しばらくして少し離れた位置でドアが開く音がする。ちょうど妹の希美の部屋がある辺りだ。希美は部活の合宿で長野に行っており現在はどこにいるのか、生きているのかすら分からなかった。


「ドアを開けた?」


 ゾンビらしくない行動だ。でたらめに叩いたら偶然開いた、というのではなく、迷いなくドアを開けていた。


「まさか希美が帰ってきた!?」


 一瞬、望の胸に希望の光が灯った気がした。だがそれは直ぐに消える。冷静に考えればあり得ない。中学三年生の少女がたった一人で長野から帰ってこれるはずがない。

 背中に冷たい汗が流れた。部屋の外にいるのは人間の可能性が高い。だがもし救助に来た人なら、外で消防車のランプが点灯し、要救助者を探す掛け声があるはずだ。無言で人の家に侵入するわけがない。だが悪意を持った人間ならどうか。災害時には空き巣に注意という報道もあった。最悪、部屋に残ったわずかな食料と水を奪うため望を殺すかもしれない。


「来るなよ。こっちには来るな。来るな……」


 望はバリケード代わりのベッドフレームを押さえながら祈り続けた。

 しばらくして妹の部屋の中に消えた足音が廊下に出て来た。二階にある部屋はあと二つ。客室と望の部屋だ。足音は客室に近付きドアが開ける。外がほぼ無音のためか、扉の蝶番が軋む音がやけに大きく聞こえた。客室に目当ての物が無かったからか、足跡は直ぐに部屋を出て望の部屋の方に近づいてきた。


「どうする? こっちから声をかけるか、いない振りをするのか」


 ほとんど聞こえない小声で望は自分自身に問いかけた。もし外にいるのが人間なら直ぐに望の部屋が何かで塞がれているのに気が付くだろう。そうしたらどうなるのか。諦めて帰るのか。それとも中の物を奪うために無理やりドアをこじ開けるのか。


「今のうちに逃げるか? でもここは二階だ。落ちて足でも挫いたらゾンビからも逃げられない。ああ、くそっ、どうすればいいんだ」


 迷っている内に足音が望の部屋の前に辿り着いた。決心のつかなかった望は唇を噛みしめじっと息を殺す。部屋のノブがまわされ、ゆっくりと内側に向かって開かれた。しかしベッドフレームにぶつかり阻まれる。わずかに開いた隙間から新しい空気が部屋に流れ込み、望の汗ばんだ肌を撫でた。


 外にいる何かは何かが引っかかっていると思ったらしい。一度ドアを閉じると、先ほどよりも勢いをつけて再び開いた。ガツっという音が部屋の中に響き、強烈な衝撃がベッドフレームを揺らし、望の手から大粒の汗が床に落ちる。それでも本を詰め込んだ本棚とベッドフレームを組み合わせたバリケードはしっかりと役割を果たし、ドアは開かなかった。外にいる何かは三度目の挑戦はせず、諦めたのか一歩後ろに下がった。そして女の子の声がした。


「誰かいますか?」


 扉の外から抑揚の少ない声が聞こえた。妹の希美とは感じが違う。だが同年代の、中学生くらいの少女の声だ。


「希美、そこにいる?」


 外にいる誰かが妹の名前を呼んだ。


「私、音葉おとはだよ。希美、もしいるのなら返事をして」


 望は動くことも返事をすることもできなかった。声に敵意は無いように思えたし、声の主に心当たりもあった。妹の友達だ。だがゾンビが溢れている世界に少女が一人で家を訪ねてくる、そんなことがあり得るのだろうか。孤独が長すぎで幻聴を聞いているのかもしれない。そもそも一階には母親のゾンビがいる。安全に二階まで上がって来たということは母親ゾンビに襲われなかったということだ。ならば、人間ではないのかもしれない。


 ———喋るゾンビ、そんな考えが頭に浮かび望は息を飲み込んだ。


「誰もいないの? そう、当たり前だよね」


 外の少女は呟くような声でそう言うと、先ほどと同じ足音を立てながら部屋の前から離れていった。足音は階段を下り、やがて聞こえなくなる。

 それから一分ほど経って、ようやく望はベッドフレームを握っていた手を離すことができた。圧迫されていた手に血が巡り始めぴりっと痺れる。緊張が解けた途端、急に息苦しさを感じ何度も深呼吸をした。


「ゾンビじゃない、本当に? 希美の友達で、まだ近くにいる?」


 望は窓辺に移動しカーテンの隙間から外を窺った。道路に雪の様に積もった火山灰の上に、一直線に伸びる足跡があり、その先に人影があった。こちらに背を向けて、しっかりとした足取りで駅の方向に向かって歩いている。人影は小柄で、杖のようなものを手にし、リュックを背負いニット帽子を被っていた。遠目には生きている人間に見えた。やがて、その人影は住宅街の曲がり角に消えていった。


 人影が完全に曲がり角に消えるのを見届けた後、望はカーテンを元に戻し、マットレスの上に座り込んだ。


「奥山先生ところの音葉ちゃんだよな」


 それは望が小学生の頃通わされていたピアノ教室の娘の名前だった。希美と学年が同じだったので家に何度も遊びに来ており、一緒にゲームをしたこともあった。


「まだ生きてる人がいたんだ……。でも、どうしてあの子はゾンビに襲われていないんだ。もう外を歩いても大丈夫なのか? ゾンビはいなくなった??」


 望はもう一度カーテンの隙間から外を見た。住宅街の道には人影は一つもない。生きている人間も、ゾンビも、誰もいない。


「火山灰にゾンビウイルスが混ざってるってネットでは言っていたけど、もう感染力がなくなったのか。なら、もしかして……西山、あいつも、いや、落ち着け、落ち着け」


 もしウイルスが無害になっているのなら、もし中学三年生の女の子が一人で出歩けるくらい治安が回復しているのなら、西山も生きているかもしれない。可能性は低いがゼロではない。


「そうだよな。噴火が起きてからもう二週間だ。病気かウイルスが原因で死体が動いたとしてももうエネルギー切れを起こしているはず。なんでそれを思いつかなかったんだ!」


 望は部屋の隅に残った水と食料の山に目を向けた。残りは二日分。人間は水だけだと二週間、水がなければ五日程度で生命の危機に陥ると聞いたことがある。部屋に立て籠もっていてもいずれ餓死ししてしまう。だが、それはゾンビも同じはずだ。どんなウイルスに感染したにせよ、ベースは人間なのだから。二週間飲まず食わずで動けなくなっていても不思議では無い。あるいは、先ほど一階から聞こえてきた音は母親ゾンビが事切れて倒れた音かもしれない。そう考えれば音葉が安全に二階までこれたことも説明がつく。


「救助が来なければ、餓死するだけだ。なら、体力と食料が残っている内に行動すべきだ。もうゾンビなんていないはず。大丈夫。年下の音葉ちゃんだって一人で行動していたんだ。俺だってできる」


 とはいえ外が安全な保証はどこにもない。一階に下りればまだ動いている母親ゾンビに襲われるかもしれない。家の外に出られても他のゾンビがいるかもしれないし、あるいは火山灰に含まれるウイルスに侵されるかもしれない。世界が正常に戻った確証はどこにもなかった。

 迷いながらもう一度机の上の写真立てを見ると西山千明が変わらない笑顔を見せていた。


「……どうせいつか死ぬ。それなら、それなら会いに行こう。西山に。もう一度」


 生き残った人がいるなら助けてもらえばいい。もし日本中の人間がみんな死んでいるのなら、望自身も遅かれ早かれ死ぬことになる。ならばせめてもう一度恋人に会いたいと望は思った。もし生きていれば奇跡だし残念な結果でも恋人の隣で死ねばいい、そう考えた。


 決断した望は素早く行動した。まず部屋着を脱ぎ捨て、制服の冬服を身につける。他の服はこの二週間でかなり汚れてしまったが、部屋着としては使いにくいワイシャツや制服は綺麗なままだった。通学用のカバンに比較的奇麗な下着、残った水と食料、現金の入った財布、充電の切れたスマホと充電器、目覚まし時計、それから望が持っている唯一の身分証である生徒手帳を入れ、最後に西山から借りた本と生徒会の写真をフレームごと入れた。ささやかな武器としてハサミを制服のポケットに入れ、木刀を腰のベルトに差した。


 準備が整うと部屋の入り口を塞いでいるバリケードに手をかける。一週間以上、このバリケードが望と外の世界を隔てる防壁だった。音をたてないようにゆっくりと本棚とベッドフレームを移動させ、ドアが開く空間を確保する。


「よし。行くぞ」


 水中に飛び込むように、大きく息を吸い込んでから呼吸を止め、ドアノブに手をかけ少しずつ引いていく。蝶番が軋みながら扉が開いていき、ひんやりとした空気が部屋に流れ込んできた。ドアが完全に開く。久しぶりに見る廊下は妙に広く感じられた。望はゆっくりと一歩、部屋の外に踏み出した。

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[一言] 通学用カバンとか、主人公は馬鹿なの? リュックサックとか、もっとちゃんとした物を家中家捜しするとか、あと武器に成りそうな物は有るでしょ。
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