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8月25日 墜落現場(2)

=お詫び(展開変更)=

2020年4月18日(土)20:45に第39部 8月25日 墜落現場(1)の後半を書き直しました。

変更前は墜落現場には先客がいましたが、変更後は望達が第一発見者になっています。


変更部分の開始(第39部)

「望は林の近くに車を停め、丘の上の家から持ってきたジャケットを羽織ると車外に出た」から。


変更部分から1,500文字分ほど展開が変わっています。既に読んで下さった方には大変申し訳ないのですがこの第40部を読む前に第39部の後半から読み直していただけないでしょうか。よろしくお願いいたします。

 ゴルフコースの傾斜は緩やかだったが、本調子では無い音葉には少しきつかったらしく、次第にペースが落ちていった。望は音葉に合わせて斜面を登る速度を落としながらヘリコプターの周辺に注意を向けた。機体の部品らしいパイプや金属片、投げ出された座席の様な物、焦げた布、抉れた地面、周囲は混沌としている。進行方向に墜落の衝撃でヘリコプターから外れたらしいドアが落ちている。目を凝らしてみるとその残骸の奥に人影らしい物があった。


 「音葉、あそこに誰か倒れている」


 二人が足を止めると同時に、あるいは望の声に反応したのか、人影がむくりと起き上がった。


 「生存者?」

 「いえ、あの人はもう……」


 それはモスグリーンのミリタリージャケットを着た女性で、左腕が無く、半身が血で真っ赤に染まり、首はおかしな方向に曲がっていた。肌はまだ人間の色をしていたが、明らかに生きている様には見えない。


 「……ゾンビですね。ヘリコプターが墜落した時に外に投げ出されて、亡くなったんでしょう」 

 「事故で死んだのにゾンビに?」

 「噛まれた状態でヘリに乗っていたのかもしれません。……私は少し厳しいです。お願いできますか?」

 「任せて」


 望はナイフを抜くと二十代くらいの年齢に見えるジャケットの女性ゾンビの注意を引く為に腕を大きく振った。望を視認したゾンビはゆっくりと斜面を下り始める。その足取りは頼りなく、地面には火山灰が積もっており滑りやすくなっている。そりがあれば勢いよく滑れそうな状態だ。望はゾンビの腕がギリギリ届きそうな距離まで近づくと、あえて身体を近づける。ゾンビは望を掴もうと腕を出すが、望は素早く身を引く。ゾンビはさらに手を伸ばそうとして前のめりになり、そのまま斜面の灰に足を取られ、前に倒れ込んだ。それでも残った一本の腕で望を掴もうとする。


 「すみません」 


 望は謝罪しながら人間の血色が残っている腕を踏みつけジャケットの女性ゾンビの動きを止める。それから手にしたサバイバルナイフに体重を乗せゾンビのこめかみを突き刺した。分厚い金属の刃が頭蓋骨を打ち破り、脳を貫く。ゾンビは数秒間抵抗していたが、やがて足で押さえていた腕のばたつきが収まる。望はナイフを抜くと、ゾンビのジャケットの裾で刃を拭った。その女性がゾンビ化したばかりだったからか、サバイバルナイフには血と脳髄液、そしてゾンビ特有の白灰色の体液が混じった物が付着していた。


 「お疲れ様です」


 追いついた音葉がポケットからキッチンペーパーを出し、仰向けに倒れた死体の頭部を隠した。


 「鮮やかでしたよ。大分、戦い慣れましたね」

 「音葉のおかげだよ。ただ、ゾンビになったばかりの人を倒すのはちょっと心が痛む」

 「……この人も望に感謝していると思います。大丈夫です」


 二人は女性に手を合わせた後、斜面を上りヘリコプターの近くまで移動した。

 ヘリコプターは墜落の衝撃でひしゃげており、コクピットの窓ガラスはヒビで真っ白になっていた。本来は機体下部にあるはずの降着装置のタイヤが胴体にめり込んでおり、四枚あるローターは全て折れて、胴体後部は日の丸が描かれた辺りで大きく破損し骨組みが姿を見せていた。周囲にはゴムが焼けた様な匂いがしたが、燃料の匂いは強く無い。


 「爆発はしなさそうだな」

 「希望的な推測ですが、そうですね。エンジンっぽい部分の煙も消えかかっていますし」

 「中に人が残っていればいいんだけど……」


 全体的に、ヘリコプターは巨人に踏み潰された様な悲惨な状態だったが、胴体中央にあるキャビンは比較的まともな状態で残っていた。片側のドアが無くなっているお陰で、中に入らずともキャビンの様子を覗き込む事ができる。座席のほとんどは空席だったが、一箇所だけ人が座っていた。それは白髪の老人の様だったが、項垂れており顔は見えない。


 「座席に人がいます。おじいさんみたいです。まだ生きていればいいんですけど」

 「俺が入って調べてみるよ」

 「待ってください」


 ヘリコプターの中に入ろうとした望を音葉が止めた。


 「あの人がゾンビなら、あの狭い空間で戦う事になりますよ。まずはゾンビかどうか確かめましょう」

 「どうやって?」

 「ちょっと乱暴ですが、これを使います」


 音葉は地面に落ちていたボルトの様な金属部品を右手で拾うと、キャビンの中の老人に向けて投げた。部品は明後日の方向に飛んで行き、カツンと音を立てキャビンの床に落ちる。


 「やっぱりこの右腕では無理ですね。望、お願いします」

 「了解」


 望は適当な残骸を拾い上げると老人に向けて下手で放り投げた。放物線を描いて金属の板は回転しながら老人の脚にぶつかる。すると老人の頭が動いた。


 「生きてる⁉︎」

 「まだわかりません。ゾンビかもしれませんから気をつけて」


 老人がゆっくりと頭を上げる。額からは真っ赤な血が流れており、血の気は無いものの肌の色は人間だった。老人の黒い目が朦朧としながらも望と音葉の二人を捉える。


 「藤咲君?」


 老人が誰かの名前を呟く。


 「松田一尉? ……いや、君達は、誰かな」


 老人はシートから立ち上がろうとしたが、シートベルトで固定されており動くことができない。ベルトを解除しようとしていたが、まだ意識がはっきりしないらしくバックルにうまく手を掛けることができない。


 「手伝います。じっとしていてください」


 望はヘリコプターの中に入り込むと老人のシートベルトを外した。


 「ありがとう、少年。うぐっ」


 老人は立ち上がろうとしたが、その場に倒れた。望は慌てて手を差し出す。


 「大丈夫ですか?」

 「すまない……足を、やられたようだ」

 「一度外に出ましょう。そこで怪我を見せてください。歩けますか」

 「やってみよう」


 望は肩を貸したが、老人はほとんど歩けなかった。仕方なく、老人を床に座らせ、引きずりながらキャビンの外に出る。外にいた音葉が「こっちへ」と少し離れた位置にあるテールブームまで二人を誘導する。尻尾の様なテールブームはヘリコプターの胴体から千切れており、五メートルくらい離れた位置にあった。望がテールブームの残骸に寄り掛からせると、音葉が救急箱を開けて応急手当てを始める。まず額から流れる血と傷を清潔な水で洗い、消毒液をかけた後、傷口を絆創膏で塞ぐ。


 「この人、足を怪我しているみたいなんだ」

 「わかりました。ズボンを上げてください……かなり腫れていますね。捻挫しているのかもしれません。ピアノで突き指した時よりも酷い状態に見えます」


 老人がわずかに首を振る。


 「恐ろしく痛む。おそらく折れているのだろう」

 「そうなんですね。何かして欲しい事はありますか?」

 「今が今、どうにかなるものでもない。包帯と添木になる物を見つけてくれんかね。それと君達は二人だけか?」


 意識がはっきりとしてきたらしく、老人がしっかりとし口調で尋ねた。


 「そうです」

 「藤咲君、いや二十代の女性の姿を見なかったかね」

 「……申し訳ありません。さっきゾンビになっていた女性を倒しました。あそこにいる人がそうです」

 

 音葉は下の斜面に横たわる死体に目を向けた。女性の死を確認した老人は無念そうに唇を噛み締める。


 「なんという事だ。先に死ぬべきは私だったろうに……」

「おじいさん、亡くなられた方の事は残念です。でも教えてください。あなたはどこから来たんですか。ヘリコプターに乗ってどこに向かっていたのですか?」

 「すまんが、それは言えん」


 そう言って老人は顔を逸らした。


 「館山から来た自衛隊の方では無いんですね」


 音葉は一歩下り間合いを取る。望もいつでも臨戦態勢に入れるよう、腰の武器を目で確認した。館山の自衛隊でないならば、望達が知っている他の可能性は一つ。ターミナル駅で東京都の職員を殺した方の自衛隊だ。少なくとも、普通の生存者が身元を隠すとは思えなかった。


 「・・・・・・」


 老人は何も言わない。二人と目を合わせようとはせず、何かを考えているようだった。自分の足の怪我、亡くなった女性、墜落したヘリ、そして望と音葉。老人は状況を一つずつ確認していく。やがて、ある結論に達したのか、意を決して顔を上げた。


「……君達に頼みたい事がある。私を、」


 老人が言い終える前に、背後からエンジン音がした。振り向くと遠くから二台の車がこちらに向かって走って来ている。望と音葉は慌てて状況を確認する。二人が乗って来た車は林の向こうにあり、しかしそこへ行くには斜面を下りる必要がある。だが、新たに現れた車は既に斜面の下近くまで来ており、すれ違わなければ自分達の車までたどり着けない。


 「迂闊でした。後から来る人達の事を想定すべきでした」

 「今から逃げるか?」

 「一度、奥の林に逃げ込みましょう。相手は車ですから追って来れないはずです」

「この人は?」

「申し訳無いですが置いて行きます」


 望と音葉の二人はその場から離れようとしたが、突然銃声が響いた。二人に近い地面が爆ぜる。


 「お前達、そこから動くな」


 薄汚れた青いパーカーを着た男が車から身を乗り出し銃をこちらに向けていた。その銃は木製のストックに長い銃身を持った猟銃で望遠鏡のような大型のスコープが付いている。素人が見ても離れた距離からでも狙撃ができそうな銃だった。

 望が一歩、足を動かす。銃声が再び鳴り、足から三十センチほど離れた地面に着弾した。


 「次は当てるぞ!」


 パーカーの男は大声で叫ぶと猟銃のスコープを覗き込む。望はせめてもの抵抗で音葉の前に立った。近くの林までは数十メートルある。遮蔽物の無い空間で、全力疾走できない音葉が逃げ切る事は難しい。


「せめて私達の車を近くまで持ってくるべきでした」


足を止めた音葉が悔しそうに呟いた。


 「一応、銃はあるけど?」

 「相手の方が武器が大きいです。素直に指示に従いましょう。殺されは、しないと思います」

 

 音葉は望の身体に身を隠しながら自然な動作でオーバーサイズのジャケットの前を閉じた。

 二台の車が斜面の下で停車する。望達との距離は二十メートル程。逃げるには足りない。すぐに車の中から人が降りて来た。数は七人。いずれも男性だ。一台目からは先ほどの薄汚れた青いパーカーの男に加え、同じように銃身の長い猟銃のような物を持った男二人が降りてきた。ベストやハンティングキャップを身に付けており、ハンターの様に見える。二台目からは、四人が出て来た。まず体格のいい男と細身の男の二人が降りてくる。二人は警備会社の制服の様な紺色の服を着ており、手には黒い警棒を持っていた。さらに望と同じくらいの年齢の少年、そして白衣を着たメガネの男が姿を現す。その白衣は五倍濃度の漂白剤を使ったかのように病的に白かった。

 男は他の六人を伴ってヘリコプターの残骸の近くまで上がって来た。地面に座り込んでいる老人を見て眼鏡を持ち上げる。


 「これは、これは。大物ですね」


 白衣の男が芝居がかった動作で驚きを表現し、それから白衣のポケットから手帳を取り出すと老人の顔を見ながらパラパラとページをめくる。


 「やっぱりリストにある顔ですね。あなたは、越後三灯さんですね? 帝国大学の教授で日本史の権威。勲章をいくつも貰らっているんですね。すごい。流石、選ばれる人は違うなあ」

 「……」


 白衣の男の言葉に越後と呼ばれた老人は何も返さなかった。


 「どうして私が、あなたの名前を知っているか、不思議に思いませんか」

 「……」

 「私は日垣製薬の研究員でした、そう言えば少しは状況を納得していただけますか」

 「……」


 越後は何も答えなかった。だがその横で、望が驚いていた。思わず声を出しそうになり手で口を抑える。日垣製薬、それは望の父親が勤務していた会社だ。隣にいた音葉だけは望の様子に気がついていたが、白衣の男はただ倒れた老人に意識を向けており、他の二人にはさほど注意を払っていなかった。


 「黙りですか。まあそうでしょう。あなた方が外の世界の人間に身元を明かす事はしないでしょうから。でもあなたの存在だけで十分です」


 白衣の男は自分の仲間の方に向き直る。紺色の制服を着た二人の男は事情を知っているらしく特に驚いていない。だが銃を持った三人と高校生くらいの少年は明らかに戸惑いを見せていた。


「みなさん、これを見てください。これで私の説明が真実だと理解していただけましたよね」


 白衣の男は自分の仲間に手帳を見せた。そのページには人の顔写真が貼られており、銃を持った三人の男と少年は手帳と越後の顔を交互に確認していた。


 「確かにこの爺さんらしいが、それで本当にシェルターの存在が証明できるのか?」


 猟銃を持っている青いパーカーの男が疑問を呈した。


 「岡本さん、今の世界でヘリコプターを運用できる組織が残っていると思いますか?」

 「自衛隊は館山にもいるんだろ? 他にも生き残りがいても不思議じゃ無い」

 「もしこの老人が館山から来たのなら、身元を隠す必要は無いはずですよ。彼らはラジオを使って呼び掛けまでしていますから。それに、私が見せたリストにある人物が、偶然墜落したヘリコプターに乗っていたなんてあり得ると思いますか?」

 「確かに、そうだな……」


 岡本と呼ばれた猟銃の男はまだ何かを納得しかねているらしく、縋る様な目をヘリの残骸に寄りかかる老人に向けた。


 「政府は俺達を見捨てていたのか?」

 「その通りですよ」


 言葉を発しない越後に代わって白衣の男が答えた。


「この人達が国民を見捨て、自分達だけで安全な場所に逃げ隠れた裏切り者です。さて、私はこれから越後さんにいくつか質問があります。岡本さん達は彼らが逃げない様に銃で見張っていてください。宮道さん、吉敷さん?」


 名前を呼ばれ紺色の制服を着た二人が反応する。体格がいい男が宮道、細身の男が吉敷というらしい。望は、その二人の制服の肩に会社のロゴが貼られている事に気がついた。見覚えのあるそれは、望の父親が勤務していた日垣製薬の物だ。白衣の男と紺色の制服の男は同じ会社の社員らしい。その二人に白衣の男が指示を出す。


 「二人はヘリを調べて来てください」

 「へへっ、了解」


 吉敷と呼ばれた細身の男がニタニタと笑いながら鉄パイプを肩に担ぎヘリコプターへ向かった。宮道と呼ばれた体格の良い男もそれに続く。二人は望達の横を通り過ぎると、ヘリコプターの中に入って行った。

 白衣の男が越後とその隣にいる望と音葉にさらに近づく。


 「さて越後さん、質問です。あなた達が隠れているシェルターの場所を教えてくれませんか」

 「……」


 老人は無言を貫いていた。


 「まあ。話してくれませんよね」

 「おい爺さん、教えてくれ。あんたらは本当に俺達を、国民を見捨ててシェルターに隠れたのか?」


 猟銃を持った岡本が越後に向けながら叫ぶ。だが老人は何も語らない。岡本は白衣の男を指差しながらさらに質問を続けた。


 「この人は、屋宜やぎさんは、日本政府は全部知っていたと言ってる。富士山の噴火も、火山灰にゾンビウイルスが含まれている事も全部だ。それは本当なのか」

 「……」


 老人はやはり何も答えなかった。

 さらに詰め寄ろうとする岡本を屋宜と呼ばれた白衣の男が止めた。


 「岡本さん、この沈黙が答えですよ。この人達は全てを知っていて、自分達だけが助かるために国民を見殺しにしたんです。それが事実ですよ」

 「だとしたら許せない。俺の弟達はゾンビに殺された。役所に言われて火山灰の清掃をしている時にな。こうなる事がわかっていたなら外になんか出なかった! 噴火が起こると、ゾンビが出てくると教えてくれていれば弟達は死なずにすんだんだ」

 「その通りです。もし政府の警告があればもっと多くの人達が助かったんです。彼らはそれをしなかった。自分達の身の安全を守るので精一杯で。これは国民に対する卑怯な裏切りです」

 「クソがっ」


 吐き捨てる様に言い、岡本が猟銃を老人に向ける。


 「お前達のせいで俺の家族が死んだ! お前達のせいで!!」

 「そうだ! 俺だって親友をゾンビに殺された」


 ハンターらしい男達も怒りを露に銃を越後達に向ける。 激昂した岡本とその仲間は望と音葉も老人の仲間だと誤解しているようだ。彼らの銃口は越後、望、音葉の三人の間を揺れている。絶体絶命の危機だったが望はどこか楽観的だった。白衣の男性や二人の警備員らしい男が日垣製薬の社員なら、望の父の同僚だ。それに話を聞いている限り、自分と音葉は老人達に見捨てられた側だ。誤解さえ解ければ彼らと敵対する理由はない。


 「あの、すみません」


 取り返しがつかなくなる前に状況を変えようと望が声を上げた。


 「俺達にも銃が向けられていますけど、俺達はさっきここに来たばかりです。この人とは関係ありません」

 「ん、君達は越後さんの仲間ではないのかな? 確かに護衛にしては若すぎる様に見えるね」

 「俺達もただの生き残りです。ヘリが墜落するのが見えたので怪我人がいないか来ただけです」

 「そうか。それは立派だね。だがここまで歩いて来たのかな?」


 屋宜という白衣の男はまだ望達もヘリコプターに乗っていたのではと疑っている様だった。手帳を見直し、該当する人物がいないか確認している。


 「ふむ、確かに君達の顔写真はリストに無いな。本当に無関係なのかもしれないね。名前はなんと言うんだ」

 「冠木です。冠木望」

 「冠木だって!? ははははっ、悪い冗談だ。まさか冠木十三かぶらきいっさの関係者とか言うんじゃんないだろうね」


 白衣の男が突然笑い出す。望の隣で倒れている老人もまさかという表情をしている。望は噛み合わない何かを感じつつも父親の知り合いらしい屋宜が助けてくれると期待をしていた。


 「そうです。冠木十三は俺の父です。ご存知なんですか」

 「もし本気で言っているなら君の正気を疑うよ。冠木十三はしっかりとリストに載っている。しかも最重要人物としてだ。重要度はそこの越後さんよりも高い。その息子がシェルターと無関係なわけがあるまい」

 「なっ、父さんが、関係者?」

 「知らなかったのか? そんなはずは無いだろう。君が生き残っているのが何よりの証拠だ。ウイルスの致死率とゾンビ化率は合わせて九十パーセント以上。関係者が偶然生き延びるなどあり得ない。ワクチンを事前に接種でもしない限りね。名乗るなら偽名を使うべきだったな、少年」


 戸惑う望に隣にいる越後すら怪訝な目を向けている。岡本達やもう一人の少年は状況について行けず目を泳がせていた。誰もが戸惑う中、音葉はゾンビ化が止まった自分の右腕を見て独り納得していた。

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