幕間5 鷲宮安彦のメモ
富士山が噴火してから一週間。逃げ込んだホームセンターで大勢の生存者と共同生活をしている。既に引退した身ではあるが医師としての経験が役立つのは嬉しい。
このホームセンターは安全だ。水や食料は十分にある。本日、近所の薬局まで薬を取りに行った。その際、珍しいゾンビを見かけた。よくよく考えてみれば一言にゾンビと言っても多様な種類がいるようだ。今後のため、私が見たゾンビを分類してみる。名付けはグループにいた若者に手伝ってもらった。
・ゾンビ(アッシュマン)
火山灰を浴びた人間が高熱を発し、死亡後、ゾンビとして動き出す。原因はおそらく灰に含まれたウイルスなのだろうが手元に有る道具では調べようが無い。
動きは鈍く、冷静に対応できれば一対一でも危険は少ない。
昔、友人の大学教授が話していた妖怪に似ている。灰を被った人間が刀で斬られても、矢で射られても死なない妖怪になったという伝説だ。あるいは古くからある風土病なのかもしれない。
・スキンヘッド
ゾンビの中でも走ったり、跳んだり出来る個体がいる。その多くは頭髪が抜け落ちているため暫定的にスキンヘッドと名付けた。動きは速いが知性は低い。トラップに簡単に引っかかる。このゾンビに対応する時は最低でも二人で当たるべきだ。
レッドアイ
目が赤い事が特徴。スキンヘッド同様に動きの速いゾンビ。ただし、スキンヘッドの行動が一般のゾンビと変わらない事に対し、レッドアイは人並みの知性を持っているようだ。待ち伏せや奇襲を仕掛けて来ることがある。このゾンビを見かけた場合、五人以上で対応するか逃げ出すのが無難であろう。
・ウイスパー
多くのゾンビは意味のある言葉を発しないが、稀に日本語を話しているようなゾンビがいる。大抵は普通のゾンビで戦いになった場合の脅威はさほど大きくは無い。ただし、暗闇などで生存者と勘違いして近づいてしまう恐れがある。先日、大塚さん一家の次男、大塚悟君がウイスパーに引っ掛かり危うく噛まれるところだった事を思い出す。
日本語を話しているとはいえ、会話をするほどの知性は残っていない。呼びかけても答えがなければゾンビと判断すべきだ。
・スモーレスラー
一度、調達中に遭遇した。生前は力士だったのだろう。大柄な肉体に崩れた髷をしたゾンビだった。身長は二メートル半くらいの巨漢。そんな大きな力士は聞いた事が無いのでゾンビ化した後に巨大化したと思われる。車を易々と放り投げる怪力を持っていたが、ホームセンターにあったチェーンソーや電動ドリルを駆使する事で被害無く倒す事ができた。最も、犠牲者が出なかったのは警備員の吉野氏の機転あってこそだが。石器時代、石槍でマンモスを倒した祖先もこのように闘ったのだろう。
・リーダー
これも一度だけ、遠くから見たゾンビだ。一見すると普通のゾンビだが、他のゾンビを集める事ができるらしい。数十体のゾンビを集め、何処かへ向かって行った。明らかに知性があるような振る舞いをしており、こちらにも気づいていたようだが襲っては来なかった。一番不気味なゾンビだ。できれば、もう遭遇したく無い。
今後も新しいゾンビを見つけたら記録に残していこうと思う。
このホームセンターに避難して来た生存者四十三名、一人も欠ける事なく救助される事を願う。
八月十日
鷲宮安彦




