第9話 カフェの二人
苦無君に手を引かれ、落ち着いたカフェに入った私は、やっと自分が彼の手を握りしめているのに気づきました。
「ひゃっ!」
慌てて手を離します。
うう、私の手、汗まみれです。
苦無君の手に私の汗がついちゃったかも……。
「堀田さん、さあ、座って」
小柄な自分には高すぎるカウンター席を前に、私が戸惑っていいると、ふわりと身体が浮き、座席にぽふりとお尻が収まりました。
後から隣に座った苦無君の顔が見れません。
今、私、苦無君に持ち上げられたような?
こ、腰の辺りに彼の両手が触れたような気がします。
「あわわわ」
「まっ、かわいい子ね。
特にその髪型、とってもキュート。
苦無君の彼女?」
か、彼女!?
カウンターの向こうにいるマスターが、こちらにウインクしています。
でも、イケメンなのに、なんで女性っぽい言葉なんでしょうか?
「花さん、堀田さんをからかわないでね。
ボクは、いつものやつ。
はい、これ、メニュー」
苦無君が気を利かせて、開いたメニューを私の前に置いてくれましたが、読んでも文字が頭に入ってきません。
「あら、具合が悪そうね。
お水はいかが?」
マスターが、氷が浮かんだグラスを出してくれます。
「い、いららきまふ」
ゴクゴクゴク
あっという間に飲みほしてしいました。
自分では気づきませんでしたが、さっきまでのことで、とても喉が渇いていたみたいです。
「いい飲みっぷりねえ。
はい、これ」
カウンターの上に、パッとおしぼりが現われます。まるで魔法みたいですね。
おしぼりを袋から出した苦無君が、それで私の濡れた顎を拭いてくれます。
「あ、あり、ありらとう」
なんか顔が火照って熱いです。
なんでしょう、コレ?
とにかく、何か話さなくちゃ!
「わ、私も苦無君と同じものをお願いします!」
「はい、コーヒー、ブラックでね」
マスターがそんなことを言いました。
どうしよう!
私、コーヒー、飲めないんです。
だけど、苦無君がコーヒーのブラックって意外です。
カフェオレとか、ミルクティーのイメージですけど……。
「あ、そうだ!
さっきの方とはお知り合いなんですか?」
「さっきの方?
ああ、武田さんのこと?
あの人、姉さんの知り合いなんだ」
「お姉さんって、ひかるさんですよね」
「やっぱり堀田さんも、姉さんのこと知ってた?」
「それはもう知ってますよ!
美人でスタイルが好くて、性格もいいって有名です!」
「ま、まあ、性格はどうかと思うけど……」
「お姉さんは、どうして武田さんと?
あまりお近づきにならないようなタイプだと思うんですが……」
「うーん、家の外ではあまり姉さんの話はしないようにしてるんだけど。
幼稚園まで一緒に行ってくれたし、話しちゃおうかな」
「ぜひ!
ぜひ、お願いします!」
こうして、お姉さんのひかるさんについて、驚くべき話を聞くことになりました。