第71話 告白
「苦無君……」
うたた寝していたボクは、誰かの声で目を覚ました。
頬に当たるふわふわした感触は毛布だった。
ぱっと身を起こすと、上半身を起こした堀田さんの顔があった。
あれ?
ここどこ?
あ、保健室か!
堀田さんの横で、彼女の寝顔を見ているうちに眠っちゃったらしい。
「ありがとう」
そう言った堀田さんは、頬、耳、首筋、そして白いシャツから見える胸元まで、白い肌が桜色に染まっている。
少し熱があるのかもしれない。
「もう大丈夫?」
「平気。
……あのね、聞いてほしいことがあるの」
堀田さんの真剣な顔に、ボクは黙ってうなずいた。
「私、ホントは、『堀田』っていう名前じゃないの」
「……」
「伊能、それが私の名前」
イノウ、それはケイトのお兄さん、そして、ストーナンという青年から聞いたことのある名前だった。
「どうして……?」
「私の家は、古くから異能を持つ人にかかわる仕事をしているの。
父の命令で、あなたを見張ることになったんだ」
「どうしてボクを見張るの?」
「あなたが持つ【力】のせいなの」
「えっ!?
堀田さん、そのことを――」
「ええ、知ってたわ」
「……」
今まで築いてきたボクたちの関係が、ガラガラと音を立て崩れる気がした。。
「ケイトがあなたに近づいたのも、そのためだと思う」
そうか……堀田さんもケイトさんも、目的があってボクに近づいてきたのか。
それはそうかもね。
堀田さんやケイトさんみたいな美少女が、勉強もスポーツも苦手で、見た目もパッとしないボクに理由もなく近づいてくるはずないもんね。
「苦無君?」
堀田さんの心配そうな顔がボクに近づいてくる。
目の前にいる少女が全く見知らぬ誰かに見えた。
「え?
ああ、なんでもない」
「あの男も、あなたのことを狙ってると思う」
「ストーナン先生のこと?」
「ええ。
ケイトや私と同じように、彼も異能にかかわっているの。
彼の場合、むしろその分野の研究者と言ってもいいくらい」
「ふうん、そうなんだ」
「彼は危険よ。
気をつけた方がいいわ」
「……でも、ボクが持つ【力】に興味があるなら、君やケイトさんと同じだよね」
「……」
「君が先生をボクから遠ざけようとするのは、なにか違うような気がする」
「……」
「ストーナン先生は、今のところいい人には見えないけど、ボク自身の目で彼のことを見ていくつもりだから。
それに、彼って君の婚約者なんでしょ?」
「婚約者」という言葉を口にするとき、なぜか胸の奥がジリッと焦げたような気がした。
「……」
堀田さんは、なにかを我慢するように唇を噛んでいる。
「元気になったようだから、ボクはもう行くね」
後ろも見ずに保健室を後にする。
昼休みのチャイムが鳴っているが、食欲は全くない。
廊下の向こうからは、教室から出てきた生徒たちの笑い声が聞こえてきた。




