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第37話 苦無の挫折

 よーし! なんとかしてイギリスへ行ってやるぞ!

 意気ごんでみたものの、そんなに甘くはなかった。


 まず問題になったのが渡航費。

 安い航空券なら十万円もしないんだけど、その十万円が問題だよね。

 お年玉を貯めてきた、貯金全部合わせても足りない。


 こうなったらということで、アルバイトを探してみた。

 ありません。

 中学生を雇ってくれるところなんて。

 法律の問題もあるみたい。


 夏休みが終わるまでに行かなくちゃいのも問題だ。

 九月になって学校が始まったら、旅行なんて許されないだろう。

 だいたい、夏休みの間に航空券が取れたとしても、母さんが許してくれるだろうか?

 ボクだけの一人旅になるわけだから、難しいかもしれない。 

 でも、このままじっとしてても始まらない。

 まず、母さんの説得から始めてみよう。


 ◇


 朝食が終わり、父さん、ひかる姉さんの順に出ていくと、家の中にはボクと母さんだけになった。

 洗濯ものをベランダに干した母さんがリビングに戻ってきたところで声を掛けた。

  

「か、母さん、話があるんだけど……」


「なにを畏まってるの。

 変な子だねえ。

 話したいことがあれば、普通に話せばいいじゃない」


「それが、簡単なことじゃないんだ」


「ちょっと待って。

 お茶を入れたげるから、あんたは座ってなさい」


「う、うん……」


 母さんは、お客さんにだけ出す、高価な日本茶をいれてくれた。

 テーブルの向かいに座った母さんは、お茶をゆっくり味わうように飲んだ。


「で、話ってなんだい。

 堀田さんにおまえの赤ちゃんでもできたのかい?」


「えええっ!

 どうしてそんな話になるの!?」


「いや、孫の顔が見られるかと思ったんだけどね」


「ボクたち、まだ中学生だよ!

 そんなことするわけないじゃない!」


「だけど、今時の中学生は……」


「母さん、いつも読んでる雑誌で変な情報仕入れたでしょ!」


「ま、まあ、それはいいじゃないか。

 じゃあ、話したいことっていったいなんだい?」


「ケイトさんのことなんだ」


「ケイトさんに子供ができたのかい?」


「だ、だからその方向から離れて!

 ケイトさんがイギリスに帰っちゃったんだ」


「ケイトっていやあ、夏休み前に転向してきたってだろ?」


「うん、そうなんだけど……」


「来てすぐ帰るなんて、ホームシックにでもかかったのかい?」


「それが違うみたいなんだ。

 空港から電話がかかってきて、『助けて』なんて言われたんだ」


「ふーん、そりゃ、穏やかじゃないねえ。

 あんた、どうする気だい?」


「電話も通じなってるから、行ってみようと思うんだ」


「行くって、イギリスへかい?」


「うん」


「馬鹿なこと言うんじゃないよ!

 

「やっぱりダメかな?」


「いいわけないだろ!

 中学生が、一人でそんなところまで行けるわけないだろ!

 よく考えてからモノをお言い!」


 母さんは、自分のお茶をグイと飲みほすと、さっと立ちあがった。


「あたしゃ、少し出てくるからね!

 あんたは外に出るんじゃないよ!

 おとなしく留守番してな!」


 そう言いのこすと、母さんは慌ただしく部屋から出ていった。


「くそう!

 やっぱり無理かなあ」


 ボクはイギリス行きの計画を立てるより先に、大きな壁にぶつかってしまった。





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