表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/84

第33話 お見舞い(下)

 二十畳くらいありそうな広い部屋の奥に、天蓋つきのベッドがあり、その上にケイトがいた。

 左目に眼帯をつけ、頬にもガーゼを貼っている。

 上半身を起こしていた彼女は、手にしたものをさっと背中の後ろへ隠した。

 ちらりと見えたそれは、手鏡のようだった。


「ケイトさん、具合はどう?」


「もう、大丈夫ですわ!

 苦無君、来てくれてありがとう」


「えっ!?

 君がクナイ?」


 先ほどの女性が、なぜか驚いている。

 ボクの名前を知ってる?


「紹介するわ。

 彼女はローズ、私の姉さんです」


「あ、そうですか。

 切田苦無です。

 初めまして」


「初めまして……。

 まさか、クナイがこんなにキュートな少年だとはね」


 ローズさんの日本語は少しなまりがあったけど、かなり上手だった。

 

「あなたのことは、ケイトから聞いてるわ。

 いろいろ、お話を聞かせてちょうだい。

 ピョンちゃんもね」


 そう言いながら、彼女はベッド脇の小さなテーブルに置いてある黒いデバイスに触れた。

 一分と待たずメイド服を着た中年の白人女性が入ってくる。

 リアルメイドさん!

 

「テレサ、お茶の用意をしてちょうだい」


「はい、お嬢様」


 綺麗な日本語で答えたメイドさんは、一度部屋から出ていくと、すぐにワゴンを押して戻ってきた。

 彼女は、ベッド脇の小さなテーブルをどけると、そこへ四人用の丸いテーブルを移動し、椅子を三脚用意した。

 

「お座りください」


 メイドさんが、少しぎこちない日本語でそう言った。

 ローズさんとボクたちが席に着くと、あっというまにお茶と茶菓子が用意された。

 なんかプロの仕事って感じだなあ。

  

「まあ、メロンね。

 ケイトが大好きなの覚えてくれていたのね。

 ぴょんちゃんありがとう」


 ローズさんが、堀田さんに頭を下げる。


「た、たまたまですよ!

 そんなこと覚えてませんでした!」


 赤くなった堀田さんが、首を横に振っている。

 ぶんぶんって、音がしそうなんだけど。


「お見舞いありがとう」


 ベッドの方から小さな声がしたが、ケイトさんは、毛布を頭からかぶってしまった。


「まあまあ、この子は照れちゃって。

 素直じゃないわね」


 ローズさんがからかうように声をかけると、丸くなった毛布がぴくりと動いた。


「お医者様のお話では、頬の傷は痕が残らないだろうって」


 それを聞いて、堀田さんが大きく息を吐いた。

 やっぱり、ケイトさんのことが心配だったんだね。


「苦無君、お茶をいただいたら失礼しましょう。

 病人を疲れさせてもいけませんから」


「えーっ!

 ぴょんちゃん、まだいいじゃないの」


「私、これから苦無君と行くところがあるんです」


 え? そんな約束してたかな?


「くぅ、覚えてなさいよ、コケシ娘!」


 丸い毛布の塊から、そんな声が聞こえてきた。


「ケイト、あなた、お行儀が……まあ、そんなこと、あなたに言ってもしょうがないわね」


 ローズさんが、花柄のカップから口を離し、呆れたように言った。

 堀田さんは、残った紅茶を一息で飲みほすと、さっと立ちあがり、ボクの腕を引っぱった。

 この美味しい紅茶、まだ飲みたいのに……。


「ローズ姉さん、失礼します」


「ど、どうも。

 お大事に」


「ぴょんちゃ~ん――」


 堀田さんとボクは、ローズさんの声を背に、豪華な部屋を後にした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ