第29話 花火と肝試し(下)
神社から待ちあわせ場所の公園まで降りると、クラスメートたちのほとんどがすでに集まっているようだった。
そういえば佐藤君はいないようだが、いままで彼はこの手の集まりに顔を出さなかったから、それも当然だと思われた。
誰かの横を通るとき、その人が吐きすてるように言うのが聞こえた。
「このリア充が!」
堀田さんとケイトさん、二人を連れているせいだろうか。
だけど、その言葉はボクにはふさわしくないよね、絶対。
「はーい、ではここに集まってー!」
公園内をとり囲む道には、いくつか街灯が立っている。
それが照らす場所に、茶色い紙袋を手にした桃木さんが立っていた。
みんなが、がやがやとその周りに集まる。
「じゃ、この袋に数字を書いたクジが入ってるから。
男子と女子でペアになるようにしてるので、男子は男子の袋、女子は女子の袋からクジを引いて。
相手がいない人で、最後にペア決めをするから」
「おー!」
「いいね!」
「最高ー!」
なぜか男子だけ盛りあがっている。
「苦無君、何番だった?」
堀田さんが、小声で尋ねてきた。
「七だったよ。
堀田さんは?」
「わ、私は――」
「私、七でしたわ!」
背後から聞こえてきたのは、嬉しそうなケイトさんの声だった。
「あんた、なにかしたわね!」
堀田さんが、なぜか怒っている。
「ほほほ!
運《《だけ》》のクジでなにをしたと?
くだらない僻みはやめてくださいな!
それよりあなたは何番ですの?」
「……覚えてなさい!」
◇
同じ数字を引いたペアは手を繋いで境内まで歩くことになる。
神社への道は、先ほどボクらが使った階段と木立の中を通る道がある。
その道は、神社が建つ丘のふもとから、「6」の字を描くように境内まで続いている。
たかだか三百メートルほどしかないだろうけど、途中に街灯がないから、まっくらだ。
ペンライトで道を照らすことはできるが、大型のライトやスマホの使用は禁止だそうだ。
「ドキドキしますわ」
ケイトさんと二人、境内への坂道が始まる場所で待っていると、スマホのトークアプリに桃木さんから出発の合図が入った。
「じゃ、行こうか」
「はい!」
ケイトさんに声を掛ける。
ペア決めのとき引いたクジを賽銭箱の横に置かれた箱に入れ、石段を降りて再び公園に着けばゴールだそうだ。
「手を離さないでね」
「もちろんですわ」
ケイトさんの指は、ほっそりしていて長かった。
それが、ボクの指に絡みつく。
「え、ちょっと、その繋ぎ方は……」
これって「恋人繋ぎ」ってやつじゃないかな。
「これで、もう手が離れませんわ。
私、怖いのは苦手ですから、しっかりリードしてくださいな」
なんだ、それならまあいいかな。
ボクたち二人は、暗い坂道をゆっくり歩きだした。
◇
まだいくらも上がらないうちに、ケイトさんが足を停めた。
「な、なにか聞こえませんこと?」
さっきまで彼女の木下駄がカラコロ鳴っていたが、今は闇の中、遠くで電車の走る音がかすかに聞こえているくらいだ。
ココッ
確かに、後ろで何か音がする。
次のクラスメートが上がってきた音かもしれない。
ココッ
また音がした!
今度は近い、そう思った時、背中にトンと何かが触れた。
振りむいても、闇だけがあった。
ケイトさんとは左手を繋いでいるから、彼女じゃないのは確かだ。
「ひっ!」
ケイトさんが、悲鳴を上げる。
「な、なにか背中に触わりましたわ!」
ケイトさんも、同じ体験をしたらしい。
ココッ
どこからか聞こえるその音が、とても気になる。
ボクたちは二人で話しあって灯りをつけていなかったが、こうなればしょうがない。
スマホの電源を入れようとしたとき、暗闇の中に恨めしそうな白い生首が浮かびあがった。
「ギャーッ!」
ケイトさんが叫び声を上げ、ボクに抱きついた。




