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第24話 スパイダー オン アイスクリーム


 堀田さんとボクは、店舗の横に置かれた二人用のテーブルで、アイスをつついていた。

 チョコレート専門店だからか、チョコアイスは、今までに食べたことがない濃厚な味だった。

 値段がやけに高いと思ったけど、この味なら納得だね。 


「あ」


 堀田さんが急に目を丸くして、こちらを見ている。

 いや、視線はボクの頭の上みたい。

 どういうことだろう?


「あうあうあう」


 堀田さんがボクの頭を指さし、口をパクパクさせている。

 なにかの気配を感じて、髪の毛を手で払った。


 ポト


 頭の上から落ちてきた何かが、チョコアイスの上にのる。

 糸くず?

 最初そう思ったボクは、その考えが誤りだどすぐ気づいた。

 茶色の小さなそれが、もぞもぞ動いたからだ。


「えっ!?」


 それは親指の先くらいの小さな蜘蛛だった。

 

「く、蜘蛛?」


 小さな生きものは、こちらに向け、まるで指揮者のように二本の前足を動かした。

 

「こ、こんにちは、って言ってる?」


「も、もしかして、苦無君、蜘蛛の言葉が分かるんですか!?」


 堀田さんの視線が、アイスクリームのカップからボクへと上がる。


「いや、そんなことないよ。

 この蜘蛛、なんとなくそう言いたいのかって思っただけ」


 アイスクリームの頂上で、蜘蛛はまるで拍手をするように前足を打ちあわせている。

 そして、その足先についたアイスクリームを口に持っていくと、なんとそれを舐めはじめた。


「蜘蛛がアイスクリーム食べてる!」


 思わずそう叫んでしまったから、買い物客の視線がこちらを向いてしまった。

 すでに蜘蛛のものとなったチョコアイスのカップを手に乗せる。


「どこか他で食べようか」


 堀田さんは、まだそれほどアイスに手をつけていないからね。


「は、はい」


 怯えたようにカップを見ているから、彼女、蜘蛛が怖いんだね。

 よく考えると、女の子だから当たり前かな。 

 でも、この蜘蛛どうしよう。


 席を立ちかけたボクの横に人が立った。


「はあはあはあ、あんた、はあはあはあ、卑怯よ!」


 金髪を振りみだしたケイトが堀田さんを睨んでいた。

 汗びっしょりの彼女は、顔中に濡れた髪がからみついている。

 青いハーフジャケットがはだけていて、空色のシャツが汗で透け、白い下着が浮きあがっていた。

 思わず目をそらすと、なぜか咎めるような顔をした堀田さんがいた。


「もしかして、その蜘蛛、あんたの――」


 堀田さんがそう言いかけたとき、ケイトさんがボクの手からアイスのカップを奪いとった。


「えっ?」

 

「まあ、こんなところに蜘蛛が!

 これじゃあ、もう食べられませんわね」


 ケイトさんは、なぜかアイスのカップを背中に隠した。

  

「やっぱり!

 あんた、その蜘蛛で私たちのこと覗いてたんでしょ!」


「そ、そんなことするはずないじゃない!

 なんで、私がトム、いえ蜘蛛でそんなことするの?」


「ふーん、その蜘蛛、『トム』って言うんだ。

 あんた昔から式神に興味あったもんね」


「トム?

 その蜘蛛って名前がついてるの?」


 蜘蛛はケイトさんの肩に乗り、こちらへ前足を振っている。


「く、苦無君、それは誤解です!

 私は蜘蛛なんか知りません!」


「でも、ほら!」


 ボクがケイトさんの肩を指さすと、彼女はそこでダンスしている蜘蛛を見てがっくりうなだれた。


「ぷっ、蜘蛛女」


 堀田さんが小声で言うと、ケイトさんの顔がまっ赤になった。


「な、なんですって!

 このコケシ女!」


「なによ、蜘蛛!」


「コケシ!」


 ふと横を見ると、買い物客が僕たちをとり囲み、ギャラリーができていた。

 ボクは二人の手を取ると、その場を逃げだした。


「あわわわ!」

「苦無君!?」


 


 


  




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