第23話 四人の思惑
ボクの手を引っぱるように歩く堀田さんは、なんだか元気そうだった。
もう病院に連れていかなくてもいいね、きっと。
彼女に手を引かれ入ったのは、大きなショッピングモールビルだった。
中央に大きな吹きぬけのある空間は、おしゃれで開放的だった。
「ここ、映画館もあるんですよ」
美少女となった堀田さんが笑顔になると、なんだか胸の辺りがきゅっと締めつけられるような感じになる。
病院、ボクの方が必要かも。
胸に手を当ててみても痛みは感じない。
とりあえず大丈夫かな。
そのときボクは、まだその「症状」が何を意味するか理解していなかった。
◇
ケイトからひき離すため、苦無君を無理やり連れてきたけど、これからどうしよう。
あ、この店は……。
「苦無君、ここチョコレートの専門店なの。
アイスクリームや飲むチョコレートもあるけど、どうかな?」
「うん、いいね。
なんだか甘いものが欲しい気分だったんだ。
チョコレートのアイス食べようかな」
「じゃ、列に並ぼう!」
私は苦無君と、列の最後尾に並んだ。
お店は買いもの客でにぎわっていて、列は長く、なかなか進まなかった。
でも、二人こうやって並んでいるだけで私は幸せだった。
◇
「あれ?
あの二人がいない!?」
図書館の喫茶室に戻ると、アイツと苦無の姿が消えていた。
あのお人形娘、やってくれたわね!
見てなさいよ!
私はトイレに駆けこみ、バッグから携帯用の小型魔法杖をとり出すと、術式を展開した。
苦無にはトムをつけてるんだから!
どこに逃げても、あの子がきっと教えてくれる。
見ていなさい! 抜けがけしようとしたって、逃がさないんだから!
苦無につけておいた蜘蛛とはすぐに繋がった。かなり離れているわね。でも場所が分からないほどじゃない。
私はトイレから跳びだすと、階段を駆けおりた。
「ケイトさん!
どうしたの!?」
背後から誰かの声が聞こえたが、今はそれどころではない。
アイツを苦無と二人だけにしてはダメ!
冷房の効いた図書館から猛暑の外へ、私は駆けだした。
◇
「ケイトさん!
どうしたの!?」
階段を駆けおりたケイトさんを追い、階段のところまでいくと、彼女が図書館から外へ跳びだしていくのが見えた。
「ど、どうして?」
僕の足だと、今から追いかけてもきっと追いつけない。
よろよろと喫茶室に入った僕は、つい少し前に四人で座っていたテーブルに座った。
ケイトさんが座っていた椅子の背もたれを撫でる。
「ケイトさん、なぜ……」
スマホを開きトークアプリをクリックしようとしたが、僕の指はそこから動かなかった。
もし、ケイトさんに迷惑がられたら……。
ケイトさん、待ち合わせの時から、どこか上の空だった。
学校ではぎこちなかった日本語が、なぜか今日はぺらぺらだった。
そして、苦無君に対するあの態度。
僕に対する態度と明らかに違った。
もしかして、ケイトさん、苦無君のことが……。
いや、そんなはずはない!
自分がかっこいいとは思わないけど、苦無君だって色が白くてモヤシっぽいし……。
アイツ、勉強は普通だし、運動がすごくできるわけでもない。
そりゃ、僕よりは少しできるかもしれないけど。
とにかく、僕と苦無君にはそれほど違いはないはずだ!
ケイトさんからすすめられた英語の本を棚に戻し、僕は図書館を後にした。




