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9話 アラフォーおっさんと女子高生、ドロップアイテムとして異世界系配信者になる!

 翌朝、光は自分のスマートフォンを見つめて深いため息をついた。バッテリー残量が15%まで減っている。


「まずいな...」


 異世界に来てから約一週間。充電器は持参していたが、この世界にコンセントはない。【接続】スキルで日本との連絡は取れるものの、肝心のスマホが使えなくなっては元も子もない。


「どうしたの、コウ君?」


 厨房で朝食の準備をしていた御輿が、光の困った表情に気づいた。


「スマホの充電が切れそうなんだ。このままだと姉ちゃんとの連絡も取れなくなる」


「それは大変!」


 御輿も慌てた。母親との連絡ルートが断たれてしまう。


「何か電気を起こす方法はないかな...」


 光が考え込んでいると、ミラが首を傾げて言った。


「電気?雷?それならイルヴァちゃんの専門じゃない?」


「イルヴァさんの?」


「そう。【雷帝】って呼ばれてるくらいだから、雷の力を使えるの」


 これはグッドアイデアだと思い、光は早速イルヴァを探しに行った。訓練場でイルヴァを見つけると、彼女は一人で剣の素振りをしていた。


「イルヴァさん」


「ライト、オハヨウ」


 イルヴァが振り返る。彼女の言葉は片言だが、心がこもっている。


「お願いがあるんです。スマホの充電を手伝ってもらえませんか?」


「ジュウデン?」


 イルヴァが首を傾げる。光が充電器とスマホを見せて説明した。


 イルヴァが理解した。


「でも、私の【雷化】は強すぎる。近くの物、全部黒コゲになる」


 確かに、帝王級のスキルでは出力が強すぎるだろう。


「他に雷のスキルはありませんか?」


「アル、アル」


イルヴァが嬉しそうに言った。


「【ライトニングボルト】。これは弱い雷」


 ライトニングボルト。その名前を聞いた瞬間、光は何かを感じた。


「それ、光属性も含んでいませんか?」


「そう、雷と光の混じったスキルだよ」


 これだ!光属性が含まれているなら、自分の【ライト】スキルでトレースできるかもしれない。


「試してみてもいいでしょうか?」








 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








 訓練場の片隅で、光とイルヴァは充電実験を始めた。御輿とミラも興味深そうに見守っている。


「まず、私がやってみるね」


 イルヴァが手のひらに【ライトニングボルト】を発動した。小さな稲妻が手のひらで踊る。美しい光を伴った雷だった。


「綺麗...」


 御輿が見とれている。


 光はその稲妻をじっと観察した。確かに光属性の要素が含まれている。これなら【ライト】でトレースできそうだ。

【ライトニングボルト】に触れた【ライト】。その瞬間にコウの頭の中に【ライトニングボルト】の情報が大量に流れ込んでくる。


「今度は僕がやってみます」


 光が集中して【ライト】を発動。今まで単純な光しか出せなかったが、イルヴァのスキルを参考に稲妻の形を意識してみる。


 最初は普通の光しか出なかった。しかし、何度か試行錯誤するうちに、微弱な電流を伴った光を作り出すことができた。


「スゴイ!ライト、できた!」


 イルヴァが興奮した。


「でも、これだけじゃ電圧が足りないな...」


 光が充電器に接続してみたが、充電は始まらない。


「【ライト】をもっと重ねてみたらどう?」


 ミラが提案した。


 光は【ライト】を10個同時発動してみた。すると、充電器のランプが点灯した。


「やった!充電が始まった!」


 御輿が飛び跳ねて喜んだ。


「【ライト】10個で、大体100ボルトくらいかな」


 光が計算した。


「ライト、天才だね」


 イルヴァが拍手した。


 充電中、四人は談笑していた。


「イルヴァちゃんって、どこの出身なの?」


 ミラが聞いた。


「東の島国、雷が多い場所」


 イルヴァが答えた。


「だから雷のスキルが得意なんですね」


 光が納得した。


「そう、子供の頃から雷と一緒に遊んでた」


 イルヴァの故郷の話を聞きながら、充電は順調に進んだ。








 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








 フル充電になったスマホを確認すると、予想外の事態が判明した。着信履歴に大量の不在着信があったのだ。


「えっと...警察?」


 光の顔が青ざめた。着信履歴を見ると、地元の警察署からの電話が何度もかかってきていた。


「どうしたの?」


 御輿が心配そうに覗き込んだ。


「これは...まずいかもしれない」


 光は恐る恐る警察に電話をかけ直した。


『大泉光さんですね。至急、署まで出頭してください』


 電話の向こうから、厳しい声が聞こえてきた。


『牧野御輿さんの失踪事件について、お聞きしたいことがあります』


 光は冷や汗をかいた。確かに、現実世界では御輿は行方不明扱いになっているはずだ。そして、最後に一緒にいたのは光だった。


「ミコシさん...俺、誘拐犯の疑いをかけられてる」


 御輿の表情が青くなった。


「そんな...私たちは一緒に異世界に来ただけなのに」


「でも、向こうの世界では俺がミコシさんを拉致したように見えるんだろうな」


 光は頭を抱えた。出頭したくても、物理的に不可能だ。異世界にいるのだから。


「どうしよう...このままじゃコウ君が犯罪者になってしまう」


 御輿も焦っていた。


「どうしよう...帰って説明したくても、帰れないよ」


「警察に疑われてる?」


 イルヴァが心配そうに聞いた。


「そうなんです。でも、異世界にいるなんて説明しても信じてもらえない」


 その時、御輿の表情がパッと明るくなった。


「コウ君、いいアイデアがある!」


「え?」


「私がSNSで配信すればいいのよ」


 御輿が興奮気味に説明し始めた。


「ViewTubeで生配信して、私が元気でいることを証明するの。そして、ここが地球とは違う世界だということも見せる」


 光は一瞬、その発想に驚いた。確かに、御輿が元気に生きている姿を世界中に見せれば、誘拐の疑いは晴れるだろう。


「でも、ただ配信するだけじゃ、どこか分からない場所にいるだけにしか見えないんじゃ?」


「それよ!」


 御輿の目がキラキラと輝いた。


「私、【鳳凰】のスキルがあるでしょ?フェニックスに変身すれば、確実に地球じゃないことが証明できる」


 ミラが興奮した。


「それすごいアイデア!でも、ViewTubeって何?」


「世界で一番大きな動画配信サイトよ」


 御輿が説明した。


「私、実は結構フォロワーがいるの。日常系の配信をしてたから」


 光は感心した。御輿の機転の良さに改めて驚かされる。


「でも、本当に大丈夫?【鳳凰】の力を世界中に見せることになるよ」


「大丈夫。コウ君の疑いを晴らすためなら、何でもする」


 御輿の決意の強さに、光は胸が熱くなった。


「分かった。やってみよう」








 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








 準備は慎重に行われた。バシレウスギルドのメンバーにも事情を説明し、協力を得ることができた。


「本当にやるの?」


 光が確認した。


「大丈夫。これで誤解が解けるなら」


 御輿が決意を込めて答えた。


 ViewTubeの配信を開始すると、徐々に視聴者が集まってきた。最初は数人だったが、


「行方不明の女子高生がライブ配信中」


 という話題が拡散され、あっという間に千人を超えた。


「え、えーと...」


 御輿が緊張しながらカメラに向かった。


「皆さん、こんにちは。牧野御輿です」


 コメント欄が一気に荒れた。


『本物?偽物?』

『警察に連絡した方がいいんじゃない?』

『どこにいるの?』


「私は今、異世界にいます」


 御輿がはっきりと言った。


 当然のことながら、コメントは懐疑的なものばかりだった。


『は?異世界?』

『中二病?』

『誘拐犯に脅されてるんじゃない?』


「信じてもらうために、証拠をお見せします」


 御輿がカメラを回すと、バシレウスギルドの面々が映った。明らかに現代日本とは異なる衣装や建物に、視聴者たちがざわめいた。


「そして...これが決定的な証拠です」


 御輿が【鳳凰】のスキルを発動した。


 瞬間、彼女の身体が炎に包まれ、美しいフェニックスの姿に変化した。翼を広げ、優雅に宙を舞う姿は、まさに神話の世界から抜け出てきたかのようだった。


 配信を見ていた視聴者数が爆発的に増加した。同時視聴者数は瞬く間に10万人を超えた。


『これCGじゃないよね?』

『マジで鳥になった』

『異世界転生って本当にあるの?』


 コメント欄は完全に沸騰状態だった。


 フェニックスの姿から人間に戻った御輿が、再びカメラに向かって話した。


「私は大泉光さんと一緒に、交通事故に巻き込まれた時に異世界に転移しました。大泉さんは私を誘拐なんてしていません。むしろ、私を守ってくれている恩人です」


 光もカメラに向かって挨拶した。


「大泉光です。御輿さんと一緒に異世界で生活しています。皆さん、誤解を解いていただけると嬉しいです」


 配信はその後も続き、異世界の料理を作って見せたり、バシレウスギルドのメンバーたちが魔法を披露したりした。


 特にイルヴァの【ライトニングボルト】は大きな話題になった。


「でんきを だすよ」


 イルヴァが片言の日本語で説明しながら雷を発生させると、視聴者たちは大興奮だった。


『本物の魔法だ』

『科学で説明できない』

『世界が変わる』


 その日の夜、日本の複数のニュース番組で「異世界配信」の話題が取り上げられた。専門家たちは映像の真偽について激論を交わしたが、決定的な反証は見つからなかった。


 二人は屋上で話していた。


「今日の配信、すごい反響だったね」


「うん。でも、これで私たちの存在が世界に知られてしまった」


 御輿が少し複雑な表情を見せた。


「後悔してる?」


「ううん。コウ君の疑いを晴らせて良かった。それに...」


 御輿が微笑んだ。


「みんなに私たちが幸せにしていることを見せられて良かった」


 光も微笑み返した。異世界での生活は確実に彼らを変えていた。元の世界では考えられないような体験を通じて、お互いの絆も深まっていた。


「明日からまた、料理を頑張ろう」


「うん!今度は配信用の料理も作りましょう」


 二人は星空を見上げながら、新しい明日への期待を胸に秘めていた。


 翌日、警察から光のスマホに連絡がある。


『大泉さん、昨日の配信を確認しました。現在、事情を精査中です。とりあえず、参考人としての要請は保留させていただきます』


「やったね、コウ君」


御輿が嬉しそうに言う。


「ミコシさんのおかげです。よく思いついたね」


「でも、これで私たちは有名人になっちゃったかも」


 実際、ViewTubeの動画は数日で数百万回再生され、「異世界系配信者」として話題になったのだ。



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