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8話 アラフォーおっさんと女子高生、ドロップアイテムとして【アイテム鑑定】を受ける!

 翌朝、コウとミコシはバシレウスギルドの組織構造について詳しく教わった。ギルドは大きく三つの部門に分かれていることを知ったのである。


「まず攻略組」アレクサンデルが説明を始めた。


「俺、ペトロネッラ、ドーグラス、イルヴァ、セシーリア、ヴィダルが所属している。主にダンジョンの深層攻略を担当している」


「次に拠点組」


 セシーリアが続けた。


「ギルドハウスの管理や、新人冒険者の育成を担当しているの」


「そして兵站組。物資の調達や輸送、情報収集を担当している」


 ペトロネッラが資料を見ながら言った。


 光は興味深く聞いていた。自分と御輿はまだ正式にどの組に所属するか決まっていなかった。


「ところで」


 アレクサンデルが手を叩いた。


「拠点組のメンバーを紹介しよう。ミラ、こっちに来てくれ」


 扉の向こうから現れたのは、ショートカットの少女だった。年齢は御輿と同じくらいに見えるが、どこか中性的な魅力を持っている。


「初めまして、ボクはミラ」


 少女は元気よく手を上げた。


「よろしくお願いします!」


 光は少し驚いた。可愛らしい外見の女の子なのに、一人称が「ボク」なのだ。


「ミラは【アイテム鑑定】のスキル持ちでな」


 ドーグラスが説明した。


「拠点組のリーダー的存在じゃ」


「そして今まで、ギルドの食事担当もしてたのよ」


 セシーリアが苦笑いした。


「彼女の料理も...まぁ、普通だったけど」


 ミラは恥ずかしそうに頭をかいた。


「ボクの料理、あまり美味しくなくて...でも昨日から、すっごく美味しい匂いがしてて!」


 ミラの目がキラキラと輝いている。








 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








 その日の午後、ペトロネッラがミラを研究室に呼び出した。イルヴァも同席している。


「ミラ、君に頼みがある」


 ペトロネッラが真剣な表情で言った。


「ライトと御輿を【アイテム鑑定】してもらえないだろうか?」


「え?人間を鑑定するの?」ミラは困惑した。


「実は、私の【生物鑑定】では、二人を鑑定することができなかった」


 ペトロネッラが資料を見せながら説明した。


「彼らは通常の生物ではない可能性がある」


「つまり...ドロップアイテムとして扱えば、鑑定できるかもしれないということね」


イルヴァが補足した。


「でも、人をドロップアイテム扱いするなんて...」


 ミラは躊躇した。


「大丈夫だ。二人には説明済みだ。むしろ、彼ら自身が真実を知りたがっている」


 アレクサンデルの声が聞こえ、光と御輿も研究室に入ってきた。


「ライト、御輿、準備はいいか?」


「はい。正直、俺たちも自分たちが何なのか知りたいんです」


 光が答えた。


「私も...この力が何なのか、ちゃんと理解したい」


 御輿も頷いた。


 ミラは意を決して【アイテム鑑定】のスキルを発動した。淡い光が光と御輿を包む。


 しばらくして、ミラの表情が驚愕に変わる。


「これは...信じられない」


「何が分かった?」


 ペトロネッラが身を乗り出す。


「ライトの鑑定結果は...『ドロップ率アップ』『不老』『接続』の三つの特性がある」


 一同がざわめいた。


「そして、御輿の鑑定結果は『ドロップ率アップ』『再生』の二つ」


「ドロップ率アップ?」


 光が困惑する。


「それは、モンスターを倒した時にアイテムが出やすくなる特性よ」


 イルヴァが説明した。


「再生...怪我が治るってこと?」


 御輿が震え声で言った。


「文字通り、そういう事だろう」


 ペトロネッラが答えた。


「そして『接続』は...恐らく他の世界との繋がりを意味している」


「『再生』は、怪我や病気が治りやすくなる特性ね」


 光は頭の中で、異世界に飛ばされる直前のことを思い返す。


『もう少し若い肉体があったら...誰かと繋がってみたかった...』


 確かに、そんなことを考えていた。ブラック企業で疲れ果てた体、孤独な毎日。もっと若くて健康な体で、人との繋がりを求めていた。


 御輿も同じように思い出してみる。


『怪我なんてしない身体だったら...』


 電車に引かれる直前に足をくじいて動けなくなった悔しさ。もし怪我をしない体だったら、もっと色々なことに挑戦できたのに。


「まさか...」


 ペトロネッラが呟いた。


「二人の体は、それぞれの願望が具現化したドロップアイテム...?」








 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※









 鑑定結果に衝撃を受けたミラは、気分転換のように光に声をかけた。


「ライト...お願いがあるんだ」


「何?」


「ボクに、料理を教えてくれないかな?」


 ミラの目はキラキラと輝いていた。今まで味気ない食事しか作れなかった彼女にとって、光の料理は革命的だった。


「もちろんいいよ。でも、俺も大したことないから...」


「そんなことない!ライトの料理はすごいよ」


 その時、御輿が割って入ってきた。


「私も!私も料理を教えて!」


 御輿の声には、何故か焦りが混じっていた。ミラが光に懐いているのを見て、じっとしていられなくなったのだ。


「ミコシさんも?もちろんいいけど...」


 光は少し困惑した。御輿は今まで料理に興味を示したことがなかったからだ。


「うん!私も覚えたい!」


 こうして、光による料理教室が始まることになった。


 まず、光は姉の香織に電話をかけた。


「姉ちゃん、今度は肉を送ってもらえる?」


「肉?今度は何を作るつもりよ?」


「豚汁を作りたいんだ。バシレウスのメンバー全員分作りたいから、豚肉を10キロくらい」


「10キロ!?光、それ結構高いわよ。分かったわ。でもお金はちゃんと払ってよね」


「もちろん。俺の貯金から引き落としてくれ」


 光は自分の銀行口座から香織の口座に料理代金を振り込んだ。異世界にいても日本の銀行システムが使えるのは、【接続】スキルのおかげかもしれない。


 翌日、香織から豚肉が転送されてきた。真空パックされた新鮮な豚肉は、この世界では手に入らない上質なものだった。








 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








 厨房には光、御輿、ミラの三人が集まっていた。


「まず、豚肉を切るところからだね」


 光が包丁を手に取った。


「ボクにもやらせて」


 ミラが前に出る。


「私も!」


 御輿も負けじと声を上げた。


 光は苦笑いしながら、二人に包丁の使い方を教え始めた。


「包丁は、こう持って...指を丸めて、ネコの手みたいにして野菜を押さえるんだ」


 ミラは器用に包丁を扱った。今まで食事担当をしていただけあって、基本的な技術は身についていた。


 一方、御輿は苦戦していた。


「うーん...なかなか上手く切れない」


「大丈夫、最初はそんなものだよ」


 光が優しく指導した。


「ほら、こうやって...」


 光が御輿の後ろに回り、手を重ねて包丁の使い方を教える。御輿の頬が赤くなった。


「あ...ありがとう、コウ君」


 ミラはその様子を見て、少し複雑な表情を浮かべた。


「次は野菜を切ろう。大根、人参、ごぼう...」


 三人で分担して野菜を切っていく。厨房は和やかな雰囲気に包まれていた。


「ライト、この世界に来て良かったって思う?」


 ミラが突然聞いた。


「えっと...複雑だね」


 光は手を止めずに答えた。


「元の世界も恋しいけど、ここでみんなと出会えて良かったとも思う」


「ボクは...」


 ミラが小さく呟いた。


「ライトに出会えて良かった」


 御輿がピクッと反応した。


「私もコウ君に出会えて良かった!一番最初に出会ったのは私だもん!」


「そうだけど...でも、ボクの方が料理上手になるもん」


 ミラが対抗心を燃やした。


「え?何それ、勝負?」


 御輿も負けていない。


「うわー...なんか大変なことになってきた」


 光が困った顔をした。


 しかし、その表情は満更でもなさそうだった。元の世界では味わえなかった、こんな賑やかな時間。これも異世界に来たからこそ得られた宝物かもしれない。


「よし、だしを取ろう」


 光が鍋に水を入れ、昆布を入れた。


「豚汁のコツは、だしをしっかり取ることなんだ」


「ほうほう」


 ミラがメモを取り始めた。


「私も覚える!」


 御輿も真剣に見つめていた。


 豚肉を炒め、野菜を加え、だしで煮込んでいく。最後に味噌を溶き入れる。厨房に豚汁の香りが立ち込めていく。


「うわー、いい匂い!」


 ミラが目を輝かせる。


「本当!すごく美味しそう」


 御輿も感動していた。


「よし、完成だ。みんなで食べよう」


 三人で作った豚汁は、バシレウスのメンバー全員分が出来上がっていた。食堂に運んで、皆で味わう。


「これは...!」


 アレクサンデルが感動の声を上げる。


「肉の旨味が野菜に染み込んで...」


 ペトロネッラも絶賛した。


「ライトの料理は毎回進化してるな」


 ドーグラスが満足そうに言う。


 光は三人で作った豚汁を見つめながら思った。自分がドロップアイテムだったとしても、ここで得られた経験や絆は本物だ。


 御輿とミラも同じような気持ちだった。料理を通じて、新しい関係性が生まれている。


「ライト」


 ミラが控えめに言った。


「また料理、教えて」


「私も!」


 御輿が元気よく声を上げた。


「もちろん。いつでもどうぞ」


 光は微笑んだ。異世界での生活は、予想以上に充実したものになりそうだった。


 その夜、光と御輿は屋上で話していた。


「今日は楽しかった」


 御輿が微笑んだ。


「俺も。料理を通じて、みんなと繋がれるのが嬉しいよ」


「ねえ、コウ君」


 御輿が振り返った。


「私たち、ドロップアイテムなんだよね」


「みたいだね。でも、それでも俺たちは俺たちだ」


 光の言葉に、御輿は安心したような表情を見せた。


「そうだね。どんな形であれ、私たちはここにいる」


 二人は夜空を見上げた。異世界の星座は見慣れないものだったが、それでも美しく輝いていた。


 ドロップアイテムとしての正体が明かされ、料理教室も始まった。光と御輿の異世界生活は、新たな局面を迎えていた。


 料理という共通の趣味を通じて、2人の絆は深まっていく。そして光の【接続】能力は、単に元の世界と繋がるだけでなく、人と人を繋ぐ力でもあるのかもしれない。


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