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6話 アラフォーおっさんと女子高生、ドロップアイテムとして帝王級に登録される!

 

 56階層から50階層への道のりは、通常であれば2日はかかる危険な道程だった。しかし、御輿の【鳳凰】スキルが全てを変えた。


「行くよ、みんな!」


 御輿の声と共に、彼女の身体が燃えるような光に包まれる。3メートルの翼を広げた美しい鳳凰が現れると、ダンジョンの薄暗い通路が神々しい光で照らされた。


「フォニックス・フレア!」


 鳳凰となった御輿から放たれた炎の嵐が、通路に潜んでいたゴブリンたちを一瞬で灰に変えた。その威力は【ファイアーストーム】の比ではない。


「うわぁ...すげぇ」


 光は呆然と呟いた。昨日までの御輿とはまるで別人のような圧倒的な戦闘力だった。


「さすが帝王級のスキル...これほどとは」


 ペトロネッラも驚嘆の声を漏らした。


 道中に現れるモンスターたちは、ことごとく御輿の炎に焼き尽くされていく。オークの群れも、スケルトンナイトも、巨大なマンティコアですら、鳳凰の前では無力だった。


「ミコシさん、強すぎるよ...」


 光は複雑な思いで鳳凰を見上げていた。彼女の成長スピードは異常ともいえるものだった。自分との差はますます開いていく一方で、それが嬉しくもあり、寂しくもあった。


「コウ君、大丈夫?」


 人間の姿に戻った御輿が心配そうに声をかけてくる。


「あぁ、大丈夫。すごいじゃないか、本当に」


 光は精一杯の笑顔を作った。しかし、その笑顔の裏で彼が感じていた劣等感を、御輿は敏感に察知していた。


「私...強くなりすぎちゃったかな?」


「そんなことないよ。強いのはいいことじゃないか」


 光の答えに、御輿の表情が少し曇った。









 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








 50階層に到着すると、ペトロネッラが光のスキルについて詳しい説明を始めた。


「ここまでの調査の結果だ。君のスキルは【光属性模倣】とでも呼ぶべきものだ」


「光属性模倣...ですか?」


「そうだ。君は光属性に分類されるスキルのみをトレースできる。セシーリアの【ヒール】や【聖域】がトレースできたのはそのためだ」


 なるほど、と光は納得した。だから御輿の【ファイアーストーム】はコピーできなかったのか。


「そして、君の現在の能力は【ライト】を10個まで同時発動、それらを統合し拳大の光球を作ることが限界だ。単体の【ライト】は蝋燭程度の明るさと大きさだな」


 ペトロネッラが資料を見ながら続ける。


「興味深いことに、君は魔法陣までトレースできる可能性がある」


「魔法陣を?」


「試してみろ。この転移魔法陣を」


 光は50階層の転移魔法陣を見つめた。床に刻まれた複雑な紋様が、薄っすらと光を放っている。確かに光属性の魔法のようだった。


「ライト...」


 光が集中すると、10個の光の玉が現れ、ゆっくりと転移魔法陣の形を模倣し始めた。もちろんサイズは遥かに小さく、機能も限定的だったが、形状はほぼ完璧に再現されていた。


「驚異的だ...」


 アレクサンデルが息を呑んだ。


「魔法陣をコピーできる冒険者など聞いたことがない」


 しかし、光の心境は複雑だった。確かに珍しい能力かもしれないが、御輿の圧倒的な戦闘力と比べると、どうしても見劣りしてしまう。


「転移!」


 アレクサンデルの号令で、バシレウスの面々は転移魔法陣に足を踏み入れた。眩い光に包まれ、一瞬で地上へと移動する。









 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








 地上に出ると、そこは見慣れた街の風景が広がっていた。しかし、光と御輿にとっては初めて見る異世界の街並みだった。


「まずは君たちを冒険者ギルドに登録しよう」


 アレクサンデルの案内で、一行はギルドへ向かった。巨大な石造りの建物は、まさに冒険者の拠点という雰囲気を醸し出している。


 ギルド内部は活気に満ちていた。筋骨隆々の戦士、ローブを纏った魔法使い、軽装の盗賊など、様々な冒険者たちが行き交っている。


「受付はこちらです」


 美人の受付嬢が案内してくれた。まずは御輿の番だった。


「お名前をお聞かせください」


御輿みこし 牧野まきのです」


「保有スキルは?」


「【ファイアーストーム】と【鳳凰】です」


 受付嬢の表情が変わった。


「【鳳凰】...帝王級スキルですね。では、称号は『鳳凰帝』とさせていただきます」


「称号...?」


 御輿は戸惑った。しかし、周囲からどよめきが起こっている。帝王級スキル保持者の登場に、ギルド内がざわついていた。


 次は光の番だった。


「お名前を...」


「光...」


 その時だった。ヴィダルが横から口を挟んできたのは。


「おい、ちょっと待て!」


 ヴィダルが、なぜかニヤニヤしながら近づいてくる。


「コウのフルネームは『アブノーマル・ライト』だぜ?」


「え?」


 光は困惑した。


「そうそう、それにコイツの称号は『童貞』...もとい『童帝』が相応しいな」


「ちょっと待てよ!なんで俺が...」


 光の抗議も虚しく、受付嬢は淡々と手続きを進めてしまう。


「アブノーマル・ライト様、『童帝』で登録させていただきました」


「うわああああ!」


 光の絶叫がギルド内に響き渡った。周囲の冒険者たちがクスクスと笑い声を漏らしている。


「バシレウスに帝王級が2人も増えたのか...」


「4人の帝王級を抱えるギルドになったな」


「狂帝、雷帝、鳳凰帝、童帝...すげぇメンツだ」


 ギルド内がざわめいている。どうやらバシレウスには既に『狂帝』アレクサンデルと『雷帝』イルヴァがいたらしい。


「童帝って何だよ...」


 光は頭を抱えた。


「まぁまぁ、帝王級は帝王級よ」


 御輿が慰めるように言ったが、光の屈辱感は深まるばかりだった。









 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








 登録を終えると、アレクサンデルはギルドハウスへと案内してくれた。立派な外観の建物で、バシレウスの拠点らしい威厳を感じさせる。


「ここが我々の本拠地だ。君たちの部屋も用意してある」


 中に入ると、意外にも質素な内装だった。機能性を重視した作りで、装飾的な要素はほとんどない。


「夕食の時間だ。食堂へ行こう」


 食堂に案内されると、そこにはバシレウスのメンバーたちが集まっていた。テーブルの上には、質素な食事が並んでいる。


 薄い塩味のスープには、くず肉と根菜類が申し訳程度に浮いている。メインは硬そうな黒パンが一切れずつ。それだけだった。


「これが...夕食ですか?」


 光は愕然とした。料理が趣味だった彼にとって、この粗末な食事は衝撃的だった。


「冒険者の食事なんてこんなものよ」


 セシーリアが肩をすくめた。


「栄養が取れればそれでいいのです」


「でも...」


 光はスープを一口飲んでみた。塩気が薄く、肉の臭みも残っている。野菜も煮崩れて食感が悪い。


「うーん...」


 御輿も困ったような表情をしていた。


「ミコシさんも思うよね?これ、もうちょっと何とかならないかな...」


「うん...でも、贅沢は言えないよね」


 光は心の中で決意した。


『この食生活、絶対に改善してやる』


 料理好きの彼にとって、これは見過ごせない問題だった。異世界に来て、強さでは御輿に劣るかもしれないが、料理なら負けない自信がある。


「あの...」


 光は恐る恐る口を開いた。


「俺、料理得意なんですけど...もし良かったら、明日から食事作らせてもらえませんか?」


「料理?」アレクサンデルが興味深そうに見た。


「はい。元の世界では、けっこう本格的にやってたんです」


「面白いな。試しにやってみてくれ」


 こうして、光の新たな挑戦が始まった。戦闘では御輿に及ばなくても、料理でバシレウスに貢献できるかもしれない。


 その夜、光と御輿は隣り合った部屋に案内された。


「コウ君」


 壁越しに御輿の声が聞こえてくる。


「何?」


「今日はお疲れ様。童帝...クスッ」


「笑うなよ!」


「でも、コウ君らしいかも」


「どういう意味だよ...」


 しかし、光の口調に怒りはなかった。むしろ、久しぶりに楽しい気分になっていた。


『そうか...俺には料理がある』


 戦闘力では御輿に遠く及ばないかもしれない。でも、彼女にできなくて自分にできることもある。それに気づけただけでも、今日は良い日だったのかもしれない。


 一方、御輿は自分の部屋で一人考え込んでいた。


『私、強くなりすぎちゃったかな...』


 コウが距離を感じているのを薄々察知していた彼女は、これからの関係性に不安を抱いていた。しかし、彼が料理で活躍しようとする姿を見て、少し安心した。


『コウ君はコウ君の道があるんだよね』


 かくして、『鳳凰帝』牧野 御輿と『童帝』アブノーマル・ライトの新たな冒険が、本格的に始まろうとしていた。バシレウスギルドを舞台に、二人はそれぞれの道で成長していくことになる。


 戦闘以外の場面でも、きっと様々なドラマが待ち受けているだろう。特に、光の料理の腕前がバシレウスにどのような変化をもたらすのか、それは次の物語で明らかになることだろう。

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