4話 アラフォーおっさんと女子高生、ドロップアイテムとして生き残る!
バシレウスの面々が、戦闘のただ中にいる時でも、何かを感じずにはいられなかった。彼らが共にモンスターを次々と殲滅していく中、コウは内側で芽生えた奇妙な感覚に戸惑い、その感覚に注意を払っていた。
コウの視界の端に映るのは、輝くセシーリアの姿。彼女の『聖域』が放つ光、そのまばゆい光に触れるたび、コウの心に一種の共鳴が生じる。
その共鳴は、まるで彼自身のスキル「ライト」との交錯を引き起こしているかのようだった。
コウは心中で問いかける。
『この感覚はなんだろう? まるでセシーリアさんのスキルが、自分の『ライト』のスキルと適応していくような…』
セシーリアの『聖域』に触れた『ライト』が奇妙に同調し、光の玉からの情報が頭のなかを駆け巡るのだった。
モンスターを殲滅していく戦闘の合間、コウはセシーリアの『聖域』に触れるたびに、新たな力の存在を確信していった。今まで感じたことのない不思議な感覚が、彼の中で膨らんでいく。
戦闘が進む合間にも、その感覚はコウの頭と心から離れなかった。さらに驚いたことに、セシーリアの『聖域』に触れる度、コウは何かしらの変化を感じることができたのだ。彼は確信した。その感覚は、彼のスキルに何らかの影響を与えている、と。
その影響は反響し、コウの内面で静かに育ち始める。まるで彼自身の「ライト」がセシーリアの技に呼応し、彼の意識を癒し、そして新たな方向へ導いているかのようだった。コウはこの新たな力を無視することはできず、ついに一つの静かな決意へと至った。
戦闘中にもかかわらず、コウは思い切ってこの感覚を試しにかかることにした。敵を前にしながらも、この新たな力を試さずにはいられないという衝動に駆られていた。そして彼は、胸の奥で静かに渦巻いているものを形にしようと、心を研ぎ澄ませる。
「聖域…」
彼は慎重に唱える。心の中を駆け巡る感覚は手放さず、記憶の鮮明さを保っておきたい。この呼びかけが終わった瞬間、驚くべき変化が彼の手の中で起きた――小さな光の玉が形を変え、セシーリアのスキルを模倣するかのように光の盾が形成されたのだ。
まぁ、サイズはロウソクの炎と同じくらいの大きさだが…
「で、できたー!?」
コウは自分自身の力量に驚愕しつつも、その声を上げた。
「ん? 何ができたの? ライト?」
近くにいたイルヴァが、不思議そうに彼を見つめて尋ねてきた。コウは彼女にどう説明すべきか悩んだが、コミュ障の彼は、口から出たものを取り繕うのに必死だった。
「た、たまが… たまたま、えっと…伸びて…」
流石、オッサン、コミュ障はこれだから困るのだ。
彼は明らかに焦っていた。すると、可笑しそうに見ていたシスター・セシーリアは、からかうように彼に声をかける。
「玉がなんですって? ライトまさか、子供でも作る行為でもしてたのですの? また調教もとい、お祓いの出番ですの?」
イルヴァとセシーリアに詰められるコウは、1人物思いにふけるのだった。
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コウは不思議な、感覚に陥っていく。自分のスキルが変化、いや、変形、いや… 変態したのだ!
それは奇妙で、少し気味の悪いものだったが、確かに彼の中で何かが変態したのだった。今まで『ライト』として彼の手元にあった光の玉が、突然「聖域」へとその形を変えてしまったのだ。先程まで、『ライト』だった物が『聖域』になってしまったのだが、元々の『ライト』はどうなってしまったのか?
おっさんは好奇心を抑えることができず、更なる試行を試みることにした
今はまだ戦闘中だというのに…
「ら、ライト!」
と彼の叫びと共に、彼の目の前には再び光の玉が浮かびあがってきた。彼の心とスキルが見事にリンクし、更なる数の試みが始まる。
「ライト」「ライト」「ライト」……。
心を集中させ何度も唱えるおっさんの前には、光の玉は次々に浮かび上がり、その数は限界に到達した。どうやら1度に出せる『ライト』の数は10個が限界の様だ。これを機に、光の玉をもう一度変形させ、『聖域』を実現しようと試みた。その結果、彼のスキル『ライト』はソフトボール大の聖なる光の盾に変わったのだった。
「お、おぉ〜 できちゃったよ!?」
と自発的に発せられたコウの歓声が、その場の静寂を破った。
「何ができたんですの? 子供? 童貞卒ですの!? 調教決定!!」
シスター・セシーリアが冗談交じりに腕を組み、仕置きのためか、それとも単なる茶化しとしてか、魔力の籠った鞭を振り上げた。この何気ない行動が、ちょうどソフトボール大に変態した光の盾『聖域』が防護領域へと滑り込み、鞭の攻撃をスパーンと弾き返してしまった。
「な、な、なんですの~!? ライトのくせに生意気ですわ! さぁっ! 早く調教させなさいな!」
この一連の出来事に驚きを隠せない彼らだが、それ以上に驚かされたのはコウ自身だった。彼は自身の能力と向き合い、こんな変化を引き起こすことができた自分に驚嘆する。
「こ、これは……俺の力?」
とコウは自分の変態に目を見張る。セシーリアはなおも抗議するが、その目には僅かに微笑が浮かんでいた。彼女はコウがその力をコントロールできるようになることを期待し、彼を信じ応援てみることにしたのだった。
この出来事は、コウにとって単なる戦う力の発見ではなく、自分自身の可能性を見つける旅の始まりだったのかもしれない。
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戦闘の喧騒から少し離れた場所で、コウは自らのスキルが引き起こした変化に驚きを隠せなかった。それは、鍛錬と試行錯誤の結果として現れた新たな力への扉を開く出来事であった。同時に、彼の心の中でこれまで感じたことのない奇妙な高揚感が沸き起こっていた。
その最中、微かな違和感が彼の耳に届いた。
「なんだろ… 身体が熱い…」
という声。それは仲間である御輿が、地面に蹲りながら発したものだった。
コウはスキルの試みを即座に中断し、心配そうにミコシの元へ駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか!? ミコシさん!」
と声を掛ける。冷や汗を浮かべる彼の表情は、言葉にならない不安をコウに植えつけた。
それにもかかわらず、イルヴァとセシーリアは微笑ましそうにその様子を眺め、危機感を感じていないようだった。彼女らの態度に戸惑いを覚えるコウは、セシーリアに助けを求める。
「セシーリアさん! どうにかしてくださいよ! ミコシさんがこんなに苦しそうに…」
そこですぐに思い出したことがあった。
『そういえば、彼女の『ヒール』に『ライト』が同調していた…!』
ふとした思考が彼の脳裏を駆け巡り、次の手段として自信なさげにスキルを唱えることを決意した。
「ヒール…」
その言葉のもと、小さな光の玉が彼の手元に現れ、柔らかな光のヴェールがミコシの周りにじわりと広がった。光は彼女の身体に溶け込むように優しく浸透していく。その瞬間に見えたミコシの表情はほんの僅かな安らぎを見せたように思えたのだが…
「だ、大丈夫ですか? ミコシさん! 少しは良くなったりは… してなさそうですね…」
しかし、それに対する明確な応答はなかった。ただ、彼女の苦しげな息遣いが残るばかりで、コウの試みが功を奏したかどうかは判断できなかった。
その時、セシーリアが柔らかな声で声をかけてきた。
「ライトはおバカさんねぇ、今ミコシはレベルアップしているのよ!」
「レベルアップですか!?」
と彼は目を丸くする。予期せぬ言葉に動揺を隠せないコウに対して、イルヴァが補足するように言葉を続けた。
「うん。ミコシ、ボス1人でやっつけたから… レベルアップ当たり前。すぐ慣れるよ」
彼女は穏やかにミコシの頭を撫でていた。
「ハァ、ハァ、アッッッ…」
艶めかしい喘ぎ声、もとい、悶え声を出していたミコシを見ながら、年甲斐もなくドキマギしてしまうオッサン… 悲しい生き物だ…
しばらく経つとバシレウスのメンバーが集まってきた。
どうやら雑魚狩りは終了したようだ。
「おっ、やはりミコシはレベルアップしたのか! 身体は大丈夫かい? ミコシ?」
団長のアレクサンデルが嬉しそうに話しかけてくる。
「バァ〜〜〜! フゥ… はい、もう大丈夫です」
先ほどとは別人のように元気一杯になっている御輿。レベル2になった彼女の身体からは、以前とは違うオーラが感じられた。
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「それにしても、ライト...君のスキルは本当に【ライト】なのかね?」
ペトロネッラが興味深そうに光を観察している。
「今、君は【聖域】と【ヒール】を使っていたように見えたが...」
「え、えっと...よく分からないんですが...」
光は困惑しながらも、自分の中で起きている変化を感じ取っていた。このスキルには、まだ知られていない秘密があるのかもしれない。
「ふむ...ドロップアイテムとしての君たちは、我々の常識を覆すことばかりするな」
アレクサンデルが苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、56階層のベースキャンプまで移動しよう。そこで詳しく検証してみよう」
一行は階層主の部屋を後にし、ベースキャンプへと向かった。光と御輿の冒険は、まだ始まったばかりだった。




