10話 アラフォーおっさんと女子高生、ドロップアイテムとして異世界商人デビュー!
バシレウスギルドの会議室で、アレクサンデルが地図を広げながら説明していた。
「いよいよ57階層に拠点を移転する時が来た。58階層の攻略に備えるためだ」
ペトロネッラが冷静に分析する。
「56階層での情報収集は十分。次のステップに進むべきタイミングですね」
光は少し緊張していた。ついに本格的なダンジョン攻略が始まるのだ。
「兵站組のメンバーは明日から57階層に向かってもらう。既に地図は完成しているので、迷うことはないだろう」
アレクサンデルが参加メンバーを確認していく。
「ミラ、レオン、それから...」
「私も行きます!」
御輿が手を上げた。
「ミコシさん?」
光が驚いた。
「拠点設営の様子を配信したいの。視聴者の皆さんも興味を持ってるから」
御輿がスマホを見せた。前回の配信以降、フォロワー数が爆発的に増加していた。
「でも、危険じゃ...」
「大丈夫よ。兵站組なら戦闘はほとんどないでしょ?」
御輿が安心させるように微笑んだ。
「分かりました。でも、絶対に無理はしないでくださいね」
アレクサンデルが承認した。
翌朝、兵站組が出発する際、光は御輿を見送った。
「気をつけてね、ミコシさん」
「大丈夫。コウ君こそ、一人で無茶しちゃダメよ」
御輿がスマホを軽く振りながら笑った。
「動画撮影、頑張って」
兵站組の一行がダンジョンに向かう姿を見送りながら、光は自分も頑張らなければと決意を新たにした。
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御輿たちが拠点設営に向かっている間、光は自分を鍛えることにした。
「イルヴァさん、剣を教えてください」
訓練場でイルヴァにお願いした。
「いいよ。でも、手加減しないからね」
イルヴァが微笑みながら木剣を構えた。
30分後、光は地面に倒れていた。
「うぅ...強すぎる」
「ライト、まだまだ弱い。でも、少し上手になった」
イルヴァが慰めるように言った。
「ありがとうございます...」
光は立ち上がりながら、剣以外の戦闘方法を考えた。
『やっぱり【ライト】スキルを攻撃に使えるようにしたい』
光は【ライト】の応用を研究し始めた。
「攻撃に使うとしたら...男の子の夢、レーザービームだ!」
光は興奮した。SF映画で見るような、ビーム兵器を作れるかもしれない。
まず、【ライト】を複数個集めることを試した。5個、10個と集約していく。
「おお、明るさが増している」
次に、その光を圧縮してみる。ソフトボール大だった光が、集中することで米粒大にまで小さくなった。
「すごい密度だ...これに指向性をつければ」
光は指先に集約した【ライト】を向け、集中した。
「発射!」
タンっという甲高い音とともに、光線が岩に向かって放たれた。
岩を確認すると、直径1~2ミリ、深さ5ミリほどの穴が開いていた。
「やった!レーザービームができた!」
光は興奮して結果をイルヴァに報告した。
「すごいね、ライト。でも...」
イルヴァが申し訳なさそうに言った。
「この威力だと、ゴブリンは倒せないかも」
「え?」
「でも、1階層のスライムなら倒せると思う」
光はちょっとがっかりしたが、それでも自分のスキルで敵を倒せる可能性があることに希望を感じた。
「1階層に行ってみます」
「一人で?」
「誰も1階層なんて付いてきてくれないでしょうし」
イルヴァが困った顔をした。
「分かった。でも、危険を感じたらすぐ逃げてね」
翌日、光は一人でダンジョンの1階層に向かった。
初めての単独ダンジョン。心臓がドキドキしていた。
『大丈夫、1階層だから』
そんなことを考えながら慎重に進んでいると、ぷるぷると震える青い物体が現れた。
「スライムだ...」
可愛らしい見た目だが、これも魔物だ。光は申し訳ない気持ちを抑えながら、レーザービームの準備をした。
「ごめん...」
【ライト】を10個集約し、圧縮する。米粒大の光を指先に集中させ、スライムの中心部分に向ける。
「発射!」
タンという音とともに、光線がスライムの核を打ち抜いた。スライムはぷるぷると震えた後、溶けるように消えていった。
「やった...倒せた」
その瞬間、光る物体が地面に落ちた。ドロップアイテムだ。
「これは回復ポーション(小)かな?」
小さな瓶に入った青い液体だった。
光は興奮して、次々とスライムを探した。レーザービームの練習も兼ねて、50体のスライムを倒した。
結果、回復ポーション(小)が50個手に入った。
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ギルドに戻ると、イルヴァが心配そうに待っていた。
「おかえり、ライト。怪我はない?」
「大丈夫です。それより、見てください」
光が50個の回復ポーションを見せると、イルヴァが驚いた。
「たくさん倒したね」
「イルヴァさんの所有物だから、これは...」
「いいよ、ライトの好きにして」
イルヴァが微笑んだ。
「ありがとうございます」
光は早速、回復ポーションを売りに行くことにした。ギルドの薬屋で査定してもらうと、1個銀貨1枚、50個で金貨5枚になった。
「金貨5枚か...」
光は考えた。この異世界のお金を、どうにか有効活用できないだろうか。
その時、57階層から御輿が一時的に戻ってきた。
「コウ君、お疲れさま」
「ミコシさん、拠点設営はどうでした?」
「順調よ。動画撮影も順調だったし」
御輿がスマホの画面を見せた。視聴者数がさらに増えていた。
「実は相談があるんです」
光が事情を説明すると、御輿が目を輝かせた。
「それって、すごいビジネスチャンスじゃない?」
「え?」
「その金貨でスキルストーンを買って、日本で売ればいいのよ」
御輿が興奮気味に説明した。
「スキルストーンを欲しがる人は絶対にいるわ。それに、コウ君の【接続】スキルがあれば、直接お客さんのところに転送できるでしょ?」
光は目から鱗が落ちた思いだった。
「そうか...異世界と現実世界を結ぶ商売ができるんだ」
「そうよ!これまでになかった全く新しいビジネスモデルよ」
御輿がさらに提案した。
「私のSNSを使って宣伝もできるし」
「でも、法的な問題とか...」
「大丈夫。スキルストーンは地球には存在しない物質だから、法規制もない。むしろ、新しい市場を作ることになる」
光は興奮してきた。確かに、これは画期的なアイデアだった。
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翌日、光と御輿は街の魔法商店を訪れた。
「スキルストーンを買いたいんですが」
店主が興味深そうに応じた。
「どの程度のものをお求めで?」
「初心者向けの安いもので構いません」
光が金貨を見せると、店主の目が輝いた。
「それでしたら、これらがお勧めです」
店主が様々なスキルストーンを見せてくれた。
【火球】【水流】【突風】【岩壁】など、基本的な下級魔法のスキルストーンが並んでいた。
「金貨5枚でしたら、どれか一つ購入できます」
光は迷わず購入を決めた。
帰り道、御輿がスマホで配信を始めた。
「皆さん、今日は特別なお知らせがあります」
コメント欄が賑やかになった。
『何々?』
『新企画?』
『異世界ショッピング?』
「実は、異世界のアイテムを日本で販売することになりました」
コメントが爆発した。
『マジで?』
『欲しい!』
『いくら?』
『本物?』
「詳細は後日発表しますが、スキルストーンという魔法が使えるアイテムを販売予定です」
光も画面に映った。
「システムは簡単です。注文を受けたら、僕の【接続】スキルで直接お届けします」
『直接転送?』
『未来すぎる』
『Amason超えてる』
配信終了後、二人は興奮していた。
「これ、本当に成功するかもしれないね」
「でも、責任も大きいわ。異世界と現実世界を結ぶ最初のビジネスになるんだから」
光が真剣な表情になった。
「慎重に進めよう。でも、可能性は無限大だ」
その夜、光は一人で考えていた。
『異世界に来て、まさか商売を始めることになるとは』
しかし、これは単なる商売ではない。二つの世界を結ぶ架け橋になる可能性がある。
光の心に希望が湧いてきた。
翌朝、イルヴァがやってきた。
「ライト、何か楽しそうだね」
「実は、新しいことを始めようと思うんです」
光が計画を説明すると、イルヴァが興味深そうに聞いた。
「すごいアイデアだね。でも、気をつけて」
「はい」
「商売は戦闘と同じ。油断すると危険だよ」
イルヴァの言葉に、光は身が引き締まった。
「ありがとうございます。慎重に進めます」
午後、57階層から連絡が入った。拠点設営が完了し、58階層攻略の準備が整ったという。
「いよいよ本格的な攻略が始まるんだな」
光は窓の外を見ながら呟いた。
ダンジョン攻略と商売。二つの挑戦が同時に始まろうとしていた。
「頑張ろう」
光は決意を新たに、明日への準備を始めた。
その夜、御輿から連絡があった。
『コウ君、SNSの反響がすごいことになってる』
画面を見ると、フォロワー数がさらに増加していた。
『異世界商人』『スキルストーン販売』『魔法アイテム通販』
様々なハッシュタグがトレンド入りしていた。
「これは...想像以上の注目度だな」
光は興奮と同時に、責任の重さを感じていた。
『でも、やってやろう。異世界と現実世界を結ぶ、最初の商人として』
星空を見上げながら、光は新たな冒険への期待に胸を膨らませていた。




