1話 アラフォーおっさんと女子高生、ドロップアイテムとして異世界に奮い起つ!
39歳のおっさんがいた。
しがない契約社員、もちろん独身であり残業増し増しの週6日で会社と家を往復する毎日…
休日は家で寝て起きたらもう仕事に行く時間になるのだ。
趣味の料理をする時間も、最近は取れていないのが現実で…
今日も彼は仕事に行こうと、クルクル天然パーマの髪の毛を整え、安物のスーツを身に纏い、玄関のドアを開け重い足を踏み出す。
仕事の前にコンビニに寄り、朝ご飯のおにぎりと野菜ジュースを買うのが日課になっている。
「いらっしゃいませー あっ! おはようございます いつものおにぎりと野菜ジュースですね 216円になりますー」
女子高生くらいだろうか?
毎朝この時間帯にバイトをしている女性店員さんに眩しいくらいの笑顔を向けられ、どこか照れた様なぎこちない笑顔を返すアラフォーおっさんなのだが…
彼は特にロリコンではない。
ただ…
女性経験がないだけなのだ…
このような時に気の利いた言葉の1つでも返せる男ならば、既に結婚でもしてこの店員さんくらいの年頃の子供でもいたのかもしれない。
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彼は今日も黙々と仕事をこなし、また家へと帰路につく。
何時もと違うのは残業がなかった事だろうか…
駅のホームで電車を待っていると楽しそうな話し声が聞こえてきた。
どこかで聞いた事がある声だと思い、そちらの方へと目を向けると、そこには毎朝コンビニにいる店員の女の子が学校の制服を着て友達と何やら楽しそうにしているではないか。
『あっ、やっぱり女子高生だったんだ… 若いと思ったよ…』
心の中で苦笑いをし、自分に向けて見せる笑顔も良いが、やはり友達と楽しそうに笑っている姿は自然体で可愛らしいではないかと、少しだけ幸せな気持ちになるのであった…
だが、その幸せを噛みしめる時間はすぐ終わる。
けたたましい怒号と共に。
酔っ払い同士の喧嘩だろうか、ろれつの回らない感じのおっさん2人が、女子高生達の近くで取っ組み合いを始めたのだ。
ここで、あの女子高生を庇うように出て行ける様な男であるわけがないアラフォーおっさんは、喧嘩をしているおっさん達の近くで心配そうに怯えている女子高生をハラハラしながら見守る…
それしかできない小胆な自分を恨めしく思うのだった…
その時、酔っ払いのおっさんが相手のおっさんを殴りつける!
殴られたおっさんはフラフラとしながら女子高生にぶつかり…
女子高生はおっさんの圧力に耐えられず線路へと落下していく。
不条理…
見ているだけだったおっさんは、そんな事を考える前に勝手に身体が動いた。
女子高生が線路に落ちる前にキャッチし、クッションとなったアラフォーおっさんを褒めてあげてほしい。
普段、運動は通勤時に歩くだけの少しお腹が出てきたおっさんなのだ。
彼はこんなに素早く動いたのは何年ぶりだったかと線路上で考え込む。
「あの! ねぇってば! 聞こえてますかー!? 早くホームに上がらないと!」
可愛らしいが必死な女子高生の声が聞こえて、ふと我に返るおっさん。
何か言おうとした時、電車が到着する案内がホームに響く。
女子高生とおっさんは顔を見合わせ蒼白になっていった。
女子高生の友達はホーム上から、早く上がってくるように声を張っているが、2人には迫ってくる電車の音と自分達の心臓の鼓動が煩くて聞こえない…
「あっ… 痛いっ!?」
ホームに上がろうと立ち上がった女子高生は自分の足首を挫いてる事に気がついた。
喧嘩をしていたおっさんにぶつかられ、線路に落ちる直前に挫いてしまったのだろうか…
おっさんは迫る電車を前に、周りを見渡すが退避スペース等は見当たらない…
まだまだ全国の駅には設置されていないらしいく、この駅もその1つなのだろう。
咄嗟に女子高生を抱きかかえ、ホーム上にいる女子高生の友達に渡そうとするが間に合いそうになかった。
そのまま女子高生を抱えたまま、線路を走る!
涙と涎と汗を撒き散らしながら…
けたたましく電車のブレーキ音が響くが、その時は一瞬だった。
身体を引きちぎられているのか、圧縮されているのか解らなくなる衝撃を全身に受け、おっさんと女子高生は吹き飛ばされていく。
空中に舞いながら、おっさんと女子高生の意識だけがスローモーションの様にゆっくりと進み、ホーム上にいる人間達を見渡していく。
女子高生の友達は泣きながら目を背け、喧嘩をしていたおっさん達は驚いた顔をしながらへたり込んでいる。
『あぁ… 死ぬのか… 俺にもう少し若い肉体があったらな… この子を助けてあげられたのに… ごめんね… あっ! このまま女性経験なく終わるのか!? せめて1回くらい誰かと繋がってみたかったな…』
そんな事を思い、腕に抱く女子高生の温もりを感じた。
女子高生は、この危機的状況でおっさんに強く抱かれながら思う。
『こんなに、強く抱っこしてもらったの… 昔、お父さんにしてもらった以来かも…? こんなに優しい人なのに… 私が足、挫いたせいで巻き込んじゃったな… ゴメンなさい… 怪我なんてしない身体だったらよかったのにな…』
そして女子高生は、おっさんの胸に顔を伏せ最期の時を迎える準備をした…
その時、おっさんの目に映る情景が目まぐるしく変わっていったのだ。
駅のホームだったその場所に海辺が現れたと思ったら、山の麓になり、雪景色かと思えば、牧歌的な田畑に変わる…
何十、何百と風景が移り変わっていく中、おっさんは思う…
これは所謂、走馬灯なのではないかと。
だが、どの風景も思い出す事ができず、不思議に感じているとようやく風景が固定されていく。
電車にはねられてからどれだけの時間が経ったのだろうか?いや、もしかしたら全く時間は経過していないのかもしれない。
おっさんはクラクラする頭を抑えながら、自分の腕の中にいるはずの女子高生を恐る恐る覗き込んだ。
そこにはフルフルと震えているが、しっかりと息をしている女子高生がいた。
電車にはねられ宙を舞っていたはずの2人は、何故か抱き合い地面に座り込んでいる…
そんな事を気にとめる余裕などなく、おっさんは女子高生の無事が解ると大きく脱力し、仰向けになり安堵の溜め息をつきながら倒れ込む。
「はぁぁぁ… よかったーー 無事で!」
女子高生は何が起こり、自分達が助かったのかもまだ解らず、キョトンとして地面にへたり込んで疑問を口に出していた。
「えっ!? 何が起きたの? ここは天国?」
「天国じゃないよ! ここはダンジョン! 第57階層の階層主の部屋さ! ところで… 君達はドロップアイテムなのかい?」
女子高生の言葉に答える者がいた…
その声は、アラフォーおっさんの物ではない…
では、誰なのか?
時は少しばかり遡る。
ダンジョンと言われる第57階層の階層主の部屋を…
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「イルヴァ! 俺達が抑えている今だ! 奴に止めを刺すんだ!」
男が大声を張り、3メートルはあろうかと思われる牛の顔をしていて、大きく残虐そうな牛刀を携えているモンスターと剣を打ち合っている。
ミノタウロスと呼ばれているこのモンスターは危険度が高く、並みの者達では歯が立たない事で有名なのだが…
ギルド名、『バシレウス』それが、このダンジョン第57階層の階層主ミノタウロスと戦っている者達なのだ。
バシレウスには何十人もの団員が在籍しており、その全ての団員達の中で上位の強さを持つ数人がダンジョン攻略組と言われ、他の団員達は攻略組の為の兵站を整えるのが役目になっている。
攻略組以外の者達は社畜の様に働かせられているかと言うと、それは違うのだ。
『ダンジョンを攻略した者は、1つだけ何でも好きな願いを叶える事ができる』
その1つの願いを共にする者達が集まり、ギルドを作って下から上まで共に戦っているのがこのバシレウスだった。
そして、大声を上げて命令を出していたのがバシレウスの団長アレクサンデル、この精悍な顔つきをした偉丈夫が何十人もを束ねているヒューマンの男だ。
アレクサンデルは双剣を構え、その二刀で巨体のミノタウロスが振り被った牛刀を受け止める!
その衝撃で土埃が舞う中、ミノタウロスの背後から女騎士の装いをした者が叫ぶ。
「サンダースラッシュ!」
その剣には雷がまるで生き物の様に纏わりついており、驚異的な速さで振るわれたそれは、ミノタウロスの首に食い込んでいく!
首の切断ができなかったのは、けして彼女の腕が悪い訳ではない…
それ程にミノタウロスの肌は固いのだ。
だが、この【サンダースラッシュ】と呼ばれるスキルの特性は、その纏う雷!
ミノタウロスの首に途中まで食い込んだ剣から大量の紫電が迸っていき、ミノタウロスの身体の内部から焦がしてしまう…
目や口から煙と紫電が吐き出され、膝を着き崩れていくミノタウロスが大きな音を立て倒れた瞬間に黒い靄に変わり消えていく…!?
「おぉー やったぞい! イルヴァの【サンダースラッシュ】の習熟度もかなり上がってきたのぉ!」
大きないかつい声で叫ぶこの男は、バシレウスの攻略組の1人で、ドーグラスと言う。
その体躯は、ずんぐりむっくりとして髭もじゃな姿をしており、ファンタジー小説に出てくる定番の人種、ドワーフなのだ。
「うん、このスキルも随分使える様になってきたよ いつも鍛えてくれる団長と、ドーグラスのおかげ」
少しばかり素っ気ない言い方をする、女騎士の装いのイルヴァと呼ばれたヒューマンの女性は、ミノタウロスが黒い靄に変わった場所をじっと見つめる。
黒い靄は段々と晴れていく…
「おっ! 靄が晴れていくぜ! 階層主だからな! すげードロップアイテム落としてくれるんじゃねーか?」
「おい、ヴィダル! 今回はお前、ほとんど活躍していないではないか! それに止めを刺したのはイルヴァだ… ドロップアイテムの所持権はお前にはないからな!」
口が悪そうな言い方をするヴィダルと呼ばれた男は、頭に耳を生やし、尻尾を犬の様に振っていた。
彼は獣人と呼ばれる人種なのだ。
そして、後からヴィダルを窘めた、とても綺麗な顔立ちをしている女性はペトロネッラと言い、耳がヒューマンより長い、これもファンタジーの定番の人種、エルフだった。
ペトロネッラは『バシレウス』の副団長をしており、長寿な彼女は団員達の母親的な存在なのだ…
「けっ! 少しくらい、いいじゃねーかよ! 俺は今、新しい装備の為に良い素材探してるんだよ! まったくいつも通りペトロネッラはケチだぜ…」
「ほう… 誰がケチだと? 私がこのギルドの財政を担当しているのを忘れてはいないか? ヴィダルよ? お前の今月の給金は30パーセント減額の方向で検討しておこう」
ヴィダルとペトロネッラは言葉の掛け合い、じゃれ合いを楽しんでいた所、団長であるアレクサンデルが叫ぶ!
どうやら靄の様子が変だと…
消えかけた靄が1か所に集束していき、何かの形を象っていく。
バシレウスの攻略組の者達は、それぞれの武器を構え、靄の様子を伺う。
階層主を倒して浮かれていた気持ちの咄嗟の切り替えは、流石の攻略組といったところか…
だが、次の瞬間、団員達は唖然となる。
靄はいつの間にか、2人の人になっているではないか!
何かに怯える様に抱き合っている人物達の1人が、急に仰向けに倒れ込み何かを呟いていた。
アレクサンデルは、このギルドの知恵袋でもあり、副団長のペトロネッラに話しかける。
「ペトロネッラ… ドロップアイテムがヒューマンなんて話し… 聞いた事があるかい?」
「いや… 私も長い事生きているが、ヒューマンをドロップするなんて聞いた事ないぞ… 何が起こったのだ…!?」
アレクサンデルとペトロネッラ、団長と副団長の困惑は他の団員達に直ぐに伝わっていく。
その時、靄から出て来たもう1人の見た事もない服装をした少女が何やら話しかけてきた。
「えっ!? 何が起きたの? ここは天国?」
どうやら、少女は何が起きたか解らず、困惑している様子だ…
アレクサンデルは『バシレウス』を預かる団長として、彼女の問いに答えるのだった…
「天国じゃないよ! ここはダンジョン! 第57階層の階層主の部屋さ! ところで… 君達はドロップアイテムなのかい?」
アレクサンデルの言葉に、倒れ込んでいたアラフォーおっさんと呆けていた女子高生は声のした方へと視線を送り、アレクサンデルの顔とお互いの顔を交互に見る。
「「ドロップアイテム?? えっ!? 誰?? ここはどこおーー」」
おっさんと女子高生は声をハモらせ叫んだのだった…
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「なるほど… 君達は地球と言われる場所からやって来た異世界人と言う事か… 異世界とは信じ難いが… 嘘を言っている様には見えんしな… アレクサンデル、とりあえずこの者達の処遇をどうするかが問題だな…」
アラフォーおっさんと女子高生は『バシレウス』の面々から、特に副団長でありこのギルドの知恵袋でもある、ペトロネッラに事情を聞き取られていた。
2人は解る範囲で正直にこれまでの事を話したのだが、現在のこの意味の分からない現象を説明などできないし、『バシレウス』の団員達にも理解できている者はいなかったのである。
『バシレウス』の団員達が2人の処遇について話し合っている間、ポツンと取り残され手持ち無沙汰になってしまった女子高生はアラフォーおっさんに話しかけてみた。
「あの! えっと… 遅くなりましたけど… さっきは電車から助けてくれて、ありがとうございます!! 私は牧野 御輿と言います! 花よ○男子の、つ○しちゃんじゃなくて、みこしですからね?」
「・・・・・・・・・・」
アラフォーおっさんは何と返して良いのか解らず、ポカーンと口を開け固まる。
女子高生と言われる生き物の生態がよく解らないおっさんは、一生懸命考え答える。
「花よ○男子… けっこう昔の作品ですよね…? 若いのによく知ってますね!? あっ! えっと… 俺の名前は、大泉 光と言います… よろしくお願いします!」
何がよろしくなのかは不明だが、20才以上も歳の離れた女子高生にたどたどしく敬語を使う、アラフォーおっさん… これでも頑張って考えついた答えなのだ。
「おぉ~ 北海道が生んだ大スター! 大泉○洋さんですか!? でも、似てるのは天パーだけのような… あっ、私のお母さんが花よ○男子好きで全巻持ってるんですよー ドラマも面白かったし!」
女子高生のボケにアラフォーおっさんはつい、乗ってしまう…
「あっちの大スターは洋で、俺は光! それに、あの大スターの天パーは偽物で、パーマかけただけだから! ちなみに… お母さん… おいくつ…?」
「お母さん、今年で39歳ですよ? それよりも北海道の大スター、偽パーなんですか!? 衝撃の事実です!!」
「いやいや! 君のお母さんが、俺と同い年な方が衝撃の事実だからね!?」
女子高生は笑いながら、アラフォーおっさんとのやり取りをしている。
それは特段、バカにしている様子もなく、駅のホームで友達と楽しそうにお喋りをしていた時のような表情なのだ。
よく解らない状況に陥っているのに、こんなおバカな話しをしている2人は流石、危機意識の低い民族、日本人といったところか。
おっさんは思う…
こんなにも人と楽しく話しをしているのは、もう何年ぶりになるのかと。
そんな楽しい時間はすぐに終わるものだ…
『バシレウス』の話し合いが済んだようで、女性が2人に向かって足早に近寄ってくる。
女騎士の装いをしたその女性は、ポツリ、ポツリと話し出す。
「わたしは、イルヴァ 君達をドロップアイテムとして所持する事になったよ これ飲んで」
そう言ってイルヴァは、手に持った石ころにも見える飴玉のような物を2つ差し出してくる。
「「・・・・・・・・・・??」」
おっさんと女子高生は意味が解らず固まる。
「うん? はい これ… 飲まないとダメ」
手に持った飴玉のような、石ころのような物をグイグイと押し付けてくるイルヴァ…
そこに、その行為の説明をしてくれる者が駆けつけて来てくれた。
「ダメじゃないか、イルヴァ… ちゃんと説明してあげないと2人が困っているよ? 俺はこの『バシレウス』の団長をしているアレクサンデルって者だよ 2人とも説明不足でゴメンよ… この子、イルヴァは少し変わり者でね…」
団長と聞いて2人は少し緊張気味になる。
アレクサンデルは身長も高く、ガッシリとした体型で金髪イケメンなのだ。
ハリウッドスターと言われても2人は疑わないであろう…
「えと… 団長さんですか!? あっ、俺は、いや、私は、大泉 光と言います! 何が何やら解らなくて…」
たどたどしく挨拶をするおっさんをよそに、女子高生はハキハキと挨拶を交わす。
「私は、牧野 御輿と言います! ミコシが名前でマキノが苗字になります 状況がよく解っていないので、説明してもらえませんか? お願いします!」
アラフォーおっさんのなんと情けない事か…
20才以上も歳の離れた、娘でもおかしくない女の子がしっかりと要件を伝え、自己紹介もできると言うのに…
おっさんはそそくさと女子高生を真似て、深々と頭を下げ、アレクサンデルに説明を求めた。
そして、団長であるアレクサンデルは苦笑いをしながら話し始める…
まずは、何故2人の事をドロップアイテムと呼ぶのか?
それはモンスターを倒すとモンスターは黒い靄となり消え、その跡から魔石と言われる、この世界のエネルギー資源が得られるのだが、それと同時に貴重なアイテムが落とされている場合があるのだ。
ドロップアイテムが人間や、生物だった事は聞いた事もないのだが、モンスターを倒した跡に現れた2人は、ドロップアイテムとしか考えられないと『バシレウス』の面々は結論付けたのだった。
そして2人が現れる元になったモンスターに止めを刺したイルヴァに、2人の所持権を攻略組の賛成多数で与えた… いや、押し付けたのだ。
綺麗な見た事もない身なりをした異世界人…
この世界では、面倒な貴族にも間違われるであろう2人と、関わりを持ちたいなどと思う者は少ないのかもしれない。
それに、少々コミュニケーションに難を持つ、イルヴァを成長させてあげたいと親心をみせる年長組もいるのだが…
当のイルヴァは2人を所持する事に、まんざらでもない様子で、普段は見せないやる気を出し、気持ちが空回りしたのだとか…
それに、アレクサンデルの話しで1番重要な事があった。
イルヴァが差し出した、石ころのような飴玉のような見たこともない物体…
これはスキルストーンと呼ばれる物で、モンスターが落とすドロップアイテムの1つなのだ。
この世界にはレベルと言われる概念があり、レベルが上がる度にスキルストーンを1つだけ身体に吸収する事ができ、様々なスキルを使用できる様になる。
団長であるアレクサンデルは、人類最高峰のレベル8… 彼は8つものスキルを使いこなしているのだった。
粗方の話しを聞き、自分たちなりに思索する、アラフォーおっさんと女子高生。
「コウ君… 今の私達の現状からみて、この方たちに拾って貰うのが、1番安全を確保できる手段だと思うんですけど…? どう思いますか?」
この御輿、まだ高校生と若いのに現実を把握し、思考する能力は格段にアラフォーおっさんより優れているのであろう。
「う、うん! 悪い人達じゃない様だし… 俺も拾われたい!? 安全が保障されるならだけど…」
アラフォーおっさんの最後の言葉に、強く声を上げる者がいた。
それは『バシレウス』の副団長であるペトロネッラ。
「安全の保障などできるものか! ここを何処だと思っているのだ! ダンジョンだぞ!? 我々はお前達を無事に地上へと連れ帰る義務などない! 残念ながら、何のスキルも持っていない者が生き残れるほどダンジョンは優しくないのだ…」
ペトロネッラの迫力に、ビビり、後ずさりながら頭を何度も下げまくりの謝りまくりな情けないアラフォーおっさんであった…
「私達が生き残る為には、どうしたらいいんでしょうか? 私達はダンジョンとかモンスターとか存在しない世界にいたので… 知識不足のせいで、不快な気分にさせてしまっているのなら… ごめんなさい…」
女子高生は、アラフォーおっさんを庇い、素直に堂々と頭をさげる。
「ほう… お前は頭は悪くない上に良い気概がある様だな… 気分など害しているわけではないのだ… ただこれが現実だ… 恐らく、お前達の選択肢は2つ、ここで死ぬか、我々の… いや、イルヴァの物になって庇護を受けるか… それしかないだろうな…」
アラフォーおっさんと女子高生は顔を見合わせ、頷く。
「「俺達を、拾ってください!!」」
この異世界で、アラフォーおっさんと女子高生が、ドロップアイテムとして生き残る決意を奮い起こした瞬間だった。
だが、その決意はすぐ揺らぐ事になるのだが…
主に、アラフォーおっさんが…